第10話:四条姉と昼飯を食べていく

 とある日のお昼頃。


 今日は午前中の講義が早めに終わったので俺はさっさと大学の学食にやってきて昼飯を食べていたんだけど……。


「え、えっとさ……ちょっと恥ずかしいんだけど」

「もぐもぐ……え、どうして?」


 でも俺が昼飯を食べている席の隣には四条さんが俺にほぼ密着してしまいそうな程の近距離にピタっと座ってきていた。


「い、いや、だってさ……その、何だか今日めっちゃ近くない?」

「そうかな? 全然いつもと同じだと思うけど?」

「い、いや、そんな事はないと思うけどな……」


 俺がそう言うと四条さんはキョトンとした表情をしてきた。どうやら異性とこんなにも近距離でいる事に何も違和感を持っていないようだ。


(ま、まぁ確かに、四条さんってちょっと天然さんな部分があるからなぁ……)


 四条さんって見た目は凄く知的でカッコ良い感じなんだけど、でも喋ってみると意外と天然さんでぽわぽわっとしてる部分も多いんだ。


 だから異性に対しての警戒心みたいなのがちょっと低いような所もあるんだよなぁ……って、今はそんな事を冷静に分析してる場合じゃないか。


(う、うーん、でも流石にちょっとこの状況は恥ずかしいな……)


 という事で何で今はこんな状況になっているのかというと……俺はさっきまで一人で学食のテーブルに座りながら昼飯を食べていたんだけど、その時に偶然にも料理のトレーを持った四条さんと学食で出会ったんだ。


 どうやら四条さんも今日は一人で学食に訪れていたようで、四条さんは俺を見つけるとすぐに一緒のテーブルで食べても良いかと尋ねてきた。


 だから俺は快くオッケーを出したんだけど、そしたら俺の座っている横の席にピタっと座ってきたんだ。


 しかも何故か四条さんは俺の肩や腕にほぼ触れてしまいそうになるくらいの距離までグイっと近づいて座ってきたというわけだ。それに……。


(あ……や、やばいって……! 四条さんの素肌が俺に当たりそうになってるって……!)


 それに今日の四条さんはノースリーブの服を着ているし、俺も半袖の服を着ているので、こんな近距離だとお互いの素肌の部分があと少しで触れ合いそうになっていた。


 もちろん四条さんとは大学一年の頃からの友達だし、今更二人きりでご飯を食べるくらいで緊張なんてしないけど、でも流石にこの状況は緊張するって……!


 だって四条さんは大学のミスコンで一位を取る程の綺麗な女の人なんだよ? そんな美人な女性の肩や腕が触れ合いそうになる程の近距離にいると思うと流石に緊張するに決まってるじゃないか!


 という事で俺は少しだけ距離を離して貰えないかやんわりとお願いしてみる事にした。


「え、えぇっと……できればで良いんだけど、もう少しだけ距離を離し――」

「あ、そうだ! すっかりと忘れてた! ふふ、そういえばさ……ちょっと前に朱音と二人きりでお昼ご飯を食べたらしいね?」

「え? あ、あぁ、うん、そうだけど?」


 俺がそんな事を言おうとしたら四条さんに無理矢理遮られてしまい、そしてそのまま数日前の朱音ちゃんとの件について尋ねてきた。


「……私、呼ばれてないんだけど?」

「え?」


 四条さんはそう言うとちょっとだけ顔を膨らませてきていた。


(え? もしかして……ちょっと拗ねているのかな?)


 何だかそんな感じの仕草に見えてしまい、俺はちょっと可愛いらしいなと思っていった……って、いや違う違う! 今はそんな仕草について可愛いなーって呑気に思っている場合じゃないよな!


「あ、あぁ、そうだよね。確かに姉の四条さんも誘うべきだったよね、それは本当にごめん。ま、まぁでもその話とは別でさ……あんまり身体をこうやって近づけるのは良くないと思うよ?」

「え? ど、どうしてそんな酷い事を言うの……? あ、もしかして……私が近くにいると不快なのかな……?」

「え……って、えっ!?」

「あぁ、でもそっか……うん、そうだよね。だって私もうすぐ生理が来ちゃうから……だから沢城君も私の事を気持ち悪いって思うよね……」

「ぶはっ!? な、ななな何言ってんの!?」


 途端に四条さんは悲しそうな表情を浮かべながらそんな事を言ってきた。でも俺は四条さんがそんな事を言うなんて一切思ってもいなかったので、俺はビックリして大きな声を出してしまった。


「え、だってあれなんでしょ……? 男の子って生理中の女の子の事が気持ち悪くて大嫌いなんだよね? 私はそんな話を聞いたんだけど……?」

「え……って、えっ!? い、いやいや! そんなわけないでしょ!! だ、誰がそんな酷い事を言ったの!? そんな事言うヤツは完全にヤバイ奴だからそんなの絶対に無視しなよ! 普通の男はそんな事絶対に思わないし、むしろ労わってあげる男の方が多いはずだからね! って、てか俺だったら絶対に労わってあげるし!」


 という事で俺は顔を思いっきり真っ赤にしながらも四条さんにそんな事を早口で伝えていった。


 もちろん顔を真っ赤にしながらそんな事を早口で喋っている今の自分はめっちゃ童貞っぽい感じになってるのはわかるし、四条さんにもコイツ童貞臭いなって思われそうでめっちゃ恥ずかしいんだけど……。


(でも流石に……世の中の男達が全員そんな酷い事を思ってるなんて四条さんには勘違いして欲しくないからな……)


 だからこそ俺は恥ずかしい気持ちを我慢しつつも四条さんに向かってそう力強く否定していった。すると四条さんは暗い表情から一転して少しだけ笑みを浮かべてきてくれた。


「……ふふ、そっか。でもそれじゃあ……どうして私は沢城君の隣に座ったら駄目なの?」

「い、いや駄目とかそういう事じゃないって。だけど俺達がこんな近距離でご飯を食べているとさ……もしかしたら他の人達が勘違いするかもしれないでしょ? 俺達が付き合ってるみたいなさ」

「え? って、あぁ、そういう事ね! あぁ、それなら良かった……私、沢城君に嫌われてるのかなって本気で思っちゃったよ……」

「いやいや、俺が四条さんを嫌いになるなんて絶対にないから安心してよ。まぁでも周りの人達にそんな勘違いとかさせちゃうと四条さんに迷惑がかかるかもだしさ……だからとりあえず今は少しだけ距離を離そうよ?」

「ううん、それなら私はこのままで大丈夫だよ。だって私は別に周りの子達に勘違いなんてされても全然迷惑じゃないしね」

「え? それって、どういう事?」


 俺がそう言っていくと四条さんは微笑みながらそう返事を返してきた。


 でも俺にはその言葉の意味がよくわからなかったので、思わずどういう事なのかと尋ね返していってしまった。

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