占い師『柴崎依鶴』の仕事
「……は?え……は?」
明らかに今の言葉を理解出来ていない様子。
むしろ、理解したくない。
「少なくとも、このままでは半年は姿を現さないでしょう」
「待てよ、さっき居なくなったんすよ?ホントにさっきまで……」
ただの迷子ではないのかもしれない。
故意にいなくなった、もしくは事件性がある?
「すみません、もう少しお付き合い下さい」
私がそう言うと、彼は椅子に座った。
了承してもらえたらしい。
そして今度は、彼の過去を覗く。
彼は眉をひそめる。
違和感をに気付いてしまっているようだ……早く終わらせてしまおう。
まず流れて来た映像は、約30分ほど前、彼女といる映像。
仲が悪くなさそう。
それから少しして……彼女を店に残して、自分はタバコに。
そして戻ると、居なくなっていた。
周辺を探し、居ない事を確認し、迷子センターへ。
呼んで10分しても来ない。
一度、彼女がいた時間まで遡る。
そして、まっすぐ彼に視線を向ける彼女の瞳を、じっと見つめ……私は、彼の過去を通して、彼女の記憶に移る。
その時点での彼女の記憶から、未来を探す。
ぼんやりとして見えにくいけれど、それから数分後、彼と別れて店に残った後を見ることが出来た。
しんどい、疲れる。
過去から移動して違う人の未来を見るのは、とても目の裏が痛くなる。
それでも、少しムチャをしてでも知る必要があると、確信し──当たった。
突如グラリと視界が揺れ、目の前が真っ暗になる。
指の間のようなものから、光が少しだけ差し込み──気を失ったようだ。
完全に視界が0になり、さらに先を見る。
何時間経っただろう?
感覚的に三時間ほど経過したと仮定すると、完全に今の時間軸より未来だ。
そこでようやく目を覚ました。
視線が辺りを見回す。
動揺、焦り……薬の可能性もある。
嗅がされて意識を失ったと、仮定しておこう。
場所は、何かの小さな倉庫の中らしい。
真っ暗で、見えにくい。
視界が足を捉えた。
どうやら縛られている様子。
これは、拉致監禁?
この事を伝えるために、彼女の未来、そして彼の過去からも切り離す。
「彼女は今、事件に巻き込まれているようです」
「──事件?」
彼が目を見開き、絶望の色を見せた。
「え、うそだ、なんで、今、どこに──」
「落ち着いて下さい、今はこの場所から離れている可能性が高いです。移動しているか、別の場所で一時的に閉じ込められているか」
この『占い』を信じろというのも難しいだろうが、実際これが現実なのだ。
正直、今はどうしようもできない。
警察に連絡したとしても、捜査が始まる頃には移動し終えているだろう。
私が関わらない世界線だと、彼女は最低半年は姿を現さない。
そこに警察が関わらないはずがない。
とすると、行方不明なままか、最悪殺人の可能性もある。
そうだ……私は紙を取り出す。
このまま彼の過去から彼女の未来の続き見るには、体力が足りない。
確実に彼女の安全を知る為には、休む時間が必要だ。
徹夜で人の未来や過去を見過ぎた、これ以上は体がもたない。
精神的にはまだ数時間いけるけど、実際の体力が優先。
取り出した紙に、指示を書く。
まずは形だけでも、警察に連絡。
捜査依頼をしてもらう。
この間に私は仕事を切り上げ、確実に彼女が安全である三時間で睡眠を取り、万全を期して再び彼に彼女の未来を見せてもらう。
いくらくらいかかるだろうか?
私の中にある、私ではない記憶から推測する。
彼の金銭事情にもよるけど、出来ればBOMBを紹介して、この件を威鶴の仕事に移す。
ムリなら依鶴のまま、占いとして協力する事も頭に置いておこう。
『まずは警察に連絡。
三時間後、【izu_b.tizu_s-love@×××.ne.jp】に連絡、占い師柴崎依鶴と合流。
占い再開。
夜8時~10時頃、OO駅改札付近で赤いドレスを着た女と待ち合わせ。
その女についてあるビルへ行き、事件の捜査依頼を(出来れば)する。
その場所で交渉が成立した場合、以後はその機関にまかせること。』
紙にそう書き、彼に渡す。
「これは、あなたがこれから彼女を助けるために動く手順です」
彼は紙をじっと見つめ、少し眉をひそめた。
「探偵事務所か何かですか?それに、(出来れば)って……」
「ここ、信用は出来るけど少し高いから。ここで交渉成立出来なかった場合は、もう一度このアドレスに連絡してください」
そしてまた二つ、あらかじめ持っていたカードを取り出す。
「青いカードを警察に、赤いカードを駅で待ち合わせた赤いドレスを着た女の人に渡してください」
それは『紹介カード』
BOMBは紹介制だから、必ずこのカードが必要になる。
『捜査補助機関 BOMB
紹介:威鶴(B-734)
依頼人_____様』
警察には、私専用の信用出来るという保証書のようなものを。
『〇〇店占い師 柴崎依鶴
捜査協力依頼』
「この依頼人の所にあなたの名前を書いてください」
震えた少し歪な字で『渡辺春』と書いたのを確認し、下に私のサインを入れた。
「これで一旦説明は終了です。それでは、三時間後に」
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
彼は席を立ち、私はその場を片付けた。
……二日連続の依頼。
しかも今回は長引く可能性がある上に、私にしか出来ない──未来を見るという条件付き。
確実に仕事が威鶴へ回ってくる。
現在正午。
『本日は閉店』それを入口に張り、近くのパン屋へ向かった。
その後昼食を取り、私は事務所のソファーで少し寝た。
──ピロリロリン♪
その小さくて高い音で目が覚めた。
メールだ。
まだ働かない頭。
3時間じゃ寝た気がしない。
手でスマホを探り出し、メールを開く。
「わたなべしゅん……あの客か」
よかった、ちゃんと連絡して来た。
『警察には、連絡しました。さっきの場所へ行けばいいですか?』
ふと考える。
今日はもう営業する気はない。
残りの時間も睡眠に使い、夜威鶴として活動する予定だ。
待ち合わせとしてここを使おう。
『先程の場所でお願いします』
そうメールを返し、ウィッグを付け直す。
額のアクアマリンも付ける。
BOMBにも連絡して、駅に案内人の手配を頼まなければ。
簡単にレインにメールを送った。
それから待ち合わせの占いブースへと向かった。
ブースへ着くと、既に渡辺春は来ていた。
「あ、柴崎さん」
彼が私をすぐ見付けたので、手招きした。
そのままついて来る彼を事務所へ通す。
「警察、どうでした?」
「あぁ、柴崎さんのカードを渡したらすぐに動いてくれました」
そう言って彼は寂しく笑う。
笑える気分にはなれないのだろう。
私は、警察と繋がりがある。
時々占いでの客をこうして警察に渡すことがあるし、警察に協力していた頃もあったからだ。
よかった、これで少しは早く捜査が始まる。
「それでは、先程より長く、細かく占わせていただきす。話しかけないでください」
そう言い、彼の瞳を見つめた。
深く深く集中する。
彼の過去、彼女の未来、そして倉庫の中で目覚めた所から。
しばらくは誰も来ないが視界が潤む、泣いているようだ。
ふと視線を上げた。
逆光で見えにくいが、誰か居る。
食事を持ってきたらしい。
腕の縄だけを外し、その人は部屋を出た。
その男には見覚えがあった。
BOMBが今目を付けている男たちのグループだ。
でも確か強盗とかだった気がする。
今まで人はさらわれていなかったはず。
私の聞いた情報が古い可能性もあるけれど。
もしかしたら、以前彼女と接触していた、とか?
とにかく今は彼女の未来を見て、安全でいられる日数を探そう。
大きく、早く、視界が動く。
来る日も来る日もまっ暗闇。
――ダメだ、こんなの先に精神がダメになる。
長時間太陽に当たらないと病む。
光が当たるのは朝と昼の数秒のみ。
数時間に一度外に出されても、目隠しがある。
視界は常に暗闇。
体勢も大きくは変えられない、先の見えない未来。
これは……生き地獄だ。
目を覆われ、場所の特定も出来ない。
犯人は殺す気はないようだが、先を見る限り一ヶ月はこの生活。
つまり、最悪一ヶ月と少しは命の保証はできる。
過去へ戻り、彼女が攫われる前まで時間を戻す。
彼女の過去に、原因があるのではないかと睨んだからだ。
その読みは当たり、渡辺春との待ち合わせる数日前の夜、マンションを出た時に怪しい人影を見ていた。
ふと振り返る人影は彼女と目が合い――彼女は再び部屋に戻る。
この時接触していたのが犯人ではないか?
その後彼と会うまで部屋を出ていない。
恐らく、怖くて外に出られずにいたのか。
その数日後、攫われ現在に至る。
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