第5話
「...あちい...」
肌を焦がす為の如くさんさんと照り輝き突き刺してくる日差しの季節。夏。
今日の最高気温は37℃。外で活動するべき気温ではない。こんな日は、家で一日中篭ってゴロゴロして、それでも暑いと感じたならばきんきんに冷えたアイスクリームをたべたくなる。
もちろん、俺もそうしたい。だが...俺は今、外にいる。
こんな炎天下に外に入れば自殺行為であることは重々承知。だからこそ、俺が外にいるのにはしっかりと理由がある。
「あ、お待たせしました。一ノ瀬さん」
「ああ、ほんとに待った。暑かった」
「あの、そこは今来たとこだよ?とかって気遣う所だと思うんですが」
「俺にそんな爽やかさ求めんな」
「最初から求めてませんよ」
そう、俺が外にいる理由は、こいつ、西園寺瀬奈だ。
夏休み初日に電話(固定電話)がかかってきて、本日に関するお誘いを受けたのだ。
「...で、どこに連れて行ってくれるんだよ」
「あ、それは行ってからのお楽しみです」
「なんか怖いんだけど」
「大丈夫ですよ。ちょっと焼けるだけです」
「余計怖いんだけど?」
「とにかく、今は秘密です 」
一ノ瀬が人差し指を立てて自分の口元におく。
ちょっと可愛いって思った自分が悔しい。
「さて、このまま外にいると2人とも汗だくになってしまいますし、早速行きましょうか」
「ああ」
2人は足を進める。
途中、ユニフォームや制服を着た学生、私服ではあるが見た目高校生、中学生辺りの若者が駅前やその付近でたむろしているのを見かけた。
よって、今が夏休みであることを自覚する。
「なんか、夏休み入ってすぐって休んでていいかって不安になるよな」
「...」
「?西園寺?」
俺の他愛ない発言に対するリアクションが帰ってこない。
え?無視されてる?
「...!」
四方八方見渡しても、西園寺がいないことに気がついた。
「あいつ、いきなり迷子かよ」
俺はため息をつく。
なんとなくマイペースだとは思っていたが、ここまでくるともはや清々しい。
「はあ、まあ、ここらではぐれたってことはまだ近くにいんだろ。向こうも探してるだろうし、ここで待つか」
しかし外で待つとなるとさすがにこの気温だ。きついところがある。
そう思った俺は、目の前の本屋に立ち入った。ここなら見通しもわるくないし、出入口はガラス張り。もし一ノ瀬が通ったらまああの見た目だし、気づくだろう。
よって、俺は本屋に入った。
その中は、入って左側にレジ、右側に商品と、非常にシンプルな構造になっていた。2階にもあるらしいが、そこには漫画やラノベがおいてあるるしい。
なので、入ると直ぐにレジが目に入る。
するとそこには
「あ、一ノ瀬さん」
「...何やってんだお前」
西園寺がホクホク顔でレジから出てきた。
どうやらなんか買っていたらしい。
「外歩いていたら、お店の中に気になる本があひまして。気づいたらふらーっと入ってて」
「はあ...お前、本買うのはいいけど、せめて一言言ってくれよ。俺はてっきり...」
「...もしかして、心配してくれたんですか?」
「ああ心配だったよ実に心配だった良かったなこれで安心だ」
「私も、いつも通りの一ノ瀬さんで安心しました」
「心配してたらどうなんだよ」
「頭ぶっ壊れてるのかと」
なんだこいつと思いながら、俺は出口に向かう。
「ほら、早く行こうぜ」
だが、少し顔が熱い気がする...
まあこの気温だし、体温が上がってんだろ。
しばらくして。
俺たちは目的地に到着した...らしい。
「...」
「あの、えっと...」
お店の前には、立て看板があった。そこには、
【お客様へ
大変申し訳ございません。現在、店にある機材がいくつか不良が見つかったため点検を行います。それに伴い、少しの間、臨時休業とさせていただきます】
と記されてあった。
臨時休業、ということは、これは避けようがなかったこと。まあ、仕方ないってやつだろう。
「まあ、西園寺、臨時休業なら仕方ない、他に行くか?」
「...」
西園寺は下を向いたまま、顔を上げない。
辺りに、暫しの沈黙が訪れた。
そして、
「私としたことが、臨時休業がある可能性も考えとくべきでした」
と、笑顔で言う西園寺。
その笑顔は、天女と呼ばれるに相応しくとても美しいものである。
がしかし、今回ばかりはそうは思わなかった。
「なあ、西園寺。俺の行きつけの店があるんだが、行くか?」
「...え?」
いくら友達ほどの仲ではなくとも、他人を信じられないにしても、少なくともこいつは、俺のためにこのお店について調べてくれたのだろう。
それには、応えなくてはならない。
そもそもこんな悲しそうになっててほっとけるかっての。
「ここよりお洒落じゃないけど、まあ言っちまえばただのファミレスだけど...それでもいいんなら」
「...はい、行きます」
そうして、俺たちはお店を後にした。
しばらくして、
俺の行きつけの有名イタリアンチェーン店(ファミレス)ち着き、席に座って料理を待つ。
道中、やはり西園寺は必死に作り笑顔をしていたが、やはりどこか悲しそうで、申し訳なさを感じているように見えた。
それを見て、俺は少し嬉しく思った。
こいつが悲しい、申し訳ないって感じているのであればそれは、今日に対して本気で向き合ってくれていたということ。俺とのお出かけにたいし本気で向き合ってくれていた。
幼馴染に振られ、元親友に裏切られ、誰も信じることができない俺にとって、嬉しく感じないわけが無い。まだ、俺の事を考えてくれる人間がいるんだと。
だから、こいつには話してもいいのかもしれない。
「...俺さ」
「...?」
俯いていた西園寺が、少しだけ顔を上げる。
「...好きな人が」
「いるんですか?」
一気に顔を上げる西園寺。なんだこいつ元気か?
「いや、いた、ってのが正しいかな」
「いた...ということは今は」
「ああ。俺はそいつに振られたからな」
「あ、そ、そうなんですね」
どこか安心したような声を出す西園寺。
「そんでさ、振られただけならよかったんだけど、理由が好きな人がいるからってやつで」
「そうだったんですか」
「...相手は、俺の親友だった」
「なっ...」
ああ、あれからもう1年経つのに、あの出来事を思い出しただけで吐き気がする。
けど、この機会を逃すともう一生言えないかもしれない。
でも、俺と友達になりたいって思ってくれるこいつに、これを話して、友達になりたくないって思われたら?
もし嫌われたりしたら?
俺は多分、本当に友達を作らなくなる。
だが、俺はこんな経験をしたからこそ、友達だとしても浅い関係ではいたくない。だから、俺と友達になる人にはこれを言おうと考えていた。
「しかもさ、親友、いや元親友だな。あいつも同じ相手のことが好きでさ、あいつは好きな人に近づくために、俺の事を利用したんだ」
「...」
「それで、まんまと利用されたんだよ。そいつは元親友に惚れて、多分今もどっかでイチャイチャしてんじゃねえの?」
「...」
「だから、俺はあいつに復讐するって決めた。何かに必要になるか分からないけど、全力で勉強して、今では学年1位。いつだったか、お前俺に聞いたよな。なんで勉強するようになったのかって。これが答えだ。こんなダサい理由だよ」
「ダサくなんか、ありませんよ」
「いや、気遣わなくていいって...」
「ダサくありません」
いつの間にか、西園寺は俺の目を真っ直ぐ見ていた。
いつもの笑顔ではなく、真剣な顔で。
「けど、お前は俺に友達になりたいって言ったよな。こんな生き方している人間が、お前の友達でいいのか?」
「いいです。というより、そんな出来事関係ありません」
「...」
「確かにその出来事は、一ノ瀬さんにとってとても苦しかったでしょう。それは今の貴方の表情を見ればすぐわかります」
「...」
「ですが、私が貴方とお友達になりたいと思った理由はこれと関係ありません。むしろ、一ノ瀬さんは被害者じゃないですか」
「そうかも...しれねえけど...けど、」
「なら、その復讐、私が手伝います」
「!?」
「私も、貴方と一緒に、その元親友さんに対し、報復を致します」
「な、なんで」
「私は、一ノ瀬さんの、お友達候補だからです」
瞬間、俺の中で何かが砕ける音がした。
それがなんなのかは分からない。だが、絶対に悪いものではないことは確信している。
なぜなら、今の俺は、自然に口角が上がっているのだから。
「ああ、ありがとう。西園寺」
話して良かった。
今の俺の心中には、その感想しか浮かんでこなかった。
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