仲間
『依頼完了
20時45分、マサル・雷知がターゲットを確保
ご苦労様
全員無事だった。
本日24時、BOMB集合
トーマには23時と伝えること。
レイン』
それは、トーマの遅刻癖をかなり根に持っているレインからのメールだった。
まぁ、それくらいの時刻が妥当だろう。
それにしても、会いたくない。
熱は37℃と少しで、大分落ち着いた。
咳もまだ出ていないし、体も軽い。
ただ、声に少し問題はあるが、依鶴から風邪を貰ったとかなんとか言えばどうにかなるだろう。
マサルが騒ぎ出しそうな気もしなくはないが。
現在22時半、仕度をしてBOMBへ向かおう。
トーマに、『23時BOMB集合』とメールを打ち、送信。
会いたくねぇなぁ。
BOMBに着くその時までずっと、俺はひたすらそう思っていた。
BOMBに着くと、珍しくトーマが先に来ていた。
「珍しいな、明日は大雪か」
「あ?今は夏……っつーか威鶴テメー1時間早く伝えやがっただろ!?」
「……!!ぐ、ぐるじいっす、トーマさん!」
「遅刻魔が何を言う」
「今回は別だ、コイツが戻って来たのを確かめなきゃいけなかったからな」
「腕、首絞まってる、っす、トーマさん!今一瞬天国がチラ見したっす!」
「ところでトーマ」
「なんだ?」
俺は来た時からずっと気になっていたそれを聞いた。
「そいつ、誰?」
「空気だ」
「勝手に空気にしないでくださいよトーマさん!」
トーマの腕の中で首を絞められている男。
口で反抗してる割には嬉しそうなその男。
大体想像つくけど。
むしろ、見覚えすらあるけど。
「威鶴、コイツ昔の仲間のトモっつーんだ」
やはり、今回犯人の場所を特定する鍵となった男だ。
「トーマさん、この人があの威鶴さんっすか?」
そう言ったトモという男は、すでに俺の事をトーマから聞かされているらしい。
「あぁ。ぜってー敵に回すんじゃねーぞ?いいか?ぜってーだからな?」
「……了解っす」
なぜそんなに強調する。
地味に傷付くじゃないか。
気付けば、トーマが先に来ていた驚きや、過去で見た時よりもずいぶんと短髪になっていたその男を見たおかげか、トーマに会いたくなかった気持ちは一瞬にしてなくなった。
いつものトーマと何も変わりないと、逆に先程までの事が夢だったかのような感覚になる。
「そういや威鶴、声変じゃねーか?」
「ケンカ売ってるなら一瞬で終わらせてやる」
「ちげーよ!なんか鼻声じゃねーか?」
さすがトーマ。
早速気付いてきたか。
長い間パートナーをしていると、ごまかしが効かなくて困る。
「移ったかな」
「ゲ、今度は威鶴かよ」
当初の予定通り、依鶴から風邪をもらったことにするが。
なんだその心底嫌そうな顔は。
男と女でずいぶんと態度が違うな。
「大丈夫だ、お前を看病に呼び出すことはない」
「そう言うと思った。規則もあるしな」
その規則を破るほどに俺の体は弱ってたんだけどな。
と、そろそろお遊びもこの辺にしておこうと思う。
部屋全体に目を向け、来ているメンバーを確認する。
俺、トーマ、トモ、それと依頼人の渡辺春と、被害者になった彼女。
泣いている彼女を慰めている。
彼と会えて安心したのだろうか。
それに10代前半くらいの子供が一人、この子も被害者だろう。
それから雷知はパソコンをいじっている。
ちなみに子供は雷知の膝枕で寝ていて静かだ。
そしてここでようやく気付く。
「雷知」
雷知を呼ぶと、その画面から目を離し、俺に目を向ける。
「なんだ?威鶴」
そして気になっていた事を1つ、聞く。
「騒がしい奴がいないな」
そう、騒がしさ代表のマサルがいない。
レインはまだ時間じゃないから居ないのはいいとして、マサルと雷知はパートナーだ。
「今日は来ない」
意外な返答。
マサルは今日来ないのか。
「何かあったのか?」
BOMBに居れば、通常ではまずない事が日常茶飯事である。
怪我においては重傷軽傷問わず多く、精神を壊す奴も時々いる。
表面上では法律は忠実に守るのが基本だが、時々警察に目を付けられる事もある。
「今頃犯人への尋問タイムだ」
尋問、だと?
つまり、詳しい話を聞いているんだろうか。
あのマサルが?
「意外か?」
そう聞いて雷知は小さく笑う。
意外といえば意外だが、納得も出来なくはない。
「ただの尋問か?」
「いや、少しキツいやつ。場合によっては詰問もする」
『少しキツいやつ』
それが示すことは、ただ問いただすだけの生易しいことはしていない、ということ。
つまり、精神的に追い込んで問いただすという形式だろう。
「あのマサルにそんな事が出来たのか」
「普段はあの能天気な顔でカバーしてるけどな」
興味はあるが、そのタイプは厄介だ。
敵に回したくない。
前にも少し感じたが、どうやら俺はマサルとは相性が悪いようだ。
「情報収集から場所や人物の割り出しや特定までは、俺の仕事。威鶴がくれた情報から、電車の位置や場所を特定したのは俺な」
「あぁ、なんとなくそれはわかる」
「それから人と対立する事全般がマサルの仕事だ。愛想のいい顔して、初めて会う人でも信頼を得て情報を聞き出したり、犯人や被害者にも適切な対応をする」
確かに、あのタイプは話し上手だ。
誰とでも打ち解けられるだろう。
でもそれだけじゃBOMBにいる理由がない。
「他に何か、持ってるんだろ?」
BOMBに入る条件には、他人よりも圧倒的な『何か』を持っていなければならない。
それは俺の能力だったり、トーマの強さだったり、雷知の情報処理能力だったり。
「そうだね。マサルは人を操る力を持っているよ」
「操る?」
やはりマサルとは、仲良くなれそうにない。
「アイツの昼の仕事は『カウンセラー』。人の心を知り尽くしている。誘導尋問もお手の物だね」
能力というものは、使い方によって善にも悪にもなる。
人の心をいい方向へ導くその力を、ここでは尋問として使っている。
マサルを少し、怖いと思ってしまった。
俺の場合は、過去を使って人を脅すことが出来る。
ただしそれは過去に後悔を抱いている奴にしか通じないだろう。
大抵は子供時代を詮索すればいろいろと出てくるが、その過去をすべて受け入れた上で今の自分が出来上がってるという考えを持つ人もいるだろう。
結局それは他人がどうこう出来る問題じゃなく、自分の中で解決する問題だ。
ただし、精神面を操作するとなると、また違った問題になる。
いくら俺が過去を使って脅そうとしたところで、この能力自体の見方を変えさせられれば、俺は勝つことはできないだろう。
この能力自体が俺にとっての弱点でもある。
そんなことは俺の過去を見なくても、想像できることだろう。
きっと俺とマサルが戦ったら、俺は負けた上に精神の傷をえぐられることになる。
精神というものはそれほど脆いのだ。
精神が崩れれば、そいつの持っているもの全てが崩れる。
そう言っても過言じゃないだろう。
その上恐らく、雷知によって犯人の過去情報も割り出されてネタにされるはずだ。
二人が揃えば俺たちよりも恐ろしい武器となる。
「マサルさんてあのすっげー話しやすい人っすよね?」
トモがトーマに聞く。
「あぁ、お前ら会ったのか」
「はい、助けられた時に。そこで寝てる子もあの時はすっげー泣いてたんすけど、マサルさんがなだめて、いつの間にか寝てたっすし」
あの雷知の膝枕してる子はマサルがなだめたのか。
確かに、カウンセラーと言うなら安心させることも得意なんだろう。
「あの彼女さんも最初は震えてたんすけど、彼の名前を出して安心させたり、俺も最初マサルさんには掴みかかったんすけど、トーマさんの名前出されて心配してるって聞かされたら、殴る気も失せました」
おぉ、まるで精神安定剤。
マサルの意外な一面を知ってしまった。
「あの人のおかげで、安心して戻って来れたんす。感謝してます」
そう言ってトモはニッと笑った。
ふと、ノック音と共に扉が開き、レインが姿を見せる。
「お疲れ様。では、詳しく話を聞くとするわ」
言いながら奥のソファーに向かう。
「さぁ、報告会議を始めましょう」
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