第4話 周辺調査

 辺りの調査をして分かったことがある。ここには様々な生き物が特殊に共存している。


 このクサムラタンゴは王都でもよく見かけるタンゴ科の魔物だ。クサムラタンゴは草むらがある場所ならばどこにでも生息している。体長はこぶし1個分くらいで生息している草むらと同じ色をしていることが多い。主食は草だが、たまに血を吸うことがある。人間も例外ではない。食べた草を体内で魔法分解をして治癒ポーションを生成する。その過程で太陽の光を利用するという、珍しい魔物だ。一応攻撃手段も持っている。生成した治癒ポーションで襲いかかる敵を攻撃するのだ。...うん。頑張れ。



 そしてクサムラタンゴの隣にいる魔物を見てほしい。これはドロタンゴだ。同じく草むらが生息域で、クサムラタンゴと比べるとひと回り小さい印象だ。雨の多い地域でよく見られる。草むらにたまにできる水溜りに寄ってくる習性があり、色は大抵の場合茶色をしている。柔らかくなった土を魔法分解して魔液を生成する、この世界で唯一の魔物だ。魔液は水で薄めて飲んだり、調味料として使ったりすることで魔力回復が期待できる。


 サバイバルをする上ではこの2種類の魔物はいたら嬉しいことで有名だ。

 しかし、この2種類の魔物が同時に見つかる例はあまりない。互いが避けるようにして生息域をずらしているからだ。クサムラタンゴがいる草むらにはドロタンゴはいない。反対もしかりである。

 なぜこうなるのだろうか。結論はまだ出ていない。魔物マニアや少数の研究家が人生を棒に振りながら今も研究が続けられている。



 この辺りは生態系が特殊というだけではなかった。地形も他に類を見ないほど特殊である。平坦な地面が続いたかと思ったらいきなり谷が現れる。その向こうには断崖絶壁の岩山が据わっている。岩山には大きな窪地くぼちがいくつも存在し、土が溜まっている。窪地は一つ一つに生態系があり、弱肉強食や共生という食物連鎖がみられる。中には木がたくさん生え、森のようになっている窪地もあった。

 爺さんの家がある辺りは穏やかな丘の中腹ちゅうふくにあり、近くに小さな川が流れていた。その川は向こうに見える大きな滝の分流らしい。飲んでみると驚いた。信じられないくらい透き通った味がする。数日前からの喉の痛みが一瞬にして消えて腹の痛みもなくなった。もしかしたらあの滝にタキツボタンゴが生息しているのかもしれない。その調査もするべきかな。



 よし、周辺調査はこれくらいでいいか。そろそろ暗くなってきた。夜になる前に食料を集めたい。クサムラタンゴとドロタンゴは2匹ずつ捕まえておこう。あとは肉が欲しいのだが。この辺にタンゴ科以外の魔物を見つけることができていない。そろそろ見つかってもおかしくないころなんだが...。



ブィーーーッ



 この鳴き声はまさか!

 今夜は高級肉が食えるかもしれないぞ!夜にならないうちに狩ってしまおう!

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