プロローグ‐②

 3

 次の英語の先生に、羽月さんが休むことを伝え、わたしは席に着いた。 

 親御さんが迎えに来るとのことなので、羽月さんは帰宅する運びとなった。


 あたしも気になったが、邪見にされそうだったので、諦めた。 

 放課後、掃除当番だったので、掃除をしているとちょいちょいと手招きする石倉先生に、私は呼び出された。


 「さっきは、すまん。本当にすまん!今度、ジュース奢るからさ!」 

 「それよりも、アレは・・・。」 

 「ズルい、茜も聞かせてよ」  


 割り込もうとする茜を静止したのは、朝だった。 


 「鼻つまんでいい?」


 「あっ・・・。はい」

 そそくさとその場を後にする茜は、マリーと天の下へと戻って行った。


 「先生、今日のアレは・・・。」

 「それは、ここじゃ、アレだし、職員室行くか。加納、任せるぞ。」 

 「えぇ~、いいけど」

  加納さんはいい人だ。素直に尊敬に値する。


 教室を後にして、あたしと朝は、先生と共に職員室に向かった。

 その間、朝は何処からともなく、おにぎりをむしゃむしゃと頬張りつつ、先生の話に耳を傾けた。


 「羽月は、体に触れられるのが、苦手なんよ。その所為で、いつも他人と距離をとっているらしくてな。今回は、中村と梶野に絡まれてな。まさか、髪引っ張るなんて」


 「あいつら、何やってんだよ。女子の髪の毛を引っ張るなんて」

 「知り合いか?」

 「あんなの知り合いじゃないですよ」


 中村は、一緒に陸上教室に通っていた同級生だった。 

 やっぱり、こうなったのは、あたしの所為なのかな? 


「とりあえず、これから、私はカバンとかを保健室に届けるついでに、羽月に会って来る。このことは他言無用な」


 「いいんすか、アタシらに言って。部外者じゃ?」

 朝の言うことは正しい。それは私も思った。 


 「あれを説明しないで、誤魔化すのは気分が良くない。何より、羽月の為にもならん。君達は信用できるから話しただけだ。」


 先生は、何処か分かってるような、分かってないような口調で、下駄箱付近で別れた。


 「顔」 

 「ん?」


 少しばかり、あたしは顔をしかめていたらしい。良かれと思っていたが、羽月さんに気を遣っていたのが、裏目に出たようだ。


「もしかして、やらかした?あたし?」 

「それは、受け取り方次第っしょ。どうでもいいよ。それより部活」


|「そうだね、急がなきゃ」


 あたしたちは、急いで部活へと赴いた。


 4


 翌日、朝練が終わり、今日は早めに終えて、私は教室に向かった。


 すると羽月さんは、加納さんと共に、ノートを書き取っていた。 

 あたしはいつものように、おはようと呟こうとすると背後から、引き寄せられるような圧迫感のある中学生とは思えない発達したものを押し付けて来た。


 「おはよう、Morning!晴那!今日もfine?」 

 「お、おはよ・・・。元気元気!超元気!」


 完全にタイミング逃した~。とりあえず、離れなきゃと思ったが、マリーは全然離す様子は見られない。 

 「fibだ」 

 「ん?そうそう」 

 「嘘って、意味よ」 

 日傘と手袋、マスクを外す天の姿はいつ見ても、引いてしまうが、的確な解説には恐れ入るばかりだ。


 「そうなんだ、おはよう」 


 「晴那らしくないわね。朝でも鬱陶しい位、喧しいと言いますのに」 


 「その言い方、棘しかないんだけど」


 「言い返せる元気はありますのね」


 昨日よりは楽になったし、元気なのは確かだ。それなのに、心はこんなに重いのは・・・。


 「ねぇーねぇー、聴いた?昨日、羽月さん、中村に髪引っ張られたって」 

 「知ってる知ってる。それで失神したんでしょ、キッモ」

 「ははは、それな、そんなことある?」


 後ろから聴こえて来る声に、あたしの体はいつの間にか、動いていた。 

 どうしてかは、分からなかった。 

 こんな感覚は初めてではない。けれども、私は廊下で話す2人の同級生の下に近づいていた。


 「暁ちゃん?」

 「な、なによ?なになに?」


 「晴那!」

 天の言葉が教室に響いた。 

 「謝れとは言わない。これはあたしの自己満足。分かってる、だけど・・・」 

 息を吸い込み、2人を凝視するあたしの形相はどうなっていたかは、私にも分からない。 

 後悔はしているけど、悔いはない。滅茶苦茶で何が悪い?


 「お前等もアイツと同類だってこと、忘れるなよ」


 天が大変と呼び出され、すぐさま教室に戻った。


 「羽月さん!」


 羽月さんの表情は余りにも深刻で分かり易く衰弱していた。

 羽月さんは触れられるのが嫌いだから、嫌われちゃうかもしれない。 あたしの体は思うように動かなかった。


 「晴那!」


 その声は、天だった。


 「しっかりなさい。」 

  緊張を解いたのは、他でもない親友からの声だった。


 「ありがとう。運んでくる」 


 「私も手伝うよ」 


 「ありがとう、加納さん。助かる」

 すぐさま、私は羽月さんの肩を借りた。きっと、嫌だろうが、わがままは言えない。 

 私と加納さんで、羽月さんの肩を持ち、2人で何とか、運ぶ為、教室を後にした。


 「ソラハdo nothing(なにもしない)?」


 「覚えておきなさい、マリー。Right person in right place(適材適所)」  「お前も運ばんかい」


 「ねぇー、3組の女子と晴那が言い争いしたって、マッ?」


 「いや、察しろよ」


 「マリー、日本語のガチレス。やめて、しんどい・・・」

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