第12話 チュパカブラ

「‥‥‥で、こいつ何なの? ルマンド氏」

「このモンスターは、チュパカブラです」

「あー‥‥‥」


 なんか聞いたことがあるな。


「チュパカブラって確かメキシコの吸血UMAだよね」

「メキシコ以外では、アメリカ南西部、中国でも確認がされています」

「で、これの正体を探ればいいの?」


 解剖でもするんですかね。それはそれで興味はめちゃくちゃある。見た目は全身緑のリトルグレイだし、内臓がどうなっているんだろう。てめえの血は何色か気になります。


「正体を探るのはワタシの役目です。解析しますので、その情報をこれから共有して頂きます」

「‥‥‥一番つまんないパターンだね、それ。仮想空間の意味あるの?」


 もう後で正体解析したレポート読ませてくれよ。


「人が得る情報で、体験価値は非常に重要な意味を持っています。体験を介さずにえる情報。例えば講義やレポートなどでは記憶の定着に良い効果を生みません。あなたはここで得た知識を継続させることで、知的好奇心を抑える必要があるのです」

「さようですか。じゃあさっさと解析してよ。」

「それではこちらのツールを使用してください」


 ルマンド氏の球体から、同じように青白く光るモノサシが出てきた。長さは30センチほどの小さなもので、ゆっくりと私の手の中に納まる。


「こちらをチュパカブラに投げてみてください」

「‥‥‥」


 なんか言ってやろうかとも思ったが、だまって従う。まるで野良犬に骨でも与えるかのようにその定規を目の前のチュパカブラにポイっと放る。瞬間、チュパカブラの動きは停止ボタンを押したような不自然に止まり、3D素体のデータが形を成しただけの棒人間のようになった。そう思ったのもつかの間、シルエットが徐々に縮みはじめ別の生物を形作っていく。


「これは‥‥‥犬?」

「コヨーテです」


 正確な指摘って心にくるよね。しかし、そのコヨーテと呼ばれた生物が完全に再現されたとき、また別の理由で驚いた。皮膚から毛がほとんど抜け落ちており、所々溶けるように赤く爛れている。これをゾンビ犬だと言われてもそのまま信じてしまいそうだ。ていうか、こっちのほうがビジュアル怖くないか? そんな私の疑念を感じたのか、ルマンド氏が説明を始める。


「これは疥癬(かいせん)と呼ばれる重度の皮膚病に感染した、コヨーテです。野性のコヨーテが家畜を襲う事は珍しいことではないのですが、皮膚病を患い弱った結果、仕留めきれず血をなめる程度にとどまったものが『吸血UMA』の正体であると考えられます」


 説得力はあった。確かに、家畜が怪我を負っていたり、食べられていたりしていたのなら、『これはコヨーテだ』と考え誰も騒がないだろう。しかし、家畜の血をなめるだけの存在がいた場合、人は『コヨーテ以外の何かがいる。なぜならコヨーテであればもっと直接的に襲ってくるに違いない』と推測するであろうからだ。UMAが生まれる時は確かにこんな勘違いからなのかもしれない。でも‥‥‥


「じゃあさ、何で最初二足歩行だったの? 見間違えようがなくない?」

「それは初期タイプのチュパカブラです。チュパカブラの目撃情報は、UMAの中でもかなり多くその数は1000件を超えています。1995年ごろから目撃され始めたのですが、しだいに4足歩行のチュパカブラを見たという情報が増加し、わずか数年でチュパカブラとは4足歩行のUMAであるという認識が多数となり、二足歩行タイプの目撃はまったくなくなってしまったのです」

「うーん。でもさ、目撃情報が減ったことと『そもそも存在しないこと』は違うんじゃない?」


 自分でもこんな些細な疑問で突っかかっていくのかわからない。別にUMAこだわりなんて何もなかったんだけど‥‥‥。ただ、そのままで終わらせてしまうのは気持ちが悪いタイプである事は間違いない。これが知的好奇心ってやつなんですかね。


「そのことの議論も当時されたそうです。一説によると当時公開された映画の影響であるとか、カルト集団の儀式であったなどがささやかれています。また当時動物実験でよく使われていたアカゲザルの見間違えではないかと言われてもいます」

「え? アカゲザルって血を吸うの?」

「アカゲザルが他生物の血を吸うという事例は今現在まで確認されておりません」


 じゃあ言うなよと思ったけれど、こういうところで会話の相手が人間ではないと改めて気づかされる。あくまでこれはシステムなのだ。

 チラと目線を外すと、襲うのに疲れたのか、皮膚病のコヨーテがとぼとぼと去って行くさまが見えた。なんかかわいそう。


「チュパカブラに関してはこれでおしまいです」

「釈然としないなぁ‥‥‥」

「過去の事象に関して全てを説明切ることはできません。最初に見られた二足歩行タイプは様々な憶測がされてはいますが、完全な証明は不可能です。チュパカブラとはほとんどの場合、皮膚病のコヨーテですが、カルト集団の儀式かもしれませんし、本当にチュパカブラであったのかもしれません。ただ、証明できない。そして現在観測出来ない以上はここでおしまいです」


 確かに落としどころとしてはそんなもんなのだろう。信じるか信じないかは私次第ってやつですね。一番反吐がでるタイプの結末だぜ。

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