恋愛ドラマのエキストラA

ソノハナルーナ(お休み中)

第1話 始まりは苦い経験から。

『はい、カット!』

カットがかかると俳優の皆さんは化粧直しや次の撮影に備えている。

ぼくは俳優ではない。

ぼくはあのなんとも言えない独特の雰囲気に入ることは出来ないからだ。

ぼくは七美雪(ななみゆき)、エキストラだ。

エキストラはあくまでその映像の中で一般人を演じることに過ぎない。

ぼくがエキストラを始めたきっかけは大学の映像研究同好会の先輩の代打だった。

このドラマが初めてのエキストラ出演になる。

ちなみにこのドラマは30分ドラマで【その企画、ぼくにやらしてください】という恋愛ありのドラマだ。

主演は2.5次元俳優として名を馳せている翼達也さん。

ヒロインにはT=Venusのアイドルの音波莉里亜(おとなみりりあ)さん。

先輩として実力派俳優の井原理玖(いはらりく)さんがいる。

エキストラとしてどういうドラマかは知っておいた方がいいと先輩から言われて一応調べておいた。

ただこのドラマ視聴率が良いわけではないらしい。どんなにアイドルや2.5次元俳優を使っていても内容や演技を見るだけで、目を引くとは思えないからだった。

その上、このドラマ俳優を欲張ったため、撮影費やエキストラへの給料は極端に抑えてある。

エキストラはただ同然で自分の応援している俳優やアイドルを間近で見られるとあって、それだけで良いみたいな感じがあるらしい。

でも、ぼくはエキストラとして頑張ろうと思った矢先だった。

俳優が足りないため1人後輩役をエキストラから選ぶことになったのだ。

製作陣は急いでエキストラ数名から候補を探した。

内心ぼくは初めての現場で役に選ばれるかドキドキしていた。

だが、スーツを合わせてぼくを見た時、ため息が溢れてつい言葉が出てしまったのだろう。

『はー、君は無理だね。まだ、大学生になったばかりでしょ。スーツが全然似合ってない。ダメだね』

ぼくは泣きそうになった。

ぼくのことを否定されたような気がした。

それでも、撮影は進む。

選ばれたのは社会人の男の人だった。

スーツの似合う男の人だった。

ぼくは出番もなく、最後のシーンを撮る撮影場所でただのエキストラとして他の人と変わらないエキストラとして役目を終えた。

初めてのエキストラは苦い経験で終わった。

後になって、先輩にそのことを言うと『エキストラは仕方がない。運によって役がもらえることもあるし、ただのガヤで終わる場合もある。それが、この世界の生き方なんだよ。少しは勉強になっただろう。他にもエキストラができる仕事場は沢山ある。そんなに悔しいならもう一度挑戦してみろよ。今度はスーツが似合う大人になったら良いな。自分磨きも忘れるなよ』

次の現場が楽しみになってきた。

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