第17話 水飛沫上げて
私とショコルにとって、最後の夏休み。
夏休みが来る前に、限られた期間の中で今年やりたい事を相談し合いました。
「ねえバニリィ、二年前の今頃は何があったか覚えてる?」
「クッキー作りをしたり、海へ行ったり、遊園地へ行ったり、お祭りにも行きましたね」
「うんうん!どれも最高に楽しかった!それで今年はどこか行きたい所ある?」
「急に言われても、すぐには思いつきませんね……」
すると、ショコルさんは言いました。
「実は隣街に、すっごくデッカイ市民プールがオープンしたんだって!注目はめっちゃスピードが出るウォータースライダー!」
「ウォータースライダー?い、行きたいのでしょうか……」
「今年は例年よりも暑くて全身ベイクドショコラになっちゃうぐらいだから、ここ一番のスリルで暑さをぶっ飛ばしてやりたいんだから!」
市民プール、ウォータースライダー……その言葉に、まだ幼かった頃の記憶をふと思い出しました……。
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何年か前の、どこかのプールのウォータースライダー。私と姉カフェイは出発地点にいた。
『私、これ一度やってみたかった!行くね!』
『おっ……おねえちゃん!!!』
ザパアッ!!!
目の前で姉が流れていき、そのままパイプの奥に吸い込まれて、あの時のわたしはそのまま立ち尽くしていた……。しばらくして、姉が戻ってくると、安心したと同時に泣きついた。
『ふう、楽しかった……あら、バニリィ?』
『おねえちゃん!戻ってきてよかったよお!!!』
素肌から香るコーヒーの香りが、爽やかに感じた。
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「……どしたの、バニリィ?」
ショコルさんの声で、我に帰る。
「あ、いや……少し昔の事を思い出しまして……」
「まさか、トラウマ的な事でもあったとか?」
「ち、違いますっ……えーと、その、市民プール、私も行ってよろしいでしょうか……!」
「もちろん良いよ!時期的にも夏休みの最後の方になると思うけど、思いっきり楽しんじゃおうよ!」
こうして私も隣街の新しい市民プールへ行く事になった。行く理由はショコルと一緒に遊ぶだけじゃない。あの日、怖くて滑れなかった幼い日の私にサヨナラするためである。場所こそ違っても、ウォータースライダーを滑る事で、こういう事も出来るようになったと姉さんに胸を張れるようになりたいから。
* * * * * * *
こうして、夏休みに色々なイベントを楽しみ、いよいよ例のプールへと行く日がやって来た。
「おはようございます、ショコルさん!」
「おおっ!バニリィちゃん、なんかやけに気合が入っているね!」
「今日は他にもここへ来た理由があるのです」
「それって今聞いても大丈夫?」
「はい、気弱だった私にサヨナラするためです……!」
「そうなんだ!それじゃあアタシも全力で支えてあげるよ!」
私達は入場料を払って、更衣室で水着に着替えた。私バニリィはクリーム色のフリル付きの水着を、ショコルさんは黒いビキニを着た。
「うわぁ、想像以上に人いっぱいいるねー!」
「迷子にならないように気をつけなければてますね」
「ダイジョブダイジョブ、アタシの鼻はバニリィちゃんの香りなら地上のどこにいても分かるから!」
「犬か何かですか……?」
私とショコルさんは、流れに身を任せる感じで、プールの色々な所を巡りながらも、目的のウォータースライダーにやって来た。
「思ったよりも、早く来ちゃいました」
「並んでる中で沢山お喋りしちゃったね。周りも何だか楽しそうな感じでいたよね」
「そういえば、ショコルさんから先に滑るように言いましたよね」
「うん!カッコよく滑ってみせるから!」
ショコルさんが入り口に立つと、椅子型のスタートに座り、係員のGOサインを合図にして。
「ココア大さじ9杯の女、ショコル・ブラウニー!推して参る!!!」
ザパアッ!!!
すごい勢いで滑っていった。何年か前のカフェイよりも迫力があった。
……さて、次は私が滑る番。先ほどショコルさんが滑っていった所を今度は私が滑る。
「…………!」
怖くないなんて言うと、半分嘘になる。あの穴の向こうに吸い込まれた姉の姿が穴の奥に見えるような気がする……でも……今日、私は変わるんだ……変わってみせるんだ!!!
係員のGOサインが下りた。
「いきます!!!」
ザパアッ!!!
私は意を決して、パイプの中に流れていった。
ザアアアアア!!!
パイプの中は思った以上にスピードが出て、今までに感じた事の無い感覚に包まれていた。
やっぱり怖い……けど、なんだか楽しい、面白い……!
ザアアアアア!!!
ぐるぐるカーブする箇所を回って、いよいよ出口が見えてきた……!
ザアアアアア……ザッパァアアアン!!!
一瞬だけ、気を失ったような気がした。
……気が付くと、目の前にショコルさんがいた。
「お帰りバニリィ!出てきた所、カッコよかったよ!」
「あ、そっか……私、滑れたんだ……」
「これでやりたい事全部やった感じ?」
私は言いました。
「……いいえ……」
「えっ?」
「あのスライダー、一回やっただけではまだまだ楽しんだとは言えません、もう一度やってみても良いでしょうか」
「おおっ!アタシだってそう思ってた所だよ!今日は日が沈むまで滑りまくろう!」
「はいっ!またよろしくお願いいたします!」
こうして私達は再びウォータースライダーを登って、今度は私から滑っていった。何度もやればやるほど、なりたい私に近付く感じがした。姉にも、誰にでも胸を張れる、自信に満ちた私になるために。
* * * * * * *
夏休み最終日、バニリィとショコルはあなたのカフェでこの出来事を語っていたのでした。
「沢山滑ったから、色々な面で自信が付きました。この事をカフェイさんにも伝えた所、すごく喜んでいました」
「やったじゃん!これにはきっとお姉さんも鼻が高いよ!」
「私、今ならショコルさんのココアも飲めそうな気がします……!」
「え?いつも何も入れないミルクしか飲まないバニリィが!?」
「一口だけ、よろしいでしょうか……!」
「い、いいけど、アタシも飲みたいからね……!」
バニリィはショコルのいつものココアを少し飲んでみました……すると……。
「あっ……甘すぎる……隣で飲んでるのをいつも見てたけど、これほどとは……」
ショコルさんがいつも飲んでいるココア大さじ9杯ミルクはバニリィいわく、言うなれば飲むチョコケーキのような味わいでした。
「でも良くぞ挑戦してくれた!ナイストライ!」
「普通のミルク一杯、お願いします……」
幼い頃のココロに残る記憶を元に、新しい挑戦に臨んだバニリィ。この先、ショコルと共に何を手に入れるのでしょうか。季節は巡り、実りの秋がやって来ます。二人の行き着く先には、まだまだ甘く楽しい日々が続きそうです。
第17話 おわり
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