第12話 エルディアの嵐①

西暦2035(令和17)年10月1日 フロミア大陸西部 ロドリア空軍第28前線飛行場


 夜の帳が未だに空を黒く染める頃、飛行場は未だに静寂を保っていた。上空には哨戒飛行を行う2機のRG-1戦闘機がいるが、2基のターボジェットエンジンの轟音は基地の隊舎で惰眠を貪る将兵の妨げにはならない程に小さい。


「間もなく、攻勢が始まるんだよな…」


 滑走路の一角で、兵士の一人が呟く。目的はもちろん、夜間の見張りである。サブマシンガンを手に辺り一帯を見張る兵士達からは、生真面目そうな様子は感じ取れない。


「ん?」


 と、遥か高空で二つの爆発音が聞こえる。そして見上げると、二つの光点が煌めき、直後に滑走路に幾つもの火柱が聳え立った。


「な…!?」


「滑走路が…!?」


 兵士達は揃って目を丸く見開き、急ぎ飛行場へ戻ろうとする。が、直後に空から2機の巨大な航空機が現れ、仰角を上げつつあった30ミリ対空機関砲を銃撃。木端微塵にしてそのまま闇夜の中へ消えて行った。


・・・


『トラトラトラ!』


 パイロットの一人が声高らかに言う中、高倉は滑走路の周囲に目を向ける。遠距離から誘導爆弾を放り込んだとは言え、爆撃を生き残った対空砲やら地対空ミサイルでカウンターを決められる可能性があるからだ。


『フェアリー2、機銃掃射を開始する』


 直後、別の機体が低空へ降り、対空機関砲に向けて25ミリガトリング砲を発射。一瞬で木端微塵に吹き飛ばす。〈テンペスト〉の機銃はF-35A〈ライトニングⅡ〉が採用しているものと同型のガトリング砲で、威力は従来機の20ミリバルカン砲を凌駕する。


 そうして飛行場の滑走路と対空砲陣地を潰し、4機は上昇。上空を警戒する4機の味方と共に、陸上自衛隊第2空挺団の空挺部隊を乗せたMH-1〈ワイバーン〉と、それを護衛する僚機の到着を待つ。と、遥か高空より管制を行うE-767〈JWACS〉より無線が入る。


『他の三か所でも、味方が上手くやってくれたそうだ。陸自も、目覚ましとばかりに撃ち始めている!』


「これは、上手くいった様だな」


・・・


「撃て!」


 特科大隊指揮官の号令一過、15門の榴弾砲が一斉に火を噴く。それが地上における合図であった。


 陸上自衛隊東部方面特科連隊は、『東アジア戦争』後に増強された部隊の一つである。海上自衛隊と航空自衛隊の対地攻撃能力増強と極超音速誘導弾の開発が行われたと言えど、むしろ沖縄を巡る地上戦にて空中輸送可能な重砲の価値が上昇し、国内での魔物討伐戦でも電子戦に等しい魔法で誘導兵器から逃れてくる魔物を仕留めるのに155ミリ榴弾の破壊力が重宝された事から、19式装輪自走りゅう弾砲の西部方面隊への優先的配備と並行してFH-70牽引式榴弾砲の再生産が実施されていた。


 海自の護衛艦や空自の戦闘機が対艦戦闘と防空戦闘に集中している最中、自力で敵陣地に向けて火力投射を行わなければならない第1空挺団と水陸機動団に優先的に配備されたが、東部方面隊直轄の特科連隊も1個特科大隊を増強するべく再生産分を受領。3個大隊編制で十二分な火力を有している。そして今回の作戦では、1個大隊が抽出され、ここフロミアにてその絶大な火力を発揮していた。


 対するロドリア陸軍砲兵部隊は、完全に虚を突かれた形であった。『人民解放戦争』の初期ならともかく、西フロミアの飛行場が充実した現在、長距離の火力投射手段は空軍が独占している状態であり、射程距離が20キロを超える重砲は軍団直轄の砲兵連隊にて運用されている。が、その砲兵連隊は戦線の遥か30キロ後方であり、師団隷下の火砲は射程距離が20キロ未満の100ミリ榴弾砲や155ミリカノン砲ばかりだった。


 故に、最前線と砲兵部隊は30キロ先から飛んでくるロケットアシスト式榴弾の驟雨を浴びる事となった。さらにそこに追い打ちをかけたのが、最前線に張り付いた部隊の重迫撃砲による砲撃だった。


 大量の120ミリ砲弾が陣地や自走迫撃砲から放たれ、塹壕内で身を潜めていた歩兵達や、半円形の塹壕で直接射撃に備えていた歩兵砲の真上に落下。そして破壊力を直接叩き込んだ。


 この惨状を把握できる者は、ロドリア側には皆無だった。砲撃は続き、数分のうちに戦線は崩壊した。そうして最大の障害を物理的に排除し、司令部は命令を発した。


『全部隊、前進せよ』


 号令一過、西へ通じる街道上を、広大な平野を、百両以上の装甲車両が進み始める。戦線を西に進む事数分後、塹壕を目視に捉えるや否や、10式戦車と16式機動戦闘車は砲撃を開始。それを合図としてAMVや96式装輪装甲車から次々と陸自隊員が降車し、戦車の周囲に集まる様に進む。


「て、敵戦車だ!」


「撃て、吹き飛ばせ!」


 ロドリア陸軍の生き残りは、目視で敵の姿を捉えるや否や、即座に応戦を開始。至る所から機関銃の猛射と携帯無反動砲の砲撃が飛んでくる。が、無反動砲の砲撃は爆発反応装甲に相殺され、お返しとばかりに多目的榴弾を発射。機関銃は銃手もろとも吹き飛ばされた。


『突撃!』


 多目的アンドロイドの指揮官型が電子音を鳴らし、小隊規模が先陣を切って駆け出す。もちろんそれらに対してロドリア軍兵士は発砲するが、無機物の身体とそれを覆う防護装備は銃撃を耐え、ただひたすらに前進する。


「奴ら、不死身なのか!?」


 ロドリア陸軍兵士は負傷を気にすることなく突っ込んで来る敵兵に震え上がる。そして塹壕に到達するや否や、多目的アンドロイド群は小銃を振り下ろす。20式小銃の銃口下部に装着した89式多目的銃剣は、ボディアーマーを身に付けていない敵兵を容易く切り裂き、マニピュレータの剛腕は相手を容易く気絶せしめた。

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