第7話ー②「どうでもいいよ」

2


現在


 「何やってんの?2人とも」 

 9月に入った休日の早朝。 

 いつものように、ランニングをしていた帰り道。公園に立ち寄ると妃夜と中村の2人が、楽し気に談笑していたのだった。


 「なんで、おめぇがいるんだよ・・・。晴那・・・」 

 妃夜は困惑の表情を浮かべていた。  


 「お前には聞いてない。何で、妃夜がここにいるかって、聴いてるんだ」


 「私は・・・」


 「やめろ、晴那。悪いのは、アタシなんだ、こいつは」


 「妃夜の髪を引っ張っておいて、何言ってんの?そんなんで、許されると思って」 どうして、こんな言葉が出て来たのか、あたし自身、よく分からなかった。 

 妃夜を守りたかったのか、それとも、取られると思っての嫉妬だったのか。 

 どちらにせよ、言葉は一度出てしまえば、取り返しがつかないことをその時、あたしは再認識することとなる。


 「うっざ」


 「妃夜?」


 「羽月?」 

 同じタイミングで話した中村とあたしに彼女は冷たい表情で、言葉を発した。


 「あんた、私の何なの?何で、あんたの許可が必要なわけ?」


 「だって、こいつは」


 「私だって、許してない。許せるわけないでしょ」


 「すまん」


 「謝らないで。謝って欲しくて言ったんじゃない」


 「だったら」 

 まくしたてるように、言葉を交わすあたしの限界はすぐそこまで近づいていた。


 「過去は過去、今は今。私は変わりたいの。私は髪を引っ張った中村じゃなくて、今の中村と話しているの」  


「妃夜・・・」 

 言い返せなかった。彼女は変わろうとしていた。 

 変わろうとしていた彼女をあたしは遮ろうとしていたんだ。


 「あなたと中村に何があったか知らないけど、いちいち、介入しないで」 


 「やめろ・・・。その言葉は」


 「何だ、それ?」 

 あたしの中で糸がプツンと切れる音がした。何かが、壊れた気がした。


 「お前、何様のつもりなんだよ」 


 「暁?」


 「もう、知らねぇよ。お前のことなんて、もう・・・どうでもいいよ」 

 あたしは逃げ出すように、全速力で公園を飛び出した。 

 あたしは、放さないと決めたその手を自分で振りはらった。 

 あの時と変わらない。 

 目頭の熱さに比例するように、情けない惨めなあたしは自分の特技でしか、自分を表現することが出来なかったんだ。


 「ばかひよ」

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