依頼結果

23時、予定通りBOMBへ着き、レインに少し驚かれた。




「……トーマ、アンタなんか変なもの食べた?」


「いや、別に」


「明日は雪でも降るのかしら?」


「今夏だけどな」




どうやら遅刻魔が予定通りの時間に来たという事態に驚きを隠せないらしい。




「雷知はもう少しで来るから、部屋で待っていてちょうだい」


「あ、ねーちゃんまた予定より早めに呼び出しただろ!?」


「レイン様とお呼びって何度言えばわかるの?」




どちらも一歩も引かないまま、部屋に案内され、再び二人きりの空間。




「もう変な遊び禁止ね」


「ちっ」




舌打ちをされた。


そんなに面白かったのだろうか?


こっちとしては背筋がゾワゾワしてしょうがなかったけれど。




あと顔が近くて、少し困った。


あんなに近いと……緊張する。




動く気配と共に、私の手の上にトーマの手が重なった。


少し恥ずかしいけれど、嬉しい。




今日のトーマは、なんだかスキンシップが多い。


「依鶴」


「なに?」


「依頼の結果聞いて、俺がもし暴れたりしたら、全力で止めてくれ」




妹が危険な目に合っていると言われたとしたら、トーマは自分を抑えられないと、そう思っての言葉だと、悟った。


そんな事を言うトーマに、やっぱり妹思いなんだななんて思った。




でもね、トーマ。




「私は急所なんてわからないですよ」




そう言って少し困った顔をして笑った。




だって私は威鶴じゃない。


急所を全部覚えている上に素早く正確に一突き、なんてことは出来ない。




「男の急所でいい」


「……。真横に座っているので、位置的に難しいかと」


「なら抱きついて来い」






……え?





だき……え?


な、今、トーマ……なんだって?




「……わ、わんもあぷりーず」


「抱け」


「さっきと言い方違う!!」




しまった、思わずツッコミを……。




とりあえず、間違いって可能性もあるかもしれないから、もう一度聞こう。




「さっき言った言葉を、一字一句逃さずに言ってください」


「『 なら抱きついて来い』」




どうやら、聞き間違いではなさそう。




「どうしてですか?」




なぜ急所一撃と抱き付く行為が同等にあるのだろう?


トーマの中で一体何がどうなってそうなったんだろう?




……あ!


私は閃いた。




「羽交い締めをしろということですか?」


「身長差なめんな」




確かに。


私とトーマの身長差は15cmほど。


トーマの肩より私の肩が下にあるから、締めにくいのは確か。




となるとやっぱり。




「ぎゅって事ですか」


「おーよ。理解出来たか」


「理由の説明お願いしていいですか」




本当に、私が抱きつくだけで、キレたトーマが止まるんだろうか?


だって、過去を見た事があるけれど、熊より強そうだった。


そんなトーマを、私に止められると、だれが思う?




威鶴は別として。




「理由聞きたいのか」


「……変な理由じゃなければ」




主に下品な理由じゃなければ、聞きたい。




そして、ニヤァ……トーマが笑った。




「抱きつかれて声聞かされれば、色んな意味で俺は停止するだろうな」




いろんな意味って何ですか!?


しかし、ふと冷静になって考える。




トーマは、以前とは違う。


怒りも威鶴のおかげである程度抑えられるようになった……はず。


だから簡単にはキレないし、抱き付けなんて冗談混じりに言ってるくらいなんだから、きっと大丈夫なんだと思う。


いざとなればBOMBのメンバーに誰かしら格闘系の人も居そうだし、きっとどうにかなる。




そう思い、私はとりあえずこう答えた。




「最終手段で一瞬だけ威鶴と代わる方向にします」


「ちっ」


「でも、トーマならきっと大丈夫」


「……」


「大丈夫」




そう言った直後に、ノック音と共に扉が開き、雷知とレインが姿を現した。




そこで違和感。


そう、以前と同じ違和感があった。




「マサルはいないのか?」




そうトーマが聞いたことで、違和感の正体が雷知が一人で来たことだと気付いた。


「マサルは今日の報告では必要がないからな」




そう言った雷知にも、少なからず違和感。


ペアで依頼をこなすことは、BOMBのルール、それにマサルが関わらないはずがない。




スッ、雷知の視線が私に移った。




「あなたが柴崎依鶴さんですか」


「あ、はい」


「……。依頼の結果を報告します」




そう言って雷知は私たちの向かい側に座り、レインはいつも通り、奥に座った。




今日はなんとなく、雰囲気が違う。


気にしつつも、依頼結果を聞いた。




雷知はまず、私とトーマの間に一枚の紙を出して来た。


それはタイムラインのようなもので。




「これは依頼された竹原叶香の1日です」




そう言われ、その文字に目を通した。





AM7:00 帰宅


AM8:00 登校


AM9:30~PM2:00 授業


PM2:00~PM4:00 授業不参加・屋上にて午睡


PM5:00~PM10:00 白蛇・または路上乱闘


PM23:00 『DEVIL』TOP自宅着


翌AM7:00 帰宅




DEVIL 設立15年の暴走族チーム


現チームTOP 篠崎幸平




現在二人は秘密で交際中。


交際による裏の動きはなし。


以前依頼で奪還した篠崎幸平の自宅の合鍵を竹原叶香が所持。




ここまでを読み、トーマに目を向けた。


妹が、ちゃんとした交際とはいえ、敵だったチームと付き合っている。




それにトーマは、兄として不安になるだろうか?




「依頼された二ヶ月の中では、他には特に目立った動きはありませんでした。チームの事にはあまり触れず、竹原叶香個人を重視しました。細かい動きは別紙をご参考ください」


AM7:00 帰宅


AM8:00 登校


AM9:30~PM2:00 授業


PM2:00~PM4:00 授業不参加・屋上にて午睡


PM5:00~PM10:00 白蛇・または路上乱闘


PM23:00 『DEVIL』TOP自宅着


翌AM7:00 帰宅




DEVIL 設立15年の暴走族チーム


現チームTOP 篠崎幸平




現在二人は秘密で交際中。


交際による裏の動きはなし。


以前依頼で奪還した篠崎幸平の自宅の合鍵を竹原叶香が所持。




ここまでを読み、トーマに目を向けた。


妹が、ちゃんとした交際とはいえ、敵だったチームと付き合っている。




それにトーマは、兄として不安になるだろうか?




「依頼された二ヶ月の中では、他には特に目立った動きはありませんでした。チームの事にはあまり触れず、竹原叶香個人を重視しました。細かい動きは別紙をご参考ください」


「あなたは、『威鶴』よね?」






──気付かれた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る