20240622-1

「丸くなったなぁ、俺も沙樹も」

「何が?」

「顔が」


 セブンイレブンで買った生ハムを食べていた時の夫婦の会話である。

 確かにそうだ。二人とも結婚前、十年前に比べて十キロは太った。私は妊娠中に二十キロ増えたのでこれでも痩せた方であり、さらに体重を落とそうとフィットボクシングに励んでいる。でも生ハムは食べる。

 夫と撮った写真は大事に保存しており、いつでもスマホから見られる状態にしているのだが、付き合って初めての旅行、ディズニーランドの二人はとてもほっそりとしていた。

 夫が太った理由は運動不足だろう。会社へは自宅マンションの扉から三十分の距離。スポーツはしない。ガンプラしながらF1を観るのが趣味である。

 夫は風呂上がりになかなか服を着ず、全裸のまま室内をフラフラ、そのまま洗い物をすることもある。その裸体を見ながら、すっかりくたびれた三十七歳になってしまったなぁと思うのだが、そんなところも可愛く見えてしまうので、私の頭はおめでたい。

 でっぷりと出た夫のお腹には臍の毛が這っており、それを眺めるのが好きだ。手の甲の毛もわさわさと生えており、それを本人は気にしていた時期があったようなのだが、私がそれが好きだ好きだと主張したので剃ることはしなくなった。

 ツイッターで定期的に呟いているのだが、男性には無駄毛は存在しないというのが私の見解である。男性の体毛は全て必要なものである。

 大学生の時だ。胸毛がたっぷり生えていた男の先輩がいた。シャツのボタンを外してもらって触らせてもらったのだが、あれは実にいいものだった。彼が今どこで何をしているのかは知らないが、あの胸毛を触れる状況にある人はそれはそれは幸せだろう。

 もう一度触りたいな。

 話を体型のことに戻すと、おそらく夫婦揃ってダイエットが必要な状況である。焼肉食べ放題で満腹になっている場合ではない。だから一緒にフィットボクシングをしようではないかと何度か誘っているのだが、夫は頑として首を縦に振らない。

 あれを着たい。婚約して顔合わせをする時のために買った紺色のワンピース。別に高価なものではないのだが思い入れがあるのだ。

 さて、夫はどうなのか、聞いてみた。


「目標は現状維持!」


 そう言って腹の肉を大きく揺らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る