第1話ー①「みんな」

羽月が学校を休んだその日、あたしの中学でこんな噂が流れた。

 中村と梶田が秀才様を襲った。暁と朝もその喧嘩に加担して、病室送りにしたらしい(いや、保健室には送ったけど) 

 暁晴那が、三組の春日と若林と大喧嘩して、春日は大泣き。

 自らの楽器をぶっ壊した(勿論、嘘)。 

 加納さんが、中村と梶田を病院送りにした。加納さん、この中学の裏番説。(加納さんはその噂を大そう、お慶びになられたとか)


 こういう噂は小学校の頃も流れたし、中一の時も流れた。


 ムカつきはするが、どうでも良かった。 

 正直、どうでも良かったとまでは言わないが、こういう時に噂を信じない友人がいるととても頼もしい。


 矢車天の場合


 「くっだらないですわ。そんな噂よりも、何故、私の噂は流れないのかしら?」


 「いや、いつも、登下校時にサングラス、マスク、日傘、帽子にアームカバーしてる不審者って、言われてるの知らないの?」


 「黙ってなさい、朱音。少しの日焼けが、命とりになるの!私の美しいこのお肌に少しでも、焼けたら、世界の危機なのよ」


 「もう、黙って・・・」


マリー・ライナーの場合


 「ワタシ、ウワサワカリマセン。ウワサスルトナニカイイコトアルデスマスカ?オシエテモラエルトウレシイデスマス」


 「いつの外タレだよ、それ」


朝詩羽の場合


 「うん・・・」


 「言わせねぇよ。っていうか、何で茜がツッコミ?茜の意見は?茜にこそ、話を聴くべきでしょうが!」


 「お前が一番そういうのに流されそうだからじゃない?」


 「お前言うな、一度も話したことないクセに」


 そんなこんなで、あたしのウワサを鵜呑みにする奴は一人もいなかった。


 あたしも同じ気持ちだったけど、けれどあたし以上に羽月の根も葉もない噂の方が、質が悪かった。


 秀才様、気絶したのキモくない?


 やめとけよ、それ言うと暁晴那がブチ切れるらしいから、禁句。


 しかも、二回も気絶したって、マ?ヤバくない?


 秀才様、暁晴那が好きらしいよ?だから、気を引くためにわざと気絶したらしいよ?


 気絶って、そんな簡単に出来るの?


 気絶なんてするわけないだろ?演技演技、ウケ狙いの姑息な罠だよ。


 そこまでして、秀才様、暁さんが好きなの?気持ち悪いな、二度と学校に来なければいいのに。


 「むっかつく。何なんだよ、どいつもこいつも、変な噂流しやがって」」


 私は朝との部活帰り、2人で今日の反省会と称し、語り合っていた。

 議題は勿論、くだらない噂に対するストレス発散だった。


 「相手にすんなよ、面倒くさい。言いたいヤツには言わせておけよ」


 朝は人に対する関心が薄い為、そういうことを言われても、全然傷つかない傾向が強い。


 「あたしは自分のしょうもない噂なんて、どうでもいいの。だけど、羽月が」


 「深入りし過ぎ、過保護過ぎ、やり過ぎ」


 「だってぇ」


 「きっと、羽虫も気にしてないよ。そんなことより、期末」


 「それ、本気?冗談?冗談だったら、笑えないな」


 あたしの朝に対する目は本気だった。仏頂面の朝の顔も、何処か、申し訳なさそうだった。


 「すまん、名前覚えられなくて。パッと出て来たのが、それだった」


 「分かってる、朝が人の名前を覚える気がないってこと。けど、あたしは」


 「善処する。期待するなよ」


 「期待はしてないよ、信じてはいるけど」


 あたしの心に余裕なんてものは無かった。いつもなら、笑い飛ばせたはずなのに。 

 羽月の為に、あたしは何が出来るのか?あたしは彼女の力になりたい。例え、その結果がどうなったとしても。

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