第7話ー①「どうでもいいよ」
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小6の6月下旬の湿った雨が吹き叫ぶ公園で、アタシは晴那との11回目の喧嘩を行う為、公園に呼び込んだ。
ヤツを砂場に押し倒し、馬乗りになって、これまでの恨みを晴らすように、殴り続けようと決めた。
「何で、殴って来ないんだよ、てめぇ」
これまでは、ワンパンで殴り続けていたのに、晴那はやり返すことは無かった。 「勇者気取りか、ふざけやがって・・・」
あたしは殴ることが出来なかった。
「てめぇの所為だ、晴那。てめぇの所為で、アタシの人生は滅茶苦茶だ」
殴ろうと考えれば、考える程、拳を上手く握ることが出来なかった。
雨の所為で、体が冷えて行き、体力と思考が削られていく。
「てめぇさえ、居なければ・・・てめぇがいなけりゃ、最強はアタシだったのに・・・」
やっと、恨みを晴らせると思っていた。やっと、アタシはコイツに勝つことが出来る。
そう思っていたはずなのに、どうして。
「返せよ、返せよ、返せよ、アタシの人生!!」
本当はそんなことどうでも良かったんだ。本当はどうでも良かった。
本当はおめぇに笑って欲しかったんだ。
その時だった。
その時の笑顔をアタシは忘れることが出来ない。
あいつは、挑発するような不敵な笑顔で笑っていたのだ。
言葉を発するわけでも、何をするわけでもない。ただ、笑っていたのだ。
「なんで、笑ってるんだよ?何だ、てめぇ、そのツラ」
怖かった。体が強張る程、怖かった。 思い出す度に体が強張り、何もかもが壊れてしまった。
「やめろ、やめろ、やめろ、やめてくれ、そのツラで笑うなぁぁぁぁぁぁ」
非力な小娘の力の抜けた形だけの拳を振りかざそうとしたその時だった。
駆け付けて来てくれたのは、晴那のお袋さんがアタシの手を止めてくれた。
「華ちゃん・・・」
「火輪さん・・・」
傘を捨て、ずぶ濡れになってでも、アタシを抱きしめてくれた火輪さんが、アタシを人間に留めさせてくれたんだ。
「もう、いいんだよ。もう、いいんだよ。泣いてもいいんだよ。辛かったね・・・苦しかったね」
「ちが・・・ちがうよ・・・。アタシは晴那を傷つけた。怒ってよ・・・おこってよ・・・。アタシはひどいことしたんだよ。なんで・・・なんで・・・。なんで、なんでよ・・・。なんで、怒ってくれないの?」
火輪さんはその後、何も言ってくれなかったが、彼女の温もりをアタシは死ぬまで忘れないんだろうな。
その後、アタシは警察と両親にしこたま怒られた。
怒鳴るばかりで、アタシに目線を合わせようともせず、自らの正論振りかざす奴らの言葉なんて、アタシには何も響かなかった。
もう・・・何もかもがどうでも良いんだ。もう、何もかもがどうでも良くなっていた。
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