賈氏との因縁
曹攄は「二十四友」の石崇・歐陽建・王粹、及び、賈謐の実父韓壽と詩文の贈答があり、間接的ながら賈謐とは係わりがある。曹攄が「二十四友」に入っていないのは、曹氏、特に曹休の家系と、賈氏との因縁が関係しているだろう。
曹攄の曾祖曹休が太和二年(228)に吳領へ進攻し、敗れた際、その軍に合流する筈であったのが、賈謐の曾祖(外曾祖)に当たる賈逵である。しかし、何故か賈逵は合流を果たさず、曹休が皖縣で敗退し、壊走する退路に当たる夾石を確保して、「以兵糧給休、休軍乃振。」であったと云う。
しかし、「休が軍 乃ち振」ったというのは飽く迄結果であり、退路を確保できたという事は、本来、合流する筈であった地点の遙か後方に在ったという事であり、それ故、曹休は「以後期罪逵」、賈逵が「期」、この場合は合流の期限に「
吳軍に敗績した事自体は曹休の責であり、その点で賈逵の罪を問うのは不当である。しかし、賈逵には「東與休合進」という詔が下されており、曹休と合流する責務があった。それは、吳との決戦に当たって、彼の率いる軍が不可欠と見做された故と言える。
ところで、曹休が賈逵の罪とした「後期」であるが、『三國志』本文においては他に見えない語で、注の『魏書』及び、毌丘儉傳注の『魏氏春秋』でしか使用されていないが、他の史書には散見する。そして、その罪が認定された場合、刑は「斬」という重罪である。西漢武帝の対匈奴戦では、李廣がその罪により自殺し、張騫などは爵によってその罪を贖っている。
また、この「後期」は純粋に「期に
(永建)二年(127)、勇上請攻元孟、於是遣敦煌太守張朗將河西四郡兵三千人配勇。因發諸國兵四萬餘人、分騎爲兩道擊之。勇從南道、朗從北道、約期俱至焉耆。而朗先有罪、欲徼功自贖、遂先期至爵離關、遣司馬將兵前戰、首虜二千餘人。元孟懼誅、逆遣使乞降、張朗徑入焉耆受降而還。元孟竟不肯面縛、唯遣子詣闕貢獻。朗遂得免誅。勇以後期、徵下獄、免。(『後漢書』班超傳/班勇)
ここで、班勇は「期を約」した張朗が「功を徼めて自ら贖ふ」べく「期に先ん」じたにも拘らず、「期に後れ」た事で獄に下され、「斬」こそ免れたものの、免官となっている。しかも、班勇の場合は後文に「卒于家」とあるので、汚名返上の機会も与えられていない。東漢代の例であり、この一例だけでどこまで普遍化できるかは不明だが、「後期」に対する認識の一端を知ることができる。
従って、曹休が合流を果たさなかった賈逵の罪を問う事自体は不当ではない。その後、曹休は帰還後に「癰を背に發し」薨じ、賈逵も何故か時期が明示されていないが、程無く卒している。つまり、両者は互いに確執を抱えたまま死去したと言え、それは子孫にも受け継がれたと思われる。
そして、賈逵の子である賈充は晉の功臣、曹氏の側から言えば簒奪に尽力した人物である。殊に賈充は魏の第四代皇帝であった曹髦(高貴鄉公)が司馬氏の打倒の為に自ら兵を挙げた際に、それを迎撃し、曹髦の殺害を命じており、曹氏にとっては仇敵とも言うべき人物である。
こうした互いの因縁がある以上、曹攄からも、賈謐としても、必要以上に接近しようとは考えないであろう。従って、これが曹攄が「二十四友」に入っていない一因である。なお、「二十四友」の陸機・陸雲は太和二年に曹休を破った吳軍の帥將であった陸遜の孫である。
賈謐の母賈午は「小太子一歲」とあり、この「太子」とは魏の甘露四年(259)生まれの惠帝であるから、景元元年(260)の生まれである。従って、元康九年当時で、賈謐の年齢は最大でも二十五歳程度となる。つまり、せいぜい弱冠(二十)を超えたばかりであるが、賈謐は既に三品の侍中・領祕書監の地位に在り、「繼佐命之後、又賈后專恣、謐權過人主。」とされる状態にある。その賈謐に昵近する事が、すべて猟官の為だけとは言えないまでも、歐陽建等の官途を優位にしたのは間違いないだろう。
賈謐はその親貴を恃み、「奢侈踰度、室宇崇僭、器服珍麗、歌僮舞女、選極一時。」とされる驕奢を見せ、これが惠帝の太子、司馬遹(愍懷太子)との対立に繋がっていく。
太子は賈后の所生ではなく、もとより二人の仲は穏当なものではなかったが、賈謐の介在もあって、やがて賈后と太子の対立に発展する。この対立がやがて政争に発展し、「八王の乱」が本格的に勃発する事になり、曹攄も係わっていく事になる。
なお、太子の庇護者或いは、賈后との緩衝役とでもいうべき立場にあったのが、賈后の生母郭槐(廣城君・宜城君)である。彼女は太子の妃に「韓壽女」、つまり賈謐の姉妹を立てんとするなど、賈后と太子の仲を取り持とうとしていたが、果たせずに死去している。その墓誌である「夫人宜成宣君郭氏之柩」(『漢魏南北朝墓誌彙編』)に依れば、その死は元康六年(296)であり、この点でも元康六年が西晉末の転機となっている。
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