状況と作戦
「マサルさん、雷知さん」
俺は、眼帯を外して、彼らを見据えて、言った。
「過去、みてもいいですか?」
そう言った直後、二人の表情が、固まった。
「見るって……?え、なに?占い?」
マサルが少し焦りだす。
そして俺は依鶴じゃないから『占い』はしない。
「ムリにとは言いませんが。事件に関してはどちらか片方の過去を見れば、大体状況が把握できるでしょうし」
二人は顔を見合わせる。
どうやら、本当に知らされていないらしい。
俺の特殊能力のことを。
レインは二人に言う。
「マサル、雷知、聞いて。この事は機関外で話すのは禁止」
「え……?占いが?」
「占いじゃ、ないのよ」
話す時はいつも、緊張する。
俺の能力は『普通』の枠を超えている。
レインが俺を横目で見るのを合図に、俺は二人に話す。
「俺には、特殊な能力があります」
「能力?」
マサルが興味深そうに聞く。
話したら騒ぎ出しそうだが、言わないわけにもいかない。
「1つ、俺の右目は目が合った人の未来、過去を見ることが出来る」
「……へ?占いじゃなくて?」
いつまでも占いを引きずるなマサル。
コイツは面倒な性格だと思いながら説明をする。
「占いとは全然違う。映像が目の裏に流れ込んで来るような……夢を見ている時のような感覚です」
おぉ、と、二人は驚いた様子だ。
「まるでどこかの特殊機関の一員だな」
「今まさにここの一員ですけどね」
雷知の言葉に、俺はそう返す。
BOMBだって十分特殊だ。
雷知は一体ボケなのかツッコミなのか。
まぁ、お笑い業界と言うわけじゃないから追及はしないが。
そして俺は次の能力を説明する。
「2つ、俺の聴力はほんの少し音がしただけでも物の距離、位置、物自体が何なのかすらも、特定出来ます」
「……」
「……音で?」
再びポカンとする二人。
現実味がないんだろう。
疑っているわけじゃないとは思うが、一応本人たちで試してみよう。
「例えば、雷知さんの胸ポケットにはタバコとライター。タバコの数は4本で、ライターは半分以下になっているはずです」
バッ、二人は俺がそう言った瞬間に雷知の胸ポケットを凝視、タバコとライターを取り出して確認しだした。
俺が見る限りでも4本、半分以下。
「お前、透視出来んじゃねーの……?」
マサルは怪しんだ目で見てくる。
ならばイメージしやすいように、少し補助をしよう。
「いや、あくまで聴力。例えば雷とか花火は、目に見えなくても近いか遠いか、真上かどの方角で音が鳴っているのか、大体ならわかるでしょう?」
コクリ、うなずく雷知に、「わかるか?」とよくわからなそうなマサル。
「ファミンスで皿が割れたら」
「「わかった!!」」
マサルも叫んだが、なぜかトーマも叫んだ。
お前も参加してたのか。
なぜかファミレスの例えの方がイメージしやすかったらしい。
トーマも、ずっと一緒に仕事して来た割には、よくわかっていなかったのだろう。
「人間……生き物っていうのは、止まっているように見えても微弱ながら動いている。呼吸をするし、心臓も動いているから。それによって身に付けているものはかすかにこすれて音がする」
「それを聞き分けてるってことか?」
「そういうことです」
雷知は理解が早くて助かる。
ようやく三つめの能力……と言うよりは特技に近いことを告げる。
「そして最後に、これは特殊というわけでもないですが、指先が器用な方ですね」
「指先?」
「感覚的には、マジシャンみたいなものです」
「マジック出来んの!?」
あぁ、またマサルが叫んだ。
そのマサルを殴る雷知。
彼の脳細胞は、こうしてどんどん死滅していくんだな。
「マジックはしませんが。あとはまぁ……スリとか、子供の頃には千羽鶴が作りたくて1センチに切った折り紙で千羽鶴つくりましたしね」
「うわ、俺ムリそれムリ!」
「まぁ実行する人はいないでしょうね。実践ではカードキーをスッたり、急所を一突きしたり」
さて、これを聞いて、どんな反応を見せるだろうか?
いつも感じる、少しの不安。
トーマに話した時も、そうだった。
言ってしまえばこれは『異常』であり、普通じゃない。
組織はこの能力を欲していても、世間は気味悪がるだろう。
「BOMBがなぜ威鶴を正規に入れたいか、よくわかった。これは心強いな」
そう言った雷知に、不安が消える。
心強い……か。
それでも俺は、入ろうとは思わない。
「でも、こんなスゲーのになんでバイトなんだよ?」
「マサル、それ聞いちゃダメだろ。身分を隠す意味がなくなる」
「あ、そっか」
そうだ。
ここでは本名禁止、個人を深く知ることは禁止だ。
特に俺は自分を隠していたい。
占い師の事もまた、隠したい。
その禁止事項を、俺は破り始めているけれど。
トーマの姉、妹、過去、未来……依鶴とトーマの未来。
知ってはいけない事を、能力と本業のせいで、どんどん知っていく。
なぜ依鶴がトーマと?
「いいかしら?そういうわけだから、今回は威鶴の能力も含めて、今後の動きを考えて」
レインがそう言い、マサルと雷知は頷いた。
「いぇっさー!」
「了解です」
二人がそう言うと、レインは席を立つ。
「それじゃ威鶴、あとよろしく」
レインが部屋を出て行き、室内は数少沈黙が走った。
そして。
「レインさん、今日も美しや……」
やっぱり沈黙を破るのはマサルだった。
大体わかってきたぞ、マサルの性格。
クラスに一人はいるような問題児。
典型的な女好きだろう。
「あぁ、あのスラリとしたボディ、整った顔、長い髪……」
「変態」
「ひでぇ!!」
そしてツッコミ雷知。
これは確かに、話が脱線するな。
さらにそれに無関心なトーマ。
だからレインは俺に頼んだのか。
パンパン、手を2度叩いて注目を集める。
まるで幼児を扱ってるかのようだ。
「これからの予定を決める。とりあえずどっちか過去を見せてくれ」
二人は互いを見合い、マサルが手を挙げた。
「俺のでいーよ!俺の見て!」
「却下」
「ひでぇ!!」
あれ、俺なんで今却下したんだろう?
なんだかよくわからないが、とてつもなく嫌な予感がした。
そうか、あの目の動きは見たくない。
集中力が足りないのか、興味の対象が次々と移るのか、視線が一点を向かず、色々と見にくそうだ。
俺の目が追いつかないだろう。
決して苛めたいわけじゃない。
「雷知、もしよかったら雷知の過去──」
「あぁ、いいよ」
「なんでだよっ!?」
マサルが食いつく。
お前はおとなしく座っていなさい。
「マサルが煩いからじゃないか?」
悔しそうにマサルが俺を見つめる。
コイツに過去を見るという脅し文句は使えないから、とりあえず無視することにした。
眼帯を外し、雷知を見る。
「ライチ」
そう呼べば簡単に、俺に向く視線。
──流れ込む、二人の過去。
だいたい1ヶ月前から、この件を調べているらしい。
「トーマ、周辺捜査、聞き込み、警察、ハッキング──一度掴んで、空振り。接触なし」
「おーよ」
『見たもの』をいつも通り、簡潔にトーマに伝える。
過去からこの二人が今までしてきた事をメモるトーマ。
その姿を呆然と見ているマサル、目を反らすことが出来ない雷知。
そこで一度過去を切り離した。
「被害者4名の、可能性有りの行方不明者2名……いや、今日で3名。
「行方不明?」
トーマが反応した。
それも想定内だ。
「男だった」
「特徴は?」
「ロン毛つり目」
たぶん、トーマが探してる昔の仲間とやらかどうか、気になるらしい。
ただ、昔と今じゃ、変化する部分も多い。
「過去から──いや、接触してないんだったか……」
「悪い、写真だったから、そいつの過去には移れない」
チッと舌打ちをして二人を睨むトーマ。
いや、二人に否はない。
八つ当たりするな。
わけもわからず睨まれた二人は、その迫力に身をすくめる。
まぁ、トーマも元不良だし、怖いだろうな。
「トーマ」
「……悪い」
軽く注意する。
心配なのもわからなくはない。
だが八つ当たりは違うだろ。
今すべきことは、違うだろ。
「とりあえず、少しでも……目だけでもいい、誰かしら接触できれば俺が過去を探る事が出来るし、未来も見る事が出来る」
「すると……犯人が特定出来るわけか」
「犯人と、うまくいけば行方不明者の居場所も特定出来る」
「わお便利!」
問題は辿り着くまでだ。
どうやっておびき寄せるか、それとも、こちらから行く事が出来るか。
渡辺春の彼女からは、何も手がかりが見つからない。
ただ、現時点で1つ、うまくいけば手がかりとなり得る可能性がある手段が1つある。
ただそれは……出来ればしたくない。
「犯人への接触、手がかりを掴むためにで1つだけ、今持っている中で手がかりになり得る可能性があるものがある」
「え、それ本当か!?」
マサルが騒ぐ、少しうるさい。
出来れば、したくない。
避けたい、苦しいから。
「ただ少し、それは避けたいところだ」
「どういうことだ?」
トーマが俺を見る。
俺はトーマに向き直る。
「トーマの過去を、見ることになる」
苦しい、ツラい、君のココロ。
君を取るか、依頼を取るか。
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