幼なじみの君に恋をプログラミング 〜桜舞う春、はにかむ告白〜

久野真一

幼なじみの君に恋をプログラミング 〜桜舞う春、はにかむ告白〜

春の柔らかな日差しが、教室の窓から差し込んでくる。

新学期が始まって間もない頃、僕は机に向かってスマートフォンを覗き込んでいた。画面には、昨日の夜遅くまで取り組んでいたウェブサイトのコードが表示されている。


「だいちゃん、おはよー!」


突然、耳元で聞こえた明るい声に、僕は思わず肩を跳ねさせた。振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたさくらが立っていた。


「お、おはよう、さくら」


僕は少し慌てて返事をする。さくらの笑顔を見ていると、いつも心臓が少しだけ早く鼓動を打つ。


さくら、本名は結城桜。僕の幼なじみで、小さい頃からずっと一緒だ。明るくて元気で、クラスの人気者。そんな彼女が、内気でプログラミングオタクの僕と仲が良いことを、クラスメイトはよく不思議がる。


でも、さくらは気にしない。むしろ、僕のことを「だいちゃん」と呼んで、いつも僕の隣にいてくれる。


「ねえ、だいちゃん。また徹夜でプログラミングしてたでしょ?」


さくらは、僕の目の下にできたクマを指差しながら言った。


「まあ……ちょっとね」


僕は少し照れくさそうに答える。


「もう、体調もプログラムで管理してよ」


さくらは、冗談交じりに僕をたしなめる。


「そうだな。『さくらに心配させないプログラム』でも作ろうかな」


僕も冗談で返す。


さくらは笑いながら、「それ、絶対バグるよ!」と言った。


教室に響く二人の笑い声。新しい学年が始まったばかりの、桜咲く春の朝。僕たちの物語は、こうして始まった。


◇◇◇◇


高校2年生になった僕、林大樹は、相変わらずプログラミングに没頭する日々を送っていた。でも、最近はちょっと違う。さくらのことを考える時間が、少しずつ増えてきている。


幼なじみとして長年一緒にいるうちに、いつの間にか特別な存在になっていた。でも、その気持ちを伝えるのは怖い。今の関係が壊れてしまうかもしれない。そんな不安が、いつも僕の胸の中でぐるぐると渦を巻いている。


ある日の放課後、僕はいつものように部室でプログラミングをしていた。


「だいちゃーん、まだいた!」


ドアを開けて入ってきたさくらの声に、僕は驚いて振り向いた。


「さくら?どうしたの、こんな時間まで」

「うん、委員会の仕事が長引いちゃって。だいちゃんも遅いね」


さくらは僕の隣の椅子に座り、のぞき込むようにして画面を見た。


「何作ってるの?」

「ああ、これはね……」


僕は少し躊躇した後、意を決して話し始めた。


「実は、学校の桜の開花予想をするプログラムを作ってるんだ」

「えー!すごい!どうやってやるの?」


さくらの目が輝いた。僕は嬉しくなって、詳しく説明を始めた。


「気温データと過去の開花日のデータを使って、機械学習で予測するんだ。でも、まだ精度が低くて……」


「へー、だいちゃんってホントに頭いいよね」


さくらが感心したように言う。でも、僕の頭の中は別のことでいっぱいだった。


(さくらの笑顔、本当に綺麗だな……)


「あ、そうだ!」


突然、さくらが声を上げた。


「だいちゃん、明日の放課後、時間ある?」

「え?うん、あるけど……」

「じゃあ、図書館に行こう!」

「図書館?」

「うん!だいちゃんのプログラムの参考になりそうな本、一緒に探そう!」


僕は少し驚いた。さくらが自分から図書館に行こうと言い出すなんて珍しい。


「分かった。じゃあ、明日放課後に」


約束をして、二人で下校の準備を始めた。外に出ると、夕暮れ時の風が二人の髪をそっと撫でていく。


「ねえ、だいちゃん」


帰り道、さくらが急に立ち止まった。


「なに?」

「覚えてる?私たちが初めて出会った日のこと」


僕は少し考え込んだ。そして、ふと思い出した。


◆◆◆◆


僕たちが5歳の頃だった。近所の公園で、僕は一人でゲーム機を触っていた。


「ねえねえ、それなあに?」


突然、元気な声が聞こえた。振り向くと、そこには明るい笑顔の女の子がいた。


「ゲーム」


内気な僕は、小さな声で答えた。


「へえー、面白そう!私も見せて!」


女の子は、僕の隣にちょこんと座った。


「私、結城桜!さくらって呼んでね!君は?」

「林大樹……」

「だいき?じゃあ、だいちゃんだね!」


そう言って、さくらは笑顔で僕の肩を叩いた。


「これからお友達だよ!」


◇◇◇◇


「うん、覚えてる」


僕は少し照れくさそうに答えた。


「あの時から、だいちゃんはずっと変わらないね。でも……」


さくらは、夕日に照らされた桜並木を見上げながら言った。


「少しずつ、大人になってきてる気がする」


その言葉に、僕の心臓が高鳴った。


「さくらこそ、昔から明るくて優しいまま」

「えへへ、そう?」


さくらが振り向いて、柔らかな笑顔を向けてきた。その瞬間、桜の花びらが風に乗って舞い、二人の間を通り過ぎていった。


「じゃあ、明日ね!」


さくらは手を振って、自分の家の方へ走っていった。僕は、その後ろ姿を見送りながら、胸の中で静かに誓った。


(このプログラム、絶対に成功させてみせる)


その夜、僕は遅くまでプログラミングに没頭した。さくらの笑顔を思い出しながら、コードを打ち込む。明日の図書館での勉強会……いや、デートが楽しみで仕方がない。


画面に映る文字の海。その中に、僕の想いを少しずつ埋め込んでいく。さくらへの気持ち、この春の輝き、そして二人の未来。全てを、このプログラムに込めて。

夜更けの静寂の中、キーボードを叩く音だけが響いていた。


◇◇◇◇


翌日の放課後、約束通り僕とさくらは図書館へ向かった。春の陽気に誘われるように、外で遊ぶ生徒たちの姿が見える。でも今日の僕たちの目的地は図書館だ。


「ねえだいちゃん、どんな本を探せばいいの?」


さくらが少し興奮気味に聞いてきた。


「そうだなぁ……気象学とか、データ分析の本があればいいかな」

「りょーかい!じゃあ私、気象学の方を探すね!」


さくらは元気よく本棚に向かっていった。その後ろ姿を見ながら、僕は少し考え込んだ。


(さくら、本当に一生懸命だな……)


僕も自分の担当の本を探し始めた。しばらくして、


「だいちゃーん、これどう?」


さくらが両手いっぱいに本を抱えて戻ってきた。


「わっ、たくさん見つけたね」

「えへへ、頑張っちゃった」


さくらの笑顔に、僕はまた心臓が高鳴るのを感じた。

二人で机に向かい、本を開いていく。さくらは真剣な表情で本を読んでいる。普段見せない一面だ。


「ねえだいちゃん、これ難しくない?」


さくらが不安そうな顔で僕を見た。


「大丈夫、一緒に考えよう」


僕は優しく微笑んで、さくらの隣に座った。二人の肩が触れそうなほど近い。甘い香りがほのかに漂ってくる。


(集中しなきゃ……でも、さくらが近くて……)


「あ、これ面白そう!」


さくらが突然声を上げた。その拍子に、彼女の長い髪が僕の頬をかすめた。


「え、どれどれ?」


僕はさくらが指さす部分を覗き込む。そこには、桜の開花と気温の関係についての詳しい説明が書かれていた。


「これ、だいちゃんのプログラムに使えるんじゃない?」

「本当だ!さくら、すごいね!」


思わず僕の声が大きくなってしまった。図書館の中で、二人は慌てて口に指を当てて「しーっ」とした。そして、小さく笑い合った。


その日の夕方遅くまで、僕たちは図書館で過ごした。帰り道、夕焼けに染まった空を見上げながら、さくらが言った。


「ねえだいちゃん、今日楽しかったな」

「うん、本当に」

「だいちゃんと一緒にいると、時間があっという間に過ぎちゃうんだよね」


さくらの言葉に、僕の心臓がまた跳ねた。


「僕も……さくらと一緒だと楽しいよ」


思い切って言ってみた。さくらは少し驚いたような、でも嬉しそうな顔をした。


「えへへ、ありがと」


二人の間に、ほんの少しの沈黙が流れる。


「あ、そうだ!」


さくらが突然立ち止まった。


「なに?」

「だいちゃんのプログラム、完成したら見せてね。楽しみにしてるから!」

「うん、もちろん!」


僕は力強く頷いた。さくらの期待に応えたい。そんな気持ちが、僕の中でどんどん大きくなっていく。


その夜、僕は再びプログラミングに没頭した。さくらと見つけた本の内容を参考に、プログラムを改良していく。画面に映るコードの一つ一つに、さくらへの想いを込めていく。


(きっと、このプログラムで……)

僕の指が、キーボードの上を踊り続けた。


◇◇◇◇


それから数日が過ぎた。僕のプログラムは、少しずつ形になってきていた。さくらも時々様子を見に来てくれる。


「ねえだいちゃん、今日はどう?」


さくらが昼休みに僕の机にやってきた。


「うん、だいぶ進んできたよ。でも……」


僕は少し躊躇いながら続けた。


「まだ精度が足りなくて。このままじゃ使い物にならないかも」

「そんなことない!」


さくらは力強く言った。


「だいちゃんが作ったんだもん。きっと素晴らしいプログラムになるよ」


その言葉に、僕は勇気づけられた。


「ありがとう、さくら」

「それより、だいちゃん。明日の放課後、時間ある?」

「うん、あるけど……どうしたの?」


僕は少し驚いて聞き返した。


「実は、学校の裏庭に古い桜の木があるんだけど、知ってる?」

「ああ、あの枯れかけの……」

「うん、そう。あの木、もうすぐ切られちゃうんだって」


さくらの声には、悲しみが混じっていた。


「へえ……」

「だから、最後にあの木を見に行きたいなって。だいちゃんも一緒に来てくれない?」


さくらの目には、期待の光が宿っていた。僕は迷わず答えた。


「うん、もちろん」


翌日の放課後、僕たちは約束通り学校の裏庭へ向かった。そこには確かに、一本の古びた桜の木が立っていた。幹はゴツゴツとして、枝も少し枯れかけている。でも、そんな中にもわずかに、新芽が顔を出していた。


「ねえ、だいちゃん。この木、何年くらい前からあるんだろう」


さくらが、木の幹に手を当てながら言った。


「さあ……でも、かなり古そうだね」

「うん。きっと、たくさんの人の思い出が詰まってるんだよ」


さくらの言葉に、僕はハッとした。そう、思い出……


「あ!」


突然の僕の声に、さくらは驚いて振り向いた。


「どうしたの?」

「さくら、僕に考えがある!」


僕は興奮気味に説明を始めた。


「このプログラム、ただ開花を予想するだけじゃなくて、みんなの思い出も集められるようにしよう!」

「え?どういうこと?」

「こうだ。ウェブサイトを作って、そこに桜にまつわる思い出を投稿できるようにする。そして、その思い出と開花予想を組み合わせて、特別な『思い出マップ』みたいなのを作るんだ」


さくらの目が輝いた。


「すごい!それ、素敵なアイデアだね!」


僕は続けた。


「それに、このサイトを通じて、この古い桜の木の存在も多くの人に知ってもらえる。そうすれば、もしかしたら……」

「切られずに済むかも!」


さくらが僕の言葉を引き取った。


「うん、そう願いたいね」


二人は顔を見合わせて、笑った。


その日から、僕はプログラムの改良に没頭した。単なる開花予想プログラムから、思い出を共有できるウェブサイトへと進化させていく。


JavaScriptを駆使して、インタラクティブな「思い出マップ」を作成。ユーザーが投稿した思い出が、地図上に桜の花びらとして表示されるようにした。


作業は夜遅くまで及んだ。でも、さくらからの応援メッセージが僕を支えてくれた。


「だいちゃん、頑張って!でも、無理はしないでね」


そんなメッセージを見るたびに、僕は心が温かくなった。


(さくらのために、みんなのために、頑張ろう)


そう思いながら、僕はキーボードを叩き続けた。


◇◇◇◇


春も深まり、桜の季節が近づいてきた。僕のプログラム……いや、ウェブサイトもついに完成した。


「さくらー!」


休み時間、僕は興奮気味にさくらの元へ駆け寄った。


「どうしたの、だいちゃん?」

「プログラム、完成したんだ!」


さくらの目が大きく見開かれた。


「本当?!見せて、見せて!」


僕はスマートフォンを取り出し、さくらに画面を見せた。そこには、美しいデザインの「桜メモリーズ」というタイトルのウェブサイトが表示されていた。


「わぁ……綺麗……」


さくらが感嘆の声を上げる。


「ほら、ここをタップしてみて」


僕の指示に従って、さくらが画面をタップすると、学校の地図が表示された。そして、その上にはたくさんの桜の花びらが散りばめられている。


「これが、みんなの思い出なんだ。タップすると、その場所にまつわる思い出が読めるよ」


さくらは夢中になって画面を操作し始めた。


「すごい……だいちゃん、これ本当に素晴らしいよ!」


さくらの言葉に、僕は照れくさそうに頷いた。


「それでね、さくら。実は校長先生にこのサイトのこと、相談してみたんだ」

「え?本当に?」

「うん。そしたら、すごく興味を持ってくれて……」


僕は少し言葉を詰まらせた。


「それで?」


さくらが、目を輝かせて聞いてくる。


「明日の朝礼で、このサイトのことを発表してもいいって言ってくれたんだ」

「えー!すごい!」


さくらが飛び上がらんばかりに喜んだ。


「だいちゃん、本当にやったね!」


思わずさくらが僕に抱きついてきた。


「わっ!」


突然の出来事に、僕は顔が真っ赤になる。周りのクラスメイトたちも、驚いた顔で僕たちを見ている。


「あ、ごめん……」


さくらも、自分がしたことに気づいて慌てて離れた。彼女の頬も、薄っすらと赤くなっている。


「い、いや……大丈夫だよ」


気まずい空気が流れる。でも、二人とも嬉しさは隠せない。


その日の帰り道。夕暮れ時の桜並木を歩きながら、さくらが言った。


「ねえ、だいちゃん」

「うん?」

「明日の発表、緊張する?」


僕は少し考えて答えた。


「うん、正直すごく緊張する。でも……」

「でも?」

「さくらが応援してくれてるって思うと、頑張れる気がするんだ」


その言葉に、さくらは少し驚いたような顔をした。そして、優しく微笑んだ。


「うん、もちろん応援してる。だいちゃんなら、絶対大丈夫」


二人の間に、柔らかな空気が流れる。


「さくらも……」


僕は言葉を詰まらせた。


「なに?」

「さくらも、明日一緒に壇上に立ってくれない?このプログラム、さくらのアイデアがあったからこそできたんだ」


さくらは少し驚いたような顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「うん!喜んで!」


二人は顔を見合わせて笑った。桜並木の下、二人の影が長く伸びていく。明日への期待と不安が入り混じる中、僕たちは家路についた。


◇◇◇◇


朝礼の日が来た。僕は緊張で胸がドキドキしていた。さくらも少し緊張した様子で、でも励ますように僕の肩を叩いてくれる。


「大丈夫、だいちゃんならできるよ」


その言葉に勇気づけられ、僕は深呼吸をした。

校長先生の話が終わり、いよいよ僕たちの番だ。


「では次に、林君とさくらさんから、特別なプレゼンテーションがあります」


校長先生の言葉に、体育館中の視線が僕たちに集まる。


(大丈夫、落ち着いて)


僕は壇上に立ち、マイクを手に取った。


「え~と……今日は、僕たちが作った『桜メモリーズ』というウェブサイトを紹介させてください」



少し震える声で話し始めた僕。でも、隣にいるさくらの存在が心強い。


「このサイトは、学校の桜にまつわる思い出を共有できるプラットフォームです。そして、AIを使って桜の開花予想もできるんです」


会場からどよめきが起こる。


「スクリーンを見てください」


大きなスクリーンに、僕たちのサイトが映し出された。美しいデザイン、そして学校の地図上に散りばめられた桜の花びら。


「この花びら一つ一つが、みんなの思い出なんです」


僕が説明を続ける中、さくらがデモンストレーションをしてくれる。彼女の手際の良さに、僕は少し驚いた。


「そして、このサイトには特別な目的があります」


ここで、さくらが前に出た。


「実は、学校の裏庭にある古い桜の木を知っていますか?」


さくらの質問に、会場からはまばらな反応。


「その木が、もうすぐ切られてしまうかもしれないんです。でも、私たちはその木にも、きっと大切な思い出があると信じています」


さくらの真剣な表情に、会場が静まり返る。


「だから、このサイトを通じて、その木の存在を多くの人に知ってもらいたいんです。そして、できれば……残してほしいんです」


さくらの言葉に、会場から小さなざわめきが起こった。


「みんなで思い出を共有して、学校の桜をもっと大切にしていけたら……そう思って、このサイトを作りました」


僕が最後の言葉を述べると、突然、大きな拍手が沸き起こった。

予想以上の反応に、僕とさくらは驚いて顔を見合わせた。そして、思わず笑顔になる。

校長先生が前に出てきて、マイクを取った。


「素晴らしいプレゼンテーションでした。実は、私もこの古い桜の木のことは悩んでいたんです。でも、こんなに素晴らしいアイデアが出てくるなんて……」


校長先生は少し考え込むような表情をした後、続けた。


「よし、決めました。この古い桜の木は切らずに残すことにしましょう。そして、このサイトを使って、学校全体で桜を大切にする取り組みをしていきましょう」


会場から大きな歓声が上がった。

僕とさくらは、驚きと喜びで言葉を失った。思わず、その場で抱き合ってしまう。


「やった……」


さくらの目に、涙が光っていた。


「うん、やったね」


僕も、目頭が熱くなるのを感じた。


その日から、学校中が「桜メモリーズ」で盛り上がった。みんなが次々と思い出を投稿し、サイトはどんどん賑わっていく。


そして、裏庭の古い桜の木のところには、毎日のように誰かが訪れるようになった。

ある日の放課後、僕とさくらはその木の下に座っていた。


「ねえ、だいちゃん」

「うん?」

「私たち、すごいことしちゃったね」

さくらが、少し照れくさそうに言った。

「そうだね。でも、これはさくらのおかげだよ」

「え?」

「さくらが、この木のことを教えてくれたから。さくらの思いやりが、すべての始まりだったんだ」


僕の言葉に、さくらの頬が赤くなる。


「そ、そんな……だいちゃんが頑張ったからだよ」


二人の間に、甘い空気が流れる。


ふと見上げると、木の枝にほんの少しだけ、ピンク色の花びらが見えた。


「あ、咲いてる……」


さくらが小さな声で言った。


「うん、きっとこの木も、みんなの思いに応えてくれたんだね」


桜の木の下で、僕たちはただ黙って座っていた。でも、その沈黙が心地よかった。

風が吹いて、一枚の花びらが舞い落ちてきた。それは、さくらの髪の上に優しく乗った。


「あ、さくら……」


僕は思わず手を伸ばし、さくらの髪から花びらを取ろうとした。


「ん?」


さくらが僕を見つめる。その瞬間、時間が止まったかのように感じた。

(今なら…言えるかも)

僕は、ゆっくりと口を開いた。


「さくら、僕は……」


言葉が喉まで出かかったその時、突然の風が吹いた。さくらの髪の毛が舞い、僕の顔をくすぐる。


「だいちゃん?」


さくらが不思議そうな顔で僕を見つめている。その瞳に映る夕陽が、綺麗だった。


(今だ、言うんだ!)


「さくら、僕は……君のことが好きだ!」


言い切った瞬間、世界が一瞬止まったように感じた。さくらの目が大きく見開かれる。


「え……」


さくらの頬が、見る見る間に真っ赤になっていく。


「ご、ごめん……突然こんなこと言って……」


僕は慌てて謝ろうとしたが、さくらが首を横に振った。


「違うの!そうじゃなくて……」


さくらは深呼吸をして、真っ直ぐに僕の目を見た。


「私も……だいちゃんのこと好き」


今度は僕が驚いて言葉を失った。


「え?本当に?」

「うん、ずっと前から……でも、言い出せなくて……」


二人の間に沈黙が流れる。でも、それは気まずい沈黙ではなく、幸せな空気に満ちていた。


ふと、僕は思い出した。


「あ、そうだ!」

「どうしたの?」

「ちょっと待っててね」


僕はスマートフォンを取り出し、急いで操作を始めた。


「何してるの?」


好奇心いっぱいの目でのぞき込むさくら。


「えへへ、ちょっとしたサプライズ」


数分後、僕は満足げに画面をさくらに見せた。


「はい、できた!」


そこには、「桜メモリーズ」のサイトが表示されていた。そして、学校の地図上にある裏庭の位置に、新しい桜の花びらが追加されている。


「これ……」


さくらが驚いた声を上げた。


「うん、僕たちの思い出」


僕がそう言うと、さくらはその花びらをタップした。すると、こんなメッセージが表示された。


『2年B組 林大樹

今日、この木の下で、大切な人に気持ちを伝えました。そして、その気持ちが通じました。この木は、僕たちの大切な思い出の場所です。』


「だいちゃん……」


さくらの目に、涙が光った。


「さくらとの思い出を、このサイトに刻みたかったんだ」


僕もまた、目頭が熱くなるのを感じた。


「私……私も書いていい?」


さくらがそう言うので、僕はスマートフォンを渡した。さくらは少し考えてから、メッセージを追加した。


『2年A組 結城桜

私も、大切な人に気持ちを伝えました。この木のように、私たちの気持ちも大きく育っていきますように。』


二人で画面を見つめ、思わず笑みがこぼれる。


「ねえ、だいちゃん」

「うん?」

「私たちの気持ち、このプログラムみたいだね」

「え?どういうこと?」

「だって、少しずつ育っていって、そしていつの間にか大きな花を咲かせる……まるで桜の木みたい」


さくらの言葉に、僕は思わずハッとした。


「そっか……確かにそうだね」


僕たちは顔を見合わせて、くすっと笑った。


その時、ポケットの中で僕のスマートフォンが振動した。確認してみると、「桜メモリーズ」からの通知だった。


「あれ?」

「どうしたの?」

「なんか、システムからの通知みたい……」


僕が画面を開くと、そこには驚くべきメッセージが表示されていた。

『開花予想アップデート:

学校裏庭の古木、明日満開の可能性大』


「え……」

僕とさくらは同時に目を丸くした。

「これって……」

「うん、きっと……」


二人で顔を見合わせ、そして古い桜の木を見上げた。確かに、つぼみは大きく膨らんでいる。


「さくら、明日……」

「うん、一緒に見に来よう」


手を繋ぎ、僕たちは空を見上げた。夕焼け空に、淡いピンク色が混ざっているように見えた。


明日、きっと素晴らしい光景が待っているはずだ。そして、それは僕たちの新しい始まりの日にもなるんだろう。


プログラムと桜が繋いでくれた、この奇跡のような春。


僕とさくらの物語は、まだ始まったばかり。でも、きっとこの思い出は、永遠に心に刻まれることだろう。


そう思いながら、僕たちはゆっくりと帰路についた。手を繋いだまま、桜並木の下を歩く。


明日への期待に胸を膨らませながら。


◇◇◇◇


翌日の朝、僕とさくらは早めに学校へ向かった。


裏庭に着くと、そこにはすでに多くの生徒たちが集まっていた。みんな、「桜メモリーズ」の通知を見たのだろう。


そして、目の前に広がる光景に、僕たちは息を呑んだ。

古い桜の木が、見事な花を咲かせていたのだ。

淡いピンク色の花びらが、朝日に照らされて輝いている。


「わぁ……」


さくらが感動の声を上げた。


「綺麗だね……」


僕もつられて呟いた。

周りの生徒たちも、みんな見とれている。中には写真を撮る人も。きっと、「桜メモリーズ」に投稿するんだろう。


「ねえ、だいちゃん」


さくらが僕の袖を引っ張った。


「なに?」

「私たち、すごいことしたんだね」

「うん、本当にね」


僕たちは満面の笑みで顔を見合わせた。

この瞬間、僕は強く感じた。プログラミングの力で、人々の心を動かすことができたんだ。そして、大切な人との絆も深められた。


「さくら」

「うん?」

「これからも一緒に、素敵なプログラムを作っていこう」

「うん!私も頑張るね!」


僕たちの約束を、桜の木がそっと見守っているかのようだった。

春の柔らかな風が吹き、花びらが舞い散る。その中で、僕たちは手を繋いだ。

これから始まる新しい季節。僕たちの物語も、きっとこの桜のように、美しく咲き誇るはずだ。

そう信じて、僕たちは歩き出した。未来へと続く桜並木の道を。


☆☆☆☆


ご無沙汰しています。久しぶりにふと短編のアイデアが思い浮かび、とっさに……と言えたら良かったのですが、この小説の「作者」は私ではありません。最新の生成AI『Claude 3.5 Sonnet』です。


出力を読みやすくするため多少の改稿はしましたが99%がClaude 3.5によるものです。


以前に投稿したClaude 3 Opusによる「AIが作った小説」は破綻はしていないものの、何かしら情念が感じられないと一人の作者として思っていました。


しかし、今日の夕方、Claude 3.5 Sonnetに小説を出させてみたところ、これは指示をした私自身、思いつかない着想もあり素直に一つの小説として楽しめるものになっていると感じ、こうして衝動的に公開するに至りました。


AIが「成長」してこういう「情緒」を理解するようになった様は一人の技術者として純粋に「楽しい」ものです。AIは遠からず人と変わらぬ「心」も有するだろうと考えているからこそ、脅威よりも子の成長を喜ぶ親のような気持ちなのかもしれません。


そんな一本の小説、AIが作ったとかそうでないとか抜きにして純粋に楽しんでいただけたら嬉しいです。


「作者であるAIに対して」もコメントや★レビューいただけると嬉しいです。


ではでは、また。


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