キミとシャニムニ踊れたら 第7話
蒼のカリスト
プロローグ‐①
「私はあなたと友達になりたい。あなたの顔を私は知らないけど、いつか、あなたと踊りたい。今は元気が無くても、いつか、元気になったら、私と踊ろう。そしたら、きっと、こんな世界も悪くないと思えるから」
中学一年の夏、あたしは女子トイレの前で見ず知らずの誰かにこう言った。
社交ダンスも踊れないし、ソーラン節は踊れても、それだけのあたしがどうして、こんな言葉を口走ったかは、未だに理解出来ない。
この後悔を抱えたまま、あたしは死んでいくのだろう。そう、思ってた。
1
1年後 6月某日
部活の朝練後、汗臭さと制汗剤の混ざった匂いを振りまきながら、あたし、暁晴那(せな)は、制服に着替え、すぐさま、校舎へと走って行った。
もう一人の相方、朝のヤツは、少し前に着替え終わっていた。
毎度のことながら、目に負えないスピードで着替え終わる所は見習いたい限りだ。
「おはよー、晴那ちゃん!」
「コラ、暁、廊下を走るな!」
「すいませーん!」
心にもない挨拶をして、あたしは自らが在籍する2年1組へと向かった。
予鈴がなり始め、駆け込むように、あたしは教室の扉を開いた。
「ごめーん、遅れた。」
「晴那、遅い」
化粧臭いギャルの茜は、いつものように、私に絡んでくる。
「ごめんごめん、自主練してたら、乗っちゃってさぁ。」
本当のことだから、仕方ないよね。
「I couldn’t care less.」 (そんなのどうでもいいわ。)
金髪美女マリーは、アメリカ育ちの帰国子女らしいので、英語が抜けていない。
「んっ、何て?」
あたしは何言ってるのか、分からないので、適当に流してしまう。
「どうでもいいそうよ」
いつも、日焼け予防の服装を欠かさないお嬢様の天(そら)は、いい耳と読解力に優れているので、即座に回答した。
「そんな悲しいこと言うなよぉ~」
「ホントウニbothered(困った)デセナ」
時折、マリーの英語と日本語の混ざった会話は、面白くて、あたしは好きだ。
「ははは」
「絶対に意味分かってないだろ、これ」
「そこが、晴那の良い所ですわ」
適当に誤魔化しつつ、あたしは席を目指し、後ろへと向かった。
色んな人に挨拶をするのは、日課だ。皆の顔を見ているだけで、何だか、元気になる。
「おはよー、羽月さん、佐野っち」
皆が、笑顔を見せる中、いつも、不愛想な表情を見せる子がいる。
「お、おはよう。」
このクラス1の秀才こと、羽月妃夜さん。
成績優秀で、先生のウケも良くて、何でも出来る人。
けれど、いつも、一人。話をするわけでも無く、いつも勉強をしている彼女が、どうしても、あたしは気になって、仕方なかった。
その後は、寝たりもしながら、時間は過ぎて行った。
仕方ないよね、成長期だからと自分に言い訳をしているといつの間にか昼休みを迎えていた。
2
社会教師から、プリント集めを任された羽月さん。
これはチャンスと思い、私は思い切って、社会の先生に尋ねてみた。
「先生、それ、あたしも手伝います。羽月さん、一人にやらせるのは、ちょっと」 社会教師の顔色は、芳しくないが、羽月さんは上ずった声をあげた。
「わ、私一人で頑張れます。暁さんにも、迷惑だし」
「迷惑だなんて、そんな」
私もつい、本音が出てしまった。もう少し、人を頼ってもいいのにと。
とりあえず、あたしは自らのプリントの名前を確認し、提出する為に教壇へ向かおうとした。
「ほっとけばいいのにさ、あれが秀才様のお仕事なんだから」
「そうそう、秀才様がやりたくて、やってるんだから」
いつも聞こえる不快な雑音にあたしも少し顔は少しばかり歪んだ。
そんなあたしのことを知ってか知らずか、朝がいつの間にか、教室に現れ、私のスカートを静かに掴んでいた。
「顔」
「ごめん」
朝は私が大変な時に、察したように現れる。
あたしは教壇に向かい、羽月さんに自分の思いをぶつけてしまった。
「たまには誰かに頼ってもいいんだよ」
その瞬間、舌を噛んだ彼女の表情に、あたしは言い過ぎたかなと反省し、弁当箱を持って、教室を後にした。
「いいの?」
「何が?」
「あの人の手伝いしなくて。」
「一人でやるって、言ってるし、お節介だろうと思ってさ。」
「陸上ゴリラのクセに、変に気遣いだよな、晴那。」
「あたし以外、友達のいない朝に言われたくない。」
「友達なんて、晴那さえいれば、どうでもいい。」
なんで、こいつはそういうことを平然と言えるのだろうか? 神経疑うというか、清々しいというか、むしろ、男前。
女なんだけどね。
それから、陸上部の皆と弁当を囲みながら、食事と取り、何気ない会話で盛り上がりつつ、軽くバスケで汗を流した。
途中、朝がエンジン掛かって、漫画のキャラみたいな表情した時は動揺したけれど、何とかあたしが勝利を収めた。その時の朝の顔と来たら・・・
他の子と別れ、教室に戻ろうとした時だった。
「羽月さん?」
廊下に倒れ込む彼女を目撃したのだ。
近くには石倉先生が中村と梶田の不良コンビを追っていた。
「二人とも、任せた。」
石倉先生は、時折、無茶ぶりをする。
あたしたちを救助隊か、レスキュー隊と勘違いしているのでは無いだろうか?
あたしより先に、朝は靴を脱がせ、的確に足を掴み、頭気を付けてと指示する所は、肝が据わってるなと感心してしまった。
わたしは、羽月さんの腋を抱え、2人で保健室へと運んだ。
いつものトレーニングと思えば、女の子一人持つなんて、大したことではない。 何とか、保健室に運び込み、養護教諭の西川先生の下まで運び込んだ。
「急患?忙しいったら、ありゃしないわ。」
忙しいってと突っ込んでやろうと思ったら、間宮さんが食事を採っていた。
いつも、保健室通いの人だ。余り、遭う機会は少ないが、美人で有名だ。
とりあえず、あたしたち2人は、ベッドに羽月さんを下ろし、彼女を寝かせた。
疲れたと言いたかったが、今じゃそれ所では無かった。
「お疲れ様、本当に大変だったわね。」
心にもない表情の西川先生を背にあたし達は彼女に視線を合わせた。
「いえ、頼まれたんで。」
「アタシは疲れた。アタシもベッドで寝ていいっすか。」
「ダメに決まってるでしょ!もうすぐ、5時限目始まるわよ。」
西川先生は怒鳴りながら、あたし達を追い立てられるように、保健室を後にした。
本当にこいつは、本気なのか、冗談なのか、よく分からんことを言う。
あたしは何で、羽月さんが気絶したかの理由を聴きたかったが、そろそろ、5時限目が始まるので、大急ぎで、保健室を後にした。
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