第13話 エルディアの嵐②

共和暦215年10月1日 ロドリア共和国フロミア開拓州 首都ケベルス


「何が起きているというのだ!」


 ケベルスの開拓州防衛軍司令部にて、防衛軍司令官のゾルフス中将は怒鳴る。司令部室に複数設置されている通信席とスピーカーから流れてくるのは、幾つもの絶叫。


『こちら第29歩兵師団司令部、第58歩兵連隊との連絡途絶!指示を乞う!』


『第38歩兵師団直轄砲兵連隊、我敵爆撃機の攻撃を受けつつあり、空軍の援護を要請する!』


『第35戦闘航空連隊第2中隊との連絡が取れない!至急確認を求む!』


 多くの被害状況が持ち込まれてくる中、副官が話しかけてくる。


「中将、敵は戦線一帯で攻勢を始めた模様です。ですが後続には本国より派遣された部隊もおりますので、反撃は十分に可能かと…」


「ああ…だが、手柄は本国軍の連中に取られる事となる。スヴァン半島の方はどうなっている?」


「はっ…そちらでも敵軍が本格的な攻勢を開始しており、現在2個歩兵師団と『民族騎士団』が対応中です。空軍も本国や他の軍管区から送られてきた部隊で対応する事となるでしょう」


 首都サン・ペテロの最高評議会は、総力戦の態勢でフロミア大陸完全制圧を進める事を決定している。すでに増援として相当数の部隊がここフロミアへ送り込まれてきている筈だった。


 だが、その増援は間違いなく開拓州防衛軍に敗北者のレッテルを張り付けた上で、戦功を横取りしてくるだろう。ゾルフスとしてはそれが最も気に入らない事だった。


「くそ、エルディアめ…一体何を仕込んだんだ…!?」


・・・


共和暦215年10月2日 フロミア大陸中西部 グリン平原


「おのれ、見知らぬ蛮族どもめ!調子に乗りやがって!」


 グリン平原の一角で、師団長のギリウス少将は唸る。彼の率いる第30騎兵師団は、フロミア大陸方面に展開する陸軍部隊でも数少ない機甲師団で、C-97中戦車からなる戦車連隊が3個、装甲兵員輸送車で構成された歩兵連隊が1個、その他に砲兵連隊や偵察大隊などを含めた編制となっている。


 特に主戦力のC-97中戦車は100ミリカノン砲を有する後期生産型で、エルディア陸軍の主力戦車をも圧倒できると言われている。故にギリウス含む多くの将兵は、如何に奇襲で先手を取られようとも十二分に反撃できると思っていた。


 騎兵師団は伝令からの情報を基に、最寄りの第29歩兵師団へ救援に向かう形で進んでいる。最前線の飛行場は敵の先制攻撃で全て無力化されたと聞くが、フロミア大陸各地にはまだ複数の飛行場がある。反撃は可能な筈だ。


「間もなく、第29歩兵師団の防衛担当区域に入ります!」


 指揮車に同乗する兵士の報告を聞き、ギリウスは頷く。現在師団の先頭には偵察大隊所属のLC-95騎兵戦車を先行させており、相手の動向は直ぐに把握できる筈だ。


 と、その時だった。突如として地平線の向こうから幾つもの砲弾が飛来し、中戦車に次々と命中。幾つもの火柱が聳え立った。轟音が聞こえ、ギリウスは愕然となる。


「な、何事か!?」


 問いに答えられる者は皆無だった。そして彼らにとって悲劇は始まったばかりだった。


・・・


「攻撃開始」


 第30騎兵師団を襲った攻撃の正体は、第7特科連隊のUAVによるリアルタイム観測を用いた砲撃だった。


 99式自走りゅう弾砲より一斉に155ミリレーザー誘導砲弾が放たれ、30キロメートル先上空に展開するUAVが照射する地点に向けて飛翔。そして寸分の狂いも無く直撃し、敵戦車を一撃で破壊していく。


 しかも砲撃は第30騎兵師団の後方に集中的に着弾しており、後退はほぼ不可能だった。そうして砲撃から逃れるために、戦車と装甲車は前へと進んでいく。が、そこで待ち構えていたのは第71戦車連隊を構成する136両の10式改戦車だった。


「歓迎しよう、盛大にな!攻撃開始!」


 半円形の陣形で茂みに潜む形で待ち構えていた14両の10式戦車より、一斉に砲弾が放たれる。装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSが次々と戦車に突き刺さり、黒煙を噴き出しながら沈黙していく。


「くそ、卑怯な!迂回しろ、突っ込め!」


 何両かが敵戦車の背後を取ろうと時速40キロメートルで草原を駆ける。が、その目前に数両の戦車が現れ、倍近い速度であっという間に回り込んできた。その速度は余りにも速かった。


「訓練通りにやれ!撃て!」


 砲塔を回し、最新のデジタルコンピュータ制御による照準で敵戦車を捕捉。走行中、スタビライザーで揺れに対応し、砲撃を放つ。はたせるかな、砲弾は寸分の狂いも無く命中し、C-97中戦車は次々と撃破されていく。


「な、何だあの命中精度は!?」


 相手の攻撃に、多くの戦車兵が愕然となる。その間も攻撃は止まず、気付けば敵は一気に前進し、第30騎兵師団は磨り潰される様に攻撃を浴びていた。そして89式装甲戦闘車に34式装甲戦闘車も前進し、敵装甲車を35ミリ機関砲と40ミリ機関砲で攻撃。戦車に対してはミサイルを叩き込む。もはや勝敗は決していた。


 斯くして、『グリン平原の戦い』は陸上自衛隊第7師団の圧勝で幕を閉じた。

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