占い師と元ヤン



なんだこれ。


なんとなく、恥ずかしい。




こんなトーマ、見たことない。




なんだか、少し、調子が狂う。






フワリ、いきなり頭が大きな何かになでられる。


トーマの、手?




いきなりのことで驚いたけど、布団から顔を放してトーマを見る。




「お前も、ムリするなよ」


「え?」


「占い。凄腕なんだろ?」




カァァッ、顔に熱が集まる。




トーマの顔が思っていたよりも近くて、顔が優しくて、その手つきも優しくて。


そうか、今風邪のせいか、聴覚の調子も悪いんだ。


距離感を、測れなかった。




逆を言えば私は今、ちゃんと普通の女の子と同等になれているような気がして。


……いやまって、なに、ちゃんとって、女の子って、なに。


何を期待、してるの。


なんでトーマに、そんな、乙女チックなこと、思ってるの。




自分で自分が、わからない。




「なぁ。威鶴の……って、男の方な?アイツの能力、俺も知ってんだけどな」


「え、はい」


「依鶴さんも占い出来んだろ?そういうのって、血筋みたいなもん?」


「……」




さて、今度はどう答えましょうか。


血筋と言うか、なんというか、いづるは一人の人間だからであって……。




遺伝?


いやなんか違う。


血筋、とも言い難い。




「ええと、占いは、言ってしまえば誰でもできる可能性があるものです、から。能力とか、そういうのじゃないです」


「誰でも?」


「子供でも出来るでしょう?お天気占いとか、花占いとか。投げた靴が表なら明日晴れ、裏なら雨。タロット占いも趣味でする人とかいますし、ね?」




よかった、形上だけでも『占い』で。


占いならどうとでもなる。




一つ、安心のため息をついた。




「そうなのか。やっぱアイツはすげーな」




そう言って私から少し視線を外して微笑むトーマ。






すごくなんてないよ。


人を傷つけるものは、すごいなんて言えない。




トーマは傷つく。


威鶴がトーマの過去を見たこと、言ったら傷つく。




それなのに、自分が傷つく可能性がある、過去を見る能力と表裏一体の未来を見ること、トーマは躊躇いなく見せてくれる。


ほんの数分後の未来でも、この能力を恐れていない。




そして、威鶴への信頼があるからこそ、未来を見せてくれる。


威鶴の未来を、手助けしてくれてる。




「竹原透眞さん」


「あ?」




ボーっとしていたトーマが、私を見る。


私を視界に入れる。




でも過去は見ない。


トーマの過去も、イタイ、から。




「来てくれて、ありがとう」


「あ、いや……暇だったしな」


「それでも嬉しい。少し楽になりました」


「そーか」




ふっと笑う、トーマ。


ううん、透眞。




私の知らない透眞を見せる、君。


これが、普段の女の子に対しての透眞、か。




甘い。


甘すぎるよ、透眞。




いつもの目力、どこ行っちゃったの。




「食欲、あるか?」


「え?あ……たぶん」




そう言った私から、お盆に目を向ける。


そこには湯気のたった、あたたかそうなうどんが置いてある。




「麺なら食べやすいだろ?」






あの冷酷横暴ヤンキーなトーマが優しい!?






ついて行けない。


これは完全に、私の知っているトーマじゃない!


絶対違う、透眞とトーマは別人格だ!!


うどんは、おいしかった。




透眞は、一般家庭料理は出来るらしい。


意外にも家庭的な面もちゃんと持ってるんだ。


不良だったのに。




「食い終わったらコレ、医者から預かった薬な」


「あ、ありがとう」


「1日3回食後2粒。終わったらまた体温測れ」




病人の扱い、慣れてるのかな。


テキパキと話す透眞は、まるで母親。




ふと気付いて時刻を見ると、午後2時。


確かバイトから帰って来たのが朝の6時頃で、一度寝て起きたのが9時頃。


それからご飯食べてメール打って……たぶん気を失ったのが10時過ぎ。




それから知らないうちに透眞が来たり、お医者さんに診てもらったり、ごはん作ってくれてたりで、起きたのはついさっき。




「あの、透眞さんはいつ頃から私を看てくれていたんですか?」




少なくとも、1時間やそこらではない。




キョトン、そんな顔で私を見る透眞。




「昼頃だったか?たしか」


「それじゃ今までずっと居てくれたんですか?」


「薬の説明やらメシ食わせるやらさせなきゃだったからな」


「その間どうしてたんですか?暇じゃありませんでした?」




トーマは少し黙り込み、目をそらした。


そしてポツリ。






「悪い……」






謝った。


なぜ謝るの?




寝ている間に、私は何かしてしまっていたのだろうか?






いや、でも謝るってまさか……いやいやまさか、何かされてたとか?


でもさっき『何もしてない』って言ってたし。




それとも寝顔見られてたとか!?


やだ恥ずかしいんだけど!




「言ってください、気になります」




そう言うと透眞は1つ、ため息をついた。


そして。






「俺も寝てた」




ポツリ、小さくそう言った。




透眞、も、寝てた?




「どこで?」


「そこ」




そう言って透眞が指したのは、ベッドの足元の方にある壁の下部分。




「そこ、で?」




そこには、トーマの荷物が置いてある。


そこに居たのは本当らしい。




「悪かった」


「あ、いえ、別に勝手に寝たことなら気にしませんし、むしろありがたいというか……」




看病のために、居てくれてた。




トーマだって、連日仕事に駆り出されて、疲れてたはずなのに。


威鶴が疲れるのに、トーマが疲れないはずがない。




もう少し早く起きてれば……ううん、トーマが来た時に『私達』が気付いていたら、ソファーを譲ったり、タオルケットとかクッションくらい用意してたのに。


詳しく言えば、動けないから用意自体は透眞に任せてたかもしれないけど。




「こちらこそ、急にごめんなさい」




うどんを見つめて、また透眞に視線を戻す。




「急にわけのわからないメール送って、お医者さんにも診せてくれて、ご飯まで……」


「いや、病人と知ったらここまでするのは当たり前だから」




そう言うトーマに、心が温まるような、ほんわかとした気持ちになった。




「ありがとう」




そして知る。




「透眞さんには、こういう時に看病とかしてくれる人が、ちゃんといたんですね」




トーマと私の、『違い』


暖かな環境で学ぶ、優しさ。


支え方、支えられ方。




そこにある『無条件の愛情』。




言ってしまった、小さなやきもち。




「私には、いなかったかな」




いたかな。


いなかったな。




忘れた?


なかった。




「なくなった、かな」




辺りは、うどんを食べる私の音しか発されない。




「ごちそうさまでした」




私は空のお皿を見て、そう言った。


そして薬に手を伸ばす。






「『いなかった』って」




薬を水で、流し込む。




「『なくなった』って?」




ごくごく、流し込む。




体温計を取り出して、胸のボタンを1っ開け、そこから脇にさしこむ。


ふぅ、また、ため息。




「これが鳴るまで、一人言をします」




そう言って私は、窓に目を向けた。




なぜ話そうと思ったんだろう?


透眞と私は初対面なのに。






だからこそかもしれないし、過去を知っている罪悪感からかもしれない。


威鶴では話せない事でも、依鶴なら関係ない。




本当は自分を、知ってもらいたかったのかもしれない。

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