第7話 VRマシン2

『もうひとつのリアルへようこそ』


 アナウンサーのように整った発音の声だ。マシンの起動音だろうか。低く唸るようなモーター音がぼんやりと遠くから聞こえる。

 前置きもなくそれは一瞬だった。

 目の前がコンマ数秒チラッと光ったと思ったら、三六〇度パノラマで星空の映像を映し出した。てっきりゴーグルを着けるタイプだと思っていたのだが、そうではなかったようだ。円柱のカプセルの内側にはモニターが張り付けられていて、それがドーム型である事が分かった。足元にモニターはないはずなのだが、床は見えずここにも星空は広がっている。まるで宇宙の中を漂っているようだ。どのような技術なのかわからないが、これが拡張現実という奴だろう。


『大木戸です。きこえますか』


 星空の映像の奥の方から響くようなオーキドの声が聞こえてきた。なんかコワッ。


「だいじょうぶです」

『良かった。それではまず上にある安全ベルトを腰に装着してください』


 ぼんやりと光るロープが上から垂れていることに気が付いた。腰に巻き付けバックルをカチリとはめ込むと、次第にロープは光を失い暗闇と同化していく。また宇宙を漂っているかのような不安定な感覚に陥る。


「身につけました」

『そのベルトは主に激しく動いた場合の転倒防止目的で使用されているモノです。緊急事態が発生した場合はそのベルトを外すと強制終了されます』


 緊急事態という物騒な単語に反応して聞き返してしまったが「お手洗いに行きたいときなどです」とあっさり返されてしまった。


『それでは早速始めましょうか。やることは簡単です。あなたが今疑問に思っていることを、まず口に出してみましょう』

「えー‥‥‥そうですね」


 そういわれると困る。そんなに都合よく疑問が湧き出るわけではない。むしろ、コントロールできないから病気扱いなわけで。


‥‥‥

‥‥‥


「おっ‥‥‥おばけの正体」


『‥‥‥わかりました』


 わかられてしまいました。いや、本当に同じ立場だったらみんな困るに違いない。変に狙ったこと言うのも違うし、かといって日頃考えている疑問なんて、様々な断片のつぎはぎのようなものなのだ。これはね、オーキドが完全に悪ですね、はい。


『それでは今から『天才を生むソフト』にワールドを生成してもらいます。僕はこれ以降完全に観測に入りますので、コンタクトはこれが最後になります。そちらで生成されたワールドではシステムがあなたをサポートしてくれることになっていますし、どうしようもなくなったらベルトで簡単に強制終了も出来ます。どのような世界になるかわかりませんが、頑張って疑問を解決してきてください。』


 あ。


 わたしホラーゲームは死ぬほどきらいだったことを思い出してしまった。


「ちょ、まっ————」


 再び私は光に包まれた。

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