第7話:今度は四条さんの妹が俺の所にやって来た話

 四条さんが俺の住むアパートに襲来してから数日が過ぎた頃。


「ふぁあ……ねむ……」


 朝。俺は大きく欠伸をしながら大学へと向かって歩いていた。


 昨日は深夜までバイトが入っていたので今日はちょっとだけ寝不足になっていた。ちなみに昨日は日雇いの工事現場のバイトだった。


 まぁ少し前にサークルを辞めて自由な時間が増えたので、今のうちにバイトを沢山やってお金を貯めていこうと思って、ここ最近は単発バイトを沢山入れていた。


 そしたら深夜までやるバイトの日が多くなってしまい、ここ最近は寝不足の日が多くなってしまったというオチだ。


「ふぅ、まぁ今日はバイトもないし講義が終わったらさっさと帰って早めに寝る事にするかなぁ……」

「あ、沢城先輩!」

「んー?」


 するとその時、唐突に俺は後ろから誰かに声をかけられていった。声の持ち主からしてどうやら女性のようだ。


 俺は誰だろうと思いながら後ろを振り返ってみた。するとそこには……。


「ん-……って、あぁ、朱音ちゃんか。うん、おはよう」


 するとそこには一つ後輩の四条朱音ちゃんが立っていた。苗字からわかる通り彼女は四条さんの妹さんだ。そして四条さんと同様に俺が所属していたアウトドア系サークルのメンバーでもある。


「はい、おはようございます! 先輩!」


 そしてそんな後輩である朱音ちゃんはいつも通り天真爛漫な笑みを浮かべながら俺に挨拶をしてきてくれた。


(あぁ、良かった……朱音ちゃんにも嫌われてるような雰囲気はなさそうだな)


 姉の四条さんと同じく、妹の朱音ちゃんも普段と同じ態度で俺に接してきてくれた。


 少し前に久住達にサークルメンバー全員から嫌われてるって言われてショックを受けたんだけど、でも朱音ちゃんには嫌われてる訳ではなさそうなので俺はその事にホッと安堵していった。


「でも本当にお久しぶりですね! 少し前までは先輩と頻繁にお会い出来ていたのに、ここ最近は全然会えなくてすっごく寂しかったですよ……」

「あぁ、うん、そうだね。そういえばちょっと前まではよくサークル室で会ってたもんね」


 朱音ちゃんは俺がサークル運営の仕事をしている時にいつも一緒に手伝ってくれていたんだよな。


 だから俺がサークルに所属していた頃は結構な頻度で朱音ちゃんと会って一緒に仕事をしていた仲だった。


 という事で改めて、この子は四条朱音ちゃんという。年齢は19歳の大学二年生で、性格はとても素直で明るく活発な女の子だ。


 身長は157センチくらいで体型はお姉さん同様にほっそりとしたスレンダー体型だ。だけど見た目は姉の四条さんとは大きく異なっている。


 姉の四条さんは黒髪ロングヘアの清楚系で和風美人な女性に対して、朱音ちゃんの髪型はかなり明るい髪色に染めあげており、ピアスやネイルなども沢山やっている今時の明るいギャルという感じの女の子だ。


 あと見た目に関してさらに言うと朱音ちゃんはアイドルみたいな可愛さを持っており、四条さんはモデルのような綺麗さを持った女性という違いもある感じかな。まぁどっちも滅茶苦茶にモテる女の子達なんだけどさ。


「はい、そうですよ。だから最近先輩とは全然会えなくて本当に寂しかったんですからね……あ、そうだ。それじゃあせっかくですし良かったら今日の久々に一緒にお昼ご飯を食べませんか?」

「あぁ、もちろん良いよ」

「やった! それじゃあお昼休みに入ったらすぐに連絡しますね!」

「あぁ、うん、わかったよ」


 という事で今日は朱音ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べる事になった。


(それにしてもこんなにも優しくて素敵な女の子から慕って貰えるなんて凄く嬉しい事だよな)


 だけどこんなアイドル級に可愛いギャルの朱音ちゃんとにここまで仲良くなれたのにはちょっとした理由があった。


 実は朱音ちゃんが一年生の頃に大学近くの駅前でタチの悪いナンパ男に絡まれてしまうという事件があった。


 そしてその時たまたま駅前を通りかかった俺は朱音ちゃんをすぐに助けたのが縁となって、今でも朱音ちゃんは俺の事を凄く慕ってくれていたんだ。


(あの時は子供の頃からずっと身体を鍛えてて良かったと本当に思ったよなー)


 今までずっと田舎暮らしで山登りとか親戚の畑仕事の手伝いとかを頻繁にしてたので、俺はそれなりに筋肉質な身体を持っていた。


 そのおかげであの時はほんの少しだけ力を込めてナンパ男の手首を握ってあげたら簡単に追い払う事が出来たんだよな。


 まぁそんなわけで初対面の朱音ちゃんを助けてあげた事もあって、それから朱音ちゃんは俺を見かけると気軽に話しかけてきてくれたり、何か相談事とかがあれば気軽に俺にしてくれるようになったというわけだ。


 あ、それとこれは最近の話なんだけど、朱音ちゃんはまだ十九歳なんだけどちょっと前に開催された飲み会で間違えてお酒を飲んでしまうという危ない事件もあった。


 普段の飲み会ではソフトドリンクしか飲まない(飲めない)人達は固まって同じテーブルに座らせているので、お酒が間違えてそのテーブルに運ばれるなんて事は絶対に無いはずなのに……でも何故かその日だけはそんな間違いが起きてしまったんだ。


 それで間違えてお酒を飲んでしまった朱音ちゃんは途端に顔が真っ赤になってすぐに酔っぱらってしまったんだけど、俺はそんな酔い潰れてしまった朱音ちゃんを全力で介抱をしてあげたという過去もあった。


 まぁそんな感じで俺は色々な場面で朱音ちゃんを何度も全力で助けてあげてきたんだ。そのおかげもあって朱音ちゃんは今でも俺の事を頼りになる優しい先輩だと思ってくれているようだ。


「いやー、それにしても先輩がサークルを除名されたって聞いた時には本当にビックリとしちゃいましたよー。あ、もうお姉ちゃんから詳しい説明は既に聞いてるので説明はしないで大丈夫ですからね!」

「あぁ、四条さんから聞いたんだ? それなら良かった、朱音ちゃんからも誤解を受けてたらどうしようかと心配したよ」


 そして朱音ちゃんは俺のサークル除名についての話を振ってきた。


 どうやらこの数日の間にお姉さんの四条さんから俺の除名処分についての話を詳しく聞かせて貰ったらしい。


 という事は朱音ちゃんも全体LIMEで伝えられた俺の除名理由は完全なる嘘だとわかってくれているようだ。とりあえず朱音ちゃんから変態男のレッテルを貼られずに済んだので俺はホッと安堵していった。


「あはは、大丈夫ですよー! 先輩が他の女の子とエッチな事をしたなんて絶対に嘘だってわかってましたもん! だって先輩は私以外の女の子とエッチなんてするわけ無いですもんね??」

「あはは、それなら良かったよー。朱音ちゃんも嘘だってちゃんと気づいてくれ……って、え?」

「うん? どうかしました? 先輩??」


 その時、朱音ちゃんから何やら爆弾発言のようなものが飛んできた気がしたので、俺は思わず朱音ちゃんの顔をすぐに見ていった。


 でも朱音ちゃんは特に変わった様子もなく、いつも通りの朗らかな笑みを浮かべながら俺の顔をジっと見つめていた。


(……うーん、気のせいか?)


 何だか爆弾発言っぽいものが聞こえてきた気がしたけど、でも朱音ちゃんがいつも通りって事は単純に俺が聞き間違えただけだよな。


 うん、それじゃああんまり聞き返すのもアレだろうから、今の話を聞き返すのは止めておく事にしておこう。


 という事でそれからも俺達は他愛無い雑談を続けながら一緒に大学へと向かって歩いて行った。

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