第4話
『...ということで、明日の11時、駅前で集合しましょう』
「...なんで?」
夏休み初日。
俺は特にやることもなかったため、一日課題やらなんやらで時間を潰し日が暮れた頃。
なぜだかおれは、学校で天女として崇められている西園寺と電話していた。
...忘れてた。スマホが普及しインターネット時代の現在、「固定電話」の存在を。
これなら別に、携帯の連絡先を知らずとも連絡することは可能だ。
どうやってこいつがウチの電話番号を調べたのかは知らねえけどな。
てか俺自身、固定電話なんて使ったのもう何年前だよ。下手すりゃ10年以上も前だ。
「なあ、ウチの電話番号どうやって知ったんだ?」
「明日の11時、駅前で集合しましょう」
「...あの、ウチの電話番号「明日の11時、駅前で集合しましょう」」
ああだめだ。こいつNPC見てえに定型文発してやがる。
「はあ、分かったよ。別に明日は予定ないしな。で、何するんだよ」
「はい。お友達になるために少しでも接する機会が多い方がいいかと思いまして。まずはご一緒にお食事でもと」
「それほかの男子が聞いたら発狂もんだよなあ」
「ということは、一ノ瀬さんは発狂しないんですか?」
「するわけねえだろ」
「そうですか。私とお食事は嫌ですか...」
「いやそうじゃなくて、別に嬉しいけど発狂する程じゃないってことだよ。お前だって発狂したら反応に困るだろ」
「なんならちょっと見てみたいです」
「やべえ事言ってる自覚ある?」
「とにかく、明日、駅前、11時。いいですね?」
「はいはい、分かったよ」
「それでは、また」
「ああ」
プーっ。プーっ。
受話器からそんな音が聞こえる。
自室に戻ると、 俺はベッドにうつ伏せた。
「こうなるとはなあ」
正直、今でも信じられない。
あの学校の天女様が俺と友達になりたいと言い出し、夏休みでも都合合わせて会おうとしてくる。
なんだ、俺は一生分の運でも使ってんのか?
だが、俺に1つの疑問が生じた。
なんで西園寺はこんな俺と仲良くなりたいと思ったのか。
俺に他の人にはない魅力があるとは思えないし、そもそも学校じゃ友達1人いないぼっちな人間だ。
...まさかあいつ、イケメン好きか?
咄嗟に洗面台へ行く俺。
「...いや、イケメンではねえな」
不潔というわけではないが、別にかっこいいかといわれたら首を傾げるレベルの顔。
もう一度ベッドに戻る。
「...はあ、もういいか」
この理由は、明日聞けばいい。
一先ず今できることをして気を紛らわせよう。
課題...は、今日の分は一通りやったし。
ゲーム...は目が疲れるし。
...。
俺は徐にクローゼットを開いた。
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瀬名サイド
「はあ、なんとか誘えました」
私は自室に戻りながら、高鳴る鼓動を抑えながらそう呟いた。
「他人を、しかも男の人をお食事に誘うのって、あれほど勇気のいる行為なんですね」
今でも赤面しているのが分かる。
それと同時に、心の中では色々な葛藤が生じていた。
急に誘ってしまって、彼に迷惑をかけてはいないだろうか。
そもそも電話を急にしちゃって大丈夫だっただろうか。
無理に私に付き合わせてしまったのではないだろうか。
「...考えるだけ無駄、ですね」
自室につくと、 私はベッドに俯く。
すると、彼に初めて声をかけた昨日の事を思い出す。そして、一緒に帰った時のことも。
そして枕を抱いて、足をパタパタさせる。
「はあ、声をかけられて嬉しかった、ですか。そんなこと言われたら、友達になることでは満足できなくなってしまいますよ...」
彼と話すと、私は自分がおかしくなることに気がつきます。
彼の声、彼の目。彼が発した言葉。全て私に対して向けられたものだと思うと、余計に口角が上がってしまいます。
「でも、一先ずは目の前のこと。明日のお食事は、必ず彼を楽しませなくては」
どこに行くかはチェック済み。
営業時間、定休日も把握済み。失敗するビジョンは見えません。
明日のお食事で連絡先を交換できればいいんですが、彼の性格的に、それは少し難しそうですね。
私的には、それでもいい。彼と一緒の時間を過ごせるのなら。
一通り考え事を終えたあと、ベッドから体を起こします。
「さて、明日については出来ることは全てやりました、明日のことは、もう明日の私に任せましょう」
ですが、何かしていないと常に彼の事を考えてしまい落ち着きません。
「うーん、課題は、今日の分はやりましたし、読書も特に読みたい本はないですし。」
...。
私は、クローゼットを開きました。
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