雷知の依頼
……トーマから別の人を介して依頼を受けた。
遡ること数十分前。
レインに呼ばれてBOMBへ行くと、そこに、パートナーのマサルは来ていなかった。
依頼書を渡された。
年齢と性別しか書かれていないそれに、依頼主は不明。
内容は情報収集だ。
「トーマから」
「え……?」
「家族が心配みたい」
家族……?
「俺が調べて……依頼にして大丈夫なんですか?」
例えバイトであったとしても、扱いは俺達と変わらないはず。
プライベート詮索禁止、BOMBではこの世界自体が独立したものと考え、表と裏では完全に切り離し、依頼中はどんなに自分を偽っていても、それがここでの自分。
プライベートでBOMBへの直接の関係は出来ないと思う。
「トーマの依頼を、占い師の柴崎依鶴に依頼させてきた。それについては問題ないわ」
「柴崎依鶴……って、合同捜査の時の?」
「そうね」
あの時のことはよく覚えている。
記憶が新しい上に、普段は基本的にはない合同捜査、それにアイツと同じ『いづる』。
ここへ来たのか。
「第一に、依頼の竹原叶香の身辺調査をお願い」
「はい。……え?第一に?」
今、何か引っかかる言葉を聞いたような気がする。
第一に……と言うことは第二以降が存在する。
もうひとつ依頼があるのだろうか?
「第一に身辺調査。まずはこっちを優先して。そして第二に」
レインは少し困ったような表情で言った。
「これは私……と言うより、BOMBからの命令として。……柴崎依鶴のことを、調べなさい」
――柴崎依鶴を、調べる
BOMBから依頼人についての調査命令は、少なくない。
実際、情報関係依頼を受ける俺たちみたいな奴には、ちょくちょくこういった仕事が来る。
でも今回はマサルが呼ばれていないところから察するに、俺だけに与えられた命令。
つまり、二人でするには依頼優先だが、単独では命令の方を進めろ、と言うことか。
でも、なんだか嫌な予感がする。
今までの経験からいうと、こういう命令の時は何もなく終わった試しがないからだ。
何かしら必ず見つかる。
それは犯罪履歴だったりとか、自殺未遂だったりとか、裏取引、BOMBへの裏切り、などなど。
レインの予想が外れたことは、一度たりともない。
つまり、柴崎依鶴は何かを隠している、と言うことになる。
「なんでまた、占い師……しかも威鶴の身内ですよね?」
「匂うのよねぇ……プンプンと、妖しい香りが」
「……」
言いながら、上唇をねったりと舐める。
まるで獲物を逃すまいとする獣のようだ。
この人一体何者なんだ?
BOMBのメンバーである以上、普通の人間でないことは確かだと思う。
言うならば、『女のカンが人一倍働く』と言ったところだろうか?
女は怖い。
「雷知、今何か失礼なこと考えなかった?」
「いえいえ、何も」
美しい。
レインさんはBOMB一美しいですよー。
と、思考の上書きでごまかす。
「と言うわけで、柴崎依鶴の件も並行してお願い。新しいことがわかれば逐一報告お願いね」
「了解です」
一体何が隠されているのだろう?
心配以上に、好奇心が勝る。
俺はネット経由で、マサルは巧みな話術を使い、まずは第一の依頼である竹原叶香の身辺調査から始めた。
マサルは白蛇とかいう、竹原叶香の仲間と接触しに行っている。
調べてみれば、ボロボロと出てくる過去。
基本プロフィールには、もちろんトーマの名前も。
竹原透眞、長男。
叶香は次女。
上にもう一人、遥香という姉がいるらしい。
三年前に透眞が家を出ていき、その後は両親と娘二人で暮らしている。
叶香がその白蛇に入ったのは次の年で、頂点に立ったのは半年後。
女なのに暴走グループにいるとは、さすがトーマの妹。
でも最近は敵対していたチームと極端に争わなくなった。
これはトーマよりもっと前から敵対していた『DEVIL』というチーム。
以前威鶴たちが依頼で行ったところとはまた別らしい。
でも情報収集としてはここも使えるかもしれない。
なぜ数年犬猿していたのに、ここ半年辺りは動きが無くなった?
これは偶然じゃない。
DEVILの方も仕掛けなくなった。
トーマが気になっていることはこれだろうか?
もう少し調べてみると、どうやらとんでもない展開になっていることが分かった。
マサルと集めた情報を比較すると、これはどうやら確信に近いものになった。
竹原叶香の一日はこうだ。
AM7:00 帰宅
まずこの時点でおかしいだろう。
普通起床だろ?
なぜいきなり帰ってくる?
AM8:00 登校
AM9:30~PM2:00 授業
PM2:00~PM4:00 サボり
サボるな。
このサボりはどうやら日課らしく、時間は違えど毎日のように行っているらしい。
問題児だな。
PM5:00~PM10:00 白蛇
またはstreet fight
つまり道で喧嘩勃発。
でも強すぎるため相手にすらならないとか。
さすがトーマの、(略)。
PM23:00 『DEVIL』TOP自宅着
朝まで出てこない。
そして再びAM7:00 帰宅
こんな結果聞いたらトーマ、失神するんじゃないか?
なんて心配がよぎるが、これも依頼。
ちなみにこの二人の関係は誰にも知られていないらしい。
DEVILのTOPを調べたが、特に何か企んでいる様子もなく、竹原叶香も同様。
単なる相思相愛。
つまり二人は付き合っているんだろう。
それに、以前威鶴たちが奪還依頼された鍵も、DEVILのTOPの家の鍵と一致。
どうやら喧嘩の時に奪われていたらしい。
竹原叶香の件はひとまずここまでかな。
後はマサルの情報を待つとして。
「さーてーと」
ぶつぶつ言いながら次に取り組む。
説明するまでもない、『柴崎依鶴』だ。
こればかりはパソコンだけでは足りない。
いつもならマサルが集めてくる情報、つまり画面ではなく実際に接触や追跡も自分でしなければいけない。
そしてミスは許されない。
占い師って、威鶴みたいに詳しい未来が見えたりするんだろうか?
そういえば威鶴は耳も異常によくて、微かな音で場所まで特定出来るんだったか。
さすがにそんな、占い師柴崎依鶴までそんな能力は持っていないだろう。
そう思い、柴崎依鶴の幼少時代から調べて行った。
俺は、自分の目を疑った。
柴崎依鶴と言う女は、『魔女』と呼ばれていた。
理由は『人の過去・未来を覗かれる、異世界の音が聞こえる、逆らってはいけない、呪われている』などである。
異世界……かどうかは不明だとして、音関係、それと過去・未来を覗くことが出来る力。
威鶴と同じだろうか?
こんなにも、何人もこんな能力を持つ人が存在するか?
遺伝でこうなるものか?
いや、両親はいたって普通、らしい。
何がどうなってる?
何が起きている?
なぜ同じなんだ?
そう考えようとする反面、一つの答えに、脳がすでにたどり着いている。
だとするならば、名前、身長、能力……多くのつじつまが合ってしまう。
レインは、これに気付いていたのだろうか?
『威鶴と柴崎依鶴は、同一人物であり、柴崎依鶴は男と性を偽り、威鶴としてBOMBへバイトとして入ることになった。
それ自体は問題ないが、依頼はBOMBのメンバーはしてはいけない。
どんな姿であっても、プライベートで直接依頼をすることは禁止の上、プライベートでのパートナー同士の接触も厳禁。
つまり威鶴は今、BOMBの契約違反となる可能性がある』と――。
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