第6話ー⑦「こういう時間」

7


 あたしは、妃夜にメッセージアプリで連絡を入れることにした。 

 部活帰りに、会おうという約束だ。


 「暁せんぱぁい、何故、頬を緩めているのですか?」


 部室で着替える最中、櫻井があたしに絡んで来た。


 「何でも」


 「先輩、もしかして、話題の方とデートでもするんですか?」 

 櫻井の鋭い指摘に、部室がざわつき始めた。


 「だったら、何?」


 「つまらないですね。もっと、ひえぇとか、ふへぇぇみたいなの期待していたんですけどね」


 お前の方がつまんねぇよと言い返したい思いを捨てて、あたしは服を着替え終え、部室を後にした。


 部活中は、相変わらず、やる気を見せなかった櫻井だったが、それでも来ないよりかは、マシだ。 

 これでも、一年では実力者だから。


 部活を終え、あたしは鍵を朝に託し、今日は退散することにした。


 自転車を漕ぎだし、すぐさま彼女がいるコンビニへと漕ぎ出して行った。


8


 「お待たせ!ごめんね、色々立て込んじゃって」 

 コンビニ前に律儀に待機している妃夜を見つけ、あたしは何処か、浮足立っていた。


 「いいんだけど・・・。話って、なに?」


 「息抜き」


 「息抜き?」


 「何か買おうか?」 

 暁はスマホを取り出した。


 「いいよ、別にいらない」


 「いいからさ」 

 会っていなかった時間を埋めたかったあたしは、奢ることで、許して貰うことにした。 

 その結果、彼女の好物であるプリンを購入することとなった。


 コンビニを出て、あたしと妃夜はお互いの自転車を押して帰ることにした。


 「買い食いする?」


 「絶対イヤ」


 「いうと思った」 

 色んなことがあったけど、あたしはいつも通りの自分を演じることにした。 そうでもしないと自分がおかしくなりそうだったから。


 「ねぇ」


 「朱音から聴いた。夏祭りの件で怒ってるんでしょ?」


 「怒ってるわけじゃ・・・」 

 妃夜の百面相には、少しばかり元気が貰える気がした。 

 彼女が何を考えているかは、分からないけど、嫌じゃないと言うことだけは、理解出来るから。


 「まぁ、いいや。聴く?あの時、何があったか?」 

 あたしの質問に、迷いながらも、妃夜は答えを出した。


 「やっぱ、いいか。その時じゃないよね」


 「いや・・・。うん、やっぱり、今じゃない気がする。今は聞かないでおく」


 「そうだね」 

 あの時のこともそうだ。あたしは知らないといけない。 あの時の彼のことも、間宮さんが知っていることも。 

 どんどん、下方気味のあたしに、妃夜は優しい語り口で話し始めた。


 「全国残念だったね」


 「もしかして、気遣ってたの?」 

 照れるキミの姿にあたしは、考えることが、少し馬鹿馬鹿しくなり、頬を緩ませていた。


 「いいよいいよ。終わったことだし、まだまだこれからだし」


 「そうかもしれないけど」


 「それより、今の方が辛いなぁって」 

 妃夜との時間は大切だ。 部活部活で頭がパンクしそうなあたしには、こういう時間が必要なんだ。


 「部長なんだけどさ。全国はレベルが高いし、他の部員の面倒とか、先生には怒られてばかりだし、ОGはうるさいし」


 「大変なんだね」


 「大変だよ~。今日はバックレて来たし」


 「はっ?」


 「冗談だよ、冗談。今日は短い練習だっただけ。オフもあるけど、勉強もしてるし」 少し固まる妃夜だったが、最近のあたしをキミに教えたかったから、本当の話をすることにした。


 「冗談でしょ?」


 「本当だよ。石倉先生に、取り続けろって言われてさ」


 「そうなんだ・・・」 

 先ほどまでの表情から一転して、今度は妃夜が下を向き始めた。


 「暁は凄いね」


 「ん?何が?」


 「そんなに頑張れて、私なんて」


 「そう思わせてくれたのは、妃夜のお陰だよ」 

 あたしは自転車を止め、妃夜に目線を合わせた。


 「妃夜はいつも頑張っているからだよ」


 「私は頑張ってはいない。いつも、誰かに守られてばかり、暁みたいにはなれない」


 「何言ってんだよ。自分は頑張ることしか出来ないって、言ってたの何処のだれ?」 この言葉に、キミは見ているこっちが恥ずかしくなる位、動揺していた。


 「あの時はあの時、今は今。人は変わるわ」


 「めんどくせぇ」 

 切れの悪い妃夜の言葉に、あたしは面倒になったので、言い返した。


 「うっざ」


 「やっと、調子上がって来たんじゃない?やったやった」


 「何よ、それ」


 「もっと、自分を好きになりなよ」


 「あなた、本当に暁?気色悪いんだけど」


 「気色悪いって言われるの心外なんだけど・・・」 

 自分でもそう思う。今日のあたしはどうかしている。 

 未だに天の言った言葉を理解出来てないし、自分でもどうしていいか、分からないことだらけだった。


 「やっぱり、妃夜と二人三脚したかったなぁ」


 「嫌よ、いくら運動しているとはいえ、あんたと一緒に歩くなんて、絶対イヤ」


 「そういうなよぉ~。練習しようぜ」 

 ダルがらみをするのは、明るく笑うキミが好きだから。


 「お断り致します。あんな密着した状態で歩くなんて、絶対イヤ」


 「そんなぁ~」 

 あたしは妃夜が好きらしい。 

 それが恋心なのか、人間としてなのか。いつまでたっても、分からないことだらけだ。 

 それでもいいと思えたのは、きっと、こういう時間が今のあたしには必要で、大変な時だからこそ、大切にしたいと思える。 

 あたし達は再び、歩き出す。とりあえず、家を目指して。

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