第2話

店員は何食わぬ顔で接客を続けた。

「おつまみいかがですか?」


お客はメニュー表をチラッと見て言う。

「今日のおすすめ何?」


店員は笑顔で答えた。

「本日はサラ金がおすすめです!」


お客は少し考える風をして答えた。

「一つ摘まんどこうか」


店員は元気一杯に声を張り上げる。

「地獄の毎日へようこそ!」

他の店員も全力で声を張り上げる。

「あざーーーーーー!」

店員が一度厨房に戻るとほどなくして、テーブルに置いてあったタブレットから声が聞こえ始めた。

「本日はご来店ありがとうございます」

お客は一瞬どこから声が聞こえたんだとキョロキョロしたが、やがてタブレットから聞こえているんだとわかりそれに答えた。

「あっ・・・どうも」

店員は続けた。

「それでは2、3質問させて頂きますので宜しくお願いいたします」


「はい」


「好きなセクシー女優は誰ですか?」


「え?・・・く、く、黒木香さん」


「山手線で好きな駅どこですか?」


「・・・た、田端?」


突然お客のスマホに着信がきた。

今、出ていいものか一瞬躊躇ったが、習慣で電話に出てしまう。


「も、もしもし・・・」


「あ、もしもし、稲葉と言いますが、ヤチオカトメオさんご在籍ですか?」


「はい?え?いや、ヤ、ヤチオカ?いや・・・その・・・え?」


「おられませんか?」


「あ、いや、どちらにおかけ・・・」


そこまで言うと突然電話は切れた。

何なんだ今のはと耳から話すとスマホをマジマジと見つめた。


するとタブレットから声が聞こえた。


「おめでとうございます。審査完了しました。新規カードを発行させていただきます。係りの者がお持ちしますのでそちらでしばらくお待ちください」



さきほどの店員は台車を押して戻ってくると、蓋で覆われた大きな皿をお客のテーブルの上においた。

「お待たせいたしました。サラ金の新規カードです。どうぞお受け取りください」

そう言うと店員は皿の蓋を持ち上げた。

大きな皿の上には先程明後日の方向に飛んでいったチーズ靴がビチャビチャの状態で置かれていた。


お客が自分の靴を手に取って良く見てみると靴の中にマジックで「サラ金」と書かれていた。

(・・・・)

お客はなんも言えない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る