問題児コンビ
いつもの部屋に閉じ込められた。
それは数分前、レインに呼び出され、俺とトーマが一つの部屋に通されたことにより始まる。
そして。
「新人のソラとチョコよ。三時間あげるから手懐けなさい」
バタン。
カチャリ。
鍵をかけられ、閉じ込められたのだ。
手懐ける?
と先ほどの言葉を頭の中で言葉にし、紹介された二人を見る。
まず、どっちがチョコだかソラだかがわからない。
向かいの席に座って足を組み、俺をにらみつけている男。
それとニコニコと胡散臭い笑みを俺に向けている女。
なぜ二人とも俺をガン見する?
隣に居るトーマを見れば……あぁ、新人の男と大差ない偉そうな態度だった。
二人ともトーマをまともに見てはいけないという第六感が働いてしまっているのかもしれない。
「トーマ、睨むな」
さて、まずは何からすればいい?
とりあえず名前か。
どっちがどっちだかわからない。
「まず名乗れ」
そう言ってから、新人ならもっとソフトに聞くべきだったか?と考えたが、すぐにそれを後悔することになる。
「さっき言ってたでしょ?記憶力皆無?バカなの?」
意外にも、そう囗を開いたのは、ニコニコ笑う新人の女だった。
そして悟った。
厄介とは、手懐けろとは、こういうことだったのか。
俺はイライラを鎮めて聞き方を変える。
「どっちがチョコでどっちがソラ?」
この質問には素直に答えてくれるだろう……と思ったのが間違いだった。
「私がチョコなんていう甘ったれた名前名乗るとでも思ってるの?視力悪いのね。それとも頭が残念なのかしら?」
よし、しばく。
ふふふ、と口元に手を当てて嘲笑うように笑う女……どうやらこっちがソラらしい。
会話する気を失せさせる力がある。
なるべくチョコに話しかけよう、この女は嫌だ。
と思い、チョコに視線を向け……チョコ?
ギラリ、俺を睨む鋭い眼。
ニヤリとも笑わない。
たたひたすら、俺を睨んでいる。
チョコ?
この雰囲気でチョコさん?
カカオ100%じゃないですか?
どうしようもなく思考を巡らせていると。
「……チッ」
隣のトーマが、なぜだか舌打ちをした。
そして。
「じょーちゃん、テメー調子こいてっと痛い目合わすぞコラ」
トーマの低い声。
ヤバい、トーマ、キレてたのか。
「あら野蛮。脳みそが未熟な証拠ね。残念だわ」
これ以上トーマを煽らないでほしい。
「んだと?」
「脅す事しか脳にないんですもの。脳がツルリンコしているのは見え見えよね」
いちいちウザいな。
反抗期?
女王気取り?
あの胡散臭い笑顔が余計にイライラさせる。
「潰す」
「あら、まだ懲りてないの?その力で家庭崩壊までしたくせに。随分と図々しいのね」
ピタリ、俺とトーマの動きが止まった。
だって、なぜだ?
なぜこの女が、トーマの家庭事情を知ってる?
「一応先輩なのだものね。教えてあげるわ、私の能力」
「……」
「映像、音声的な記憶力、それに伴う推理力」
映像、音声的な記憶力、推理力……。
ということは、トーマが家をめちゃくちゃにして出て来たことを、どこかで聞いたことがあるということだろうか?
「そうねぇ、そこにいる甘ったるい奴が知っていたことかもね。魔女さん」
ぴくっ、俺が反応した。
俺のことまで知ってる……?
『魔女』とは、以前依鶴があの街で呼ばれていた通称だ。
「魔女さんについては有名よね。あの町に居たのなら、知らない人はいないんじゃないかしら?」
「あの町に、居たのか?」
「電車で噂を聞いただけ。それも10年前くらいだけど。それとこの辺で有名な占い師、それも魔女さんなんじゃないの?」
「魔女と呼ぶな。威鶴だ」
「失礼、シバサキイヅルさん」
次々と出てくる、俺たちが隠していたはずの個人情報。
噂を聞いただけじゃここまではわからないはずだ。
きっと……噂と噂を繋ぎ合わせて、どこからか補助的に推測を交えているんだろう。
にしても、これはヤバすぎるだろう。
並の記憶力や推理力じゃない。
普通の奴がBOMBに来るわけがないとは思っていたが、10年前の電車の中で聞いた噂なんて普通覚えているわけがない。
「私は脳のつくりが違うの。天才、分かる?」
そう言ってニコニコ、ずっと笑っているソラ。
これは予想以上に厄介な奴だ。
三時間で手なずけろ?
ムリだろ、こんな悪気なさそうな笑みで毒舌吐く自己愛の強い奴。
「でもね、魔女さん。あなたもまぁ、頭は残念だけど賢いとは聞いているのよ。頭は残念だけど」
二度言うな。
「それなりにな」
「急所、全部覚えてるんですって?」
「そんなに難しいことじゃないからな」
「そうね。でも的中させる洞察力と力のコントロールが出来るからこそね。ぜひ見てみたいわ」
お前が実験台になるか?
「そっちの怪力バカさんのお名前は?」
そう言って今度はトーマを見る。
怪力バカ……。
トーマはというと、腕を組んで目を瞑って、必死にいら立ちをこらえていた。
今日何回爆発するだろう?
だから俺が紹介しておいた。
「こっちはトーマ。乱闘になった時にメインに行動する。ちなみに俺は過去と未来を見る」
「あら、目が合うと石にされるわけではないのね」
なんだそのファンタジーな噂は?
いや、未来と過去を見るだけでも十分ファンタジーか。
それにしても人の噂とは恐ろしい。
「あなたたち、さっき私たちを手懐けろって言われていたわよね?」
ソラが思い出したように聞いてきた。
「あぁ、言われた」
「いいこと教えてあげる」
「不満なことを満足にさせれば、人の心は動く。忠実なしもべにするには、自分が上だとしつけた上で安心と信頼を持たせる」
しもべ……。
言い方はどうにしろ、内容は納得できるもの。
それを自分にしろと言ってるのだろうか?
「いづるくん」
ガラリと雰囲気を変えて、ソラが手を伸ばしてくる。
その手が俺の手首を掴む。
「私、愛に飢えてるの」
そう言って、グイッと俺の手首を引くと、すんなりと俺の体はソファーから離れ、ソラに近付く。
バランスを取る為に机に片手をつく。
何が起きたのか理解するのに数秒かかった。
「ちょーだい、威鶴くんの愛」
ガタッ
それに反応したのはトーマだった。
トーマの低い声が、部屋に響く。
「お前、何がしたいんだ?」
「おもしろいコト」
「その手を離せ」
「なんで?あぁ、嫉妬かぁ。醜いなぁ」
読めない。
この女は何がしたいのか、全然わからない。
思考が読めない。
こんなタイプは初めてだ。
「威鶴くんて、我慢強いのね。ステキ。ここに来た時、みーんな10分で逃げて行ったのよ?怒ったり泣いたり思考が彷徨ったり耳をふさいだり、人って面白いと思わない?」
危ない奴だ。
そうか、だからレインは今までかけたことのなかった鍵をかけてまで俺たちを閉じ込めたのか、逃げられないように。
「怒りを抑えることほど難しいことはないと思うの。ねぇ、そう思わない?感情をコントロールできる人ってステキ。威鶴くんはステキ」
今度はいきなり俺を褒め出した。
本当に読めない、この女。
「崩壊って、楽しいよね。トーマくん」
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