居酒屋
遠藤
第1話
「せえーーーー!!」
居酒屋の引き戸を開けると同時に奥から店員の声が響いた。
駆け付けた店員に、指で一人と伝えると店員がテーブル席までお客を誘導する。
「オラーイ、オラーイ、はいストップ」
お客はテーブル席の椅子を引いて着席した。
店員はおしぼりをテーブルに置くと、お客の声を待った。
お客はメニューを見ずに答える。
「とりあえず生」
店員は即座に確認した。
「レギュラーとハイオクどちらにしますか?」
お客も即座に返答する。
「じゃあ、レギュラーで」
それを受けて店員が店内に聞こえるように大声で言った。
「レギュラー満タンありがとうございます!」
他の店員たちがその声に答える。
「あざーーーーーー!」
テーブル席天井に設置され、ぶら下がっているノズルを引いて手に持つと店員は一言お客に声をかけた。
「お待たせしました。失礼しまーす」
そう言うと、ノズルをお客の口にぶち込み、力一杯レバーを強く握った。
ブフォーーーーーーー!!
両方の鼻からビールが激しく噴出した。
ノズルを抜くとお客が唸った。
「くーーーーーー!!美味い!」
お客がノズルを持って、自分でビールをチュパチュパ飲んでいる間に店員は次の作業に入る。
「失礼します」
その一言の後、お客の顔をおしぼりで拭きだした。
丁寧に顔の隅々まで拭いて、乗っかっていたカツラも取ってハゲ頭も丁寧に拭いていく。
メガネも拭いたら余計に曇ってしまったがお構いなしだ。
おしぼりで拭き終わると店員は次の作業に入った。
「ゴミとか吸い殻ないですか?」
そう声を掛けてお客のポケットを叩いていく。
カバンやカツラの中、はたまたスマホの中までくまなく確認すると不要なものを発見した。
「お客さんと不釣り合いなマッチングアプリあったんで消しておきますね」
店員は素早く処理をする。
(・・・・)
お客はなんも言えない。
店員は続けてお客の靴を脱がしてくまなくチェックしていく。
クンクンと臭いを嗅いで言った。
「だいぶチーズ臭が強くなってますね。洗っていきます?」
お客は悩みつつ答える。
「ん~じゃあお願いしようか」
店員は感謝の声を上げた。
「洗い一丁ありがとうございます!」
他の店員も全力で声を上げる。
「あざーーーーーー!」
店員は高圧洗浄機を持ってくると床に転がした靴に向かってノズルを力いっぱい引いた。
すると、半端ない水圧の勢いで靴が明後日の方向に吹っ飛んでいった。
すかさず店員はお見送りの声を上げる。
「いい日旅立ちいってらっしゃい!」
他の店員も全力でお見送りする。
「しゃーーーーい!」
(・・・・)
お客はなんも言えない。
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