第11話 作戦開始

西暦2035(令和17)年9月30日 日本国東京都千代田区


 都内の千代田区にある神田明神に、十数人のスーツ姿の人々が集う。その中心には矢口の姿もあった。


「…ここに参る人も、随分と多様化しましたね」


 参詣を終え、補佐官の一人が呟く。矢口はその言葉を聞き、改めて一般の参拝者達に目を向ける。


 普通の日本人はもちろんの事、『転移』にそのまま巻き込まれてしまった外国人や、10年前に異世界から日本へ逃れてきた元難民とその子供達の姿。これが今の日本の社会に住まう者達であった。


「それに、信心深い人達も増えてきました。まぁ『霊災』に対して無策でいる訳にもいきませんし、自分達が死後『霊災』の原因にもなるわけにはいきませんからね」


「うむ…」


 現代日本において、宗教の在り方と社会問題の放置の恐ろしさについて考えさせられる事件が起きたのは10年前。北海道の旭川にて、『一般人』数名と北海道警察の警察官数名が全身氷漬けになり、四肢が凍傷してしまうという『霊災』が起きたのだ。


 当時は『霊災』とはどのようなものか具体的に把握されていなかったのもあって、メディアは『謎の怪奇現象』とバラエティのホラーなネタとして扱ったものの、SNSにて旭川の高校出身者と市教育委員会の者達が被害者である事が知れ渡り、直後にメディアの関係者も同様に氷漬けの被害に遭う様になると、世間では『令和の菅原道真』と真の畏怖の感情をこめて呼称される様になった。


 その数年後、市の郊外に一つの神社が建てられた。建設費は氷漬けになった者達とその親族から出され、メディアも大々的に報じた。この当時は『霊災』が日本各地で頻発しており、人々は真剣に神頼みしなければならなかった。


 故に、『転移』から間もなく1か月が経とうとしている時、戦争に対する不安もあって参拝者はひっきりなしに訪れてきている。市民の多くは首相が靖国神社ではなくここ神田明神へ参詣に来ている事に驚いている様子だったが、この神社に祭られている平将門たいらのまさかどは、厄除けの神様として奉られている。この場合の『厄』とは何か、言うまでもなかった。


「…初撃は確実に決めよう。私達政府には、現場で戦う自衛隊を、無事に本土へ帰還させるという責任がある。戦争は直ぐに終結させ、平和を取り戻そう」


・・・


西暦2035(令和17)年10月1日深夜 エルディア王国中部 レヤード飛行場


「総員、傾注。これより作戦指令書を開封する」


 陸上自衛隊施設科の奮闘によって敷設されたローカルネットワークを介し、航空宇宙自衛隊第307飛行隊の面々はブリーフィングに参加する。彼らの手にはタブレット端末が持たされていた。


「これより、フロミア大陸平和維持作戦計画、『エルディアの嵐』作戦を説明する。我が第307飛行隊がこれより攻撃するのは、ここから西に600キロメートルの地点にあるロドリア空軍の野戦飛行場だ。UAVによる長距離偵察の結果、20機程度の軍用機が配備されている事が分かった」


 高倉はそう説明しながら、タブレット端末を操作して地図に複数のマーカーを投影する。


「作戦開始時刻は0530、精密誘導爆弾による爆撃で滑走路を破壊し、上空に展開している敵戦闘機を全機撃墜。電子戦機によるジャミングで通信妨害を実施したタイミングで、陸上自衛隊が総攻撃を開始。戦線を構築している4個歩兵師団を壊滅させ、戦線を西へ押し上げる。それから先は機甲部隊を優先的に攻撃し、エルディア軍の西進をサポートする」


 此度の戦争の主役は、あくまでもエルディアである。故に自衛隊に求められるのは、エルディアの負担を軽くする戦い方であった。


「攻撃はほぼ同時多発的に実行する。調子に乗っているロドリアの連中の鼻を、根本からへし折るぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る