第6話ー⑥「こういう時間」

6


 昼休み、ミーティングを終えたあたしは、一路保健室に向かった。


 「失礼します」 

 保健室に入るとそこには、ベッドで横になっている間宮さんの姿があった。どうやら、彼女一人のようだ。


 「来ると思ってたよ」 

 まるで見通していたかのような冷たい声があたしの心に突き刺さった。


 「あれって、どういうことなの?」


 「さっきの二人三脚ですか?」


 「なんで、あたしを巻き込んだの?」


 「ごめんね」


 「謝らなくてもいいよ。怒ってないし」 

 何処か、弱気な間宮さんの表情は、胸が締め付けられるようだった。


 「そう・・・なんだ・・・」


 「うん・・・」 


 「わたしね・・・。ひよちゃんが好きなんだ」


 「そうなんだ・・・ひよちゃん?」 

 彼女のさも当然の如く、打ち出された言葉にあたしは面食らった。


 「もちろん・・・LIKEですよ、LIKE」


 「妃夜とどういう関係なん?」 

 間宮さんは瞳を閉じた後、再び口を開いた。


 「小学校の同級生です」


 「あっ・・・そうなんだ」 

 一体、何処をどう、突っ込めばいいか、分からなかった。 

 きっと、彼女もあたし達の関係性を穿った目で見ているんだろうな。 

 そう思った矢先、間宮さんは口を開いた。


 「ひよちゃん、良かった。本当に良かったよぉぉぉ」 

 間宮さんはいきなり、大粒の涙を流し始めた。  


 「間宮さん!!!だいじょうぶ?」


 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんんん、よ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」 

 必死に泣き叫ぶ間宮さんにあたしは終始圧倒されるばかりだった。


 「えぇ・・・」 

 結局、肝心の話を聴けないまま、あたしは保健室を後にしようとその場を退散しようとした時だった。


 「もう・・・手は放しちゃダメだよ・・・」


 「う・・・うん・・・」


 あたしは保健室を出て、教室に向かった。 

 その時、確信したことがある。それは確かな自信と言ってもいい程のことだ。間宮さんは、普通の人だと言うことだ。 

 頭が良いとか、体が弱いとかじゃない、何処にでもいる普通の人なんだ。 

 話をはぐらかされたのは、彼女の真意を追求されたくなかったからなのか、演技なのか? 

 あんな泣いた人間がLIKEなわけがないと思ったが、会う前より、彼女の本心が分からなくなってしまった。


 だからこそ、今やるべきことは、ただ一つ。 

 間宮さんのことじゃなくて、今やらないといけないこと。それは、妃夜の手を掴むことなんだ。 

 あたしは、再び、彼女の為に頑張ることを決心した。それが、自分勝手な行動だとしても。


6.5


 あーあ、泣いちゃった。本当は一人で泣きたかったのにな。


 暁晴那、彼女はわたしが欲しい物、全てを持っている。 

 だけど、臆病なわたしには、どう足掻いたって、ひよちゃんの隣にはいられない。 

 真っ暗闇のようなこの世界に輝く一筋の光。 

 どれ程、暗く希望も絶望も、何もかも飲み込み続けるこんな世界であっても、わたしはあなたの光で動き出す。

 こんな大うそつきのわたしには、ひよちゃんは眩し過ぎて、消えちゃうよ。 

 だから、言えないよ。言いたくても、言えないよ。 

 わたしの思いが、わたしの好きがひよちゃんに届きませんように。


 わたしはまた独り、布団の中で声を押し殺し、涙を流し続けた。

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