第12話 二人は、溶け合うさだめだから!
私は、バニリィ・スノーホワイト。
先日、姉カフェイとひとまず和解して、しばらくの時が経ちました。学校は新学期を迎え、また忙しくも充実した日々が戻って来ました。
ショコルさんとも毎日のように付き合っていて、今や友達とか仲良しとかでは説明が出来ない、もっと特別な関係へとなりそうな気がしています。
学校から帰って来ると、この前ショコルに勧められたチョコの香りの入浴剤をお風呂に入れて入りました。
お風呂に浸かって感じるのは、あの子の香りそのものでした。一方で私からはバニラの香りの入浴剤を勧めました。今頃入って私を感じてくれているのかしら……なんて思いながらも、気がつけば長々と入っていました。今度長く入る時はチョコの入浴剤をまた使おうと思いました。
お風呂から上がって、夕飯を食べた後、ベッドのある部屋に入りました。
「今日も色々な事があったわね……今日はどんな夢が見れるかな……」
ふと、枕元の棚に置いてある装飾の付いた古い小箱に視線が移りましたが、そのまま眠りにつきました。
* * * * * * *
気が付くと私は、昔の貴族のような姿になっていました。
「え……これって何?夢にしては何だか妙な感覚……!」
状況の整理が追い付く間もなく、両親と思わしき二人が話しかけてきました。
「おはようアリシア、今日も素敵なバニラの香りね」
「今日も町内を見て回るのか」
なんて返事すればいいのか分からず、すぐにここから逃げ出したい気持ちから、私はこう言いました。
「は、はい……えーと、家の中にいるよりは外にいる方が楽しいので……」
「あまり帰りが遅くならないようにしてちょうだいね」
「わ、分かりました……」
私はこのまま屋敷の外に出て、町に来ました。私が今暮らしている町と様子が似ているような……それにしても昔の貴族もわりと自由に暮らしていたというのね……ん?あれは……?
「わー!ちょっとそこどいてー!」
「え、何かが近付いて……キャアッ!」
ドンッ!
痛みも何だかリアルすぎる感覚。突然ぶつかってきたこの人は、少し汚れた服を着ているみたいだけど……なんだか、あの子に似ているような……。
「イタタ……ご、ごめんねっ!」
「いえ、大丈夫ですが……何かお急ぎでしょうか」
何だか申し訳なく思い、美味しい料理の店に連れて行って何か食べさせようと思いました。着いた場所は、立地としても、いつも一緒に行っているあの喫茶店にそっくりな所でした。この子に自己紹介をしなければ。でも今の私はアリシアと呼ばれていた……なら。
「えーと、私は……アリシア・スノーホワイトと申します」
「アタシ、カカオ!カカオ・ブラウニー!」
「……?……えーと、カカオさん、此度のご無礼を申し訳なく思います」
「いいっていいって!こういう時はお互い様だし、今は暗い気分は忘れて楽しもうよ!」
「そ、そそ、そうですわね、オホホホホ……」
ぎこちない会話も、なんとか通じ合うようで良かった。私は夢の中で、ショコルにそっくりな貧しい少女、カカオと色々な事をして過ごしました。一緒に美味しいものを食べたり、綺麗な景色を眺めたり、オシャレな服を着たりして過ごしました。夢は良いわね。思いついた事がすぐ出来るんだから。
次は何しようと思っていると、カカオさんは言いました。
「実はアタシ、遠い街に引っ越す事になったの」
「なんですって……!?」
彼女は遠くへ行く事になってしまう……。夢の中とはいえ、ショコルそっくりなカカオとの別れはとても辛い……。するとカカオが何かを取り出して私の手に差し出しました。
「これは……貧民が持っているとは思えないほど綺麗なペンダント……」
「これ、アタシだと思って大切にしててね!」
別れ際に、何かを渡しました。それは、彼女の香りが染み込んだ綺麗なペンダント。
「アタシ、もう行くね!」
「カカオさん、短い間だったけど楽しかったわ……!」
「アタシもだよ、アリシア!……いつか、いつの日か、生まれ変わってでもまた会おうね!!!」
「はい……カカオさん、元気でね……!!!」
私は、溶けたバニラの涙を流し、笑顔でカカオさんを見送りました。その後、私は家にあった小箱にペンダントを入れて……。
* * * * * * *
ここで、目が覚めました。
「……右手が、何かに触っている……」
右手には、夢の最後に見た装飾の付いた小箱が触れていました。いつも寝る前に眺めていたあの小箱。
「いつのまにか、鍵が外れている……」
私はその小箱を開けてみました。
その中には……。
「これは……夢の中で見た、あのペンダント……!」
夢の中であの子から貰ったものと全く同じ形の、チョコレートの香りがするペンダントが入っていました。
「この小箱に、ずっと入ってたんだ……あら?」
ペンダントの下には、一枚の手紙も入っていました。私は手紙を開き、文字を読みました。
―――――――――――――――――――――
この小箱を開けたあなたへ。
私はアリシア・スノーホワイトと申します。この箱の中には、今も忘れられない大切な人との思い出となったペンダントを入れました。いつか私は世継ぎの子を産むために見知らぬ貴族と結ばれる
あなたなら、私の想いを繋げられる。
アリシア・スノーホワイト
―――――――――――――――――――――
「そうだったのね……これはあの子から託された大切なもの……まさか、ショコルは何か知っているのかも!」
私はすぐさま支度をして、ショコルに会いにいつもの喫茶店に向かいました。
・・・
いつもの喫茶店で、ショコルと合流した私。
「おはよーバニリィちゃん!」
「おはようございますショコルさん」
「どうしたの?何かプレゼントを渡したそうな顔をして」
「このペンダントの事、何か知りませんか?」
私は、今朝小箱から出てきたペンダントをショコルに見せました。
「アタシと同じ、チョコの香りのペンダント……」
「昨夜、貴族となってある貧民と交流する夢を見ていまして……」
「実はアタシ、昨夜貧民の姿になって昔の町を見て回る夢を見てて……そこでアリシアっていう貴族の子と遊ぶ夢を見たんだ」
ショコルの返事は驚くべきものでした。
「その夢、私にも詳しく教えてくれますか?覚えている範囲でも構いませんので!」
「うん分かった!じゃあ話すね!」
「私からもお話しますね!」
私はショコルに昨夜見た夢を説明しました。ショコルも昨夜見た夢の事を話せば話すほど、私の夢とショコルの夢は共通する事ばかりでした……!
「それで、夢の最後にそのペンダントをアリシアって子に渡しておしまいだったんだ」
「それじゃあ、私達が見た夢って……!?」
「これってさ、昔からこの土地に伝わる、貴族と貧民の物語そのものじゃない!?」
「それじゃあ私達……過去の時代のあの子達になっていたという事なの!?」
「それならホントにスゴイ事じゃん!」
私達の会話はどんどん勢い付いていった。
「そういえばアタシが会った子、アリシア・スノーホワイトとか言ってたわね、もしかして、バニリィちゃんのご先祖様だったとか!?」
「確かに夢の中の私はそういう名前で、出会ったあの子はカカオ・ブラウニーと呼ばれていました」
「夢の中のアタシも、そんな名前だったから、今朝たまたまママが見せた家系図を見たら、この辺にカカオって名前が!」
スマホに写る家系図には、確かにショコルから遡って何代か前にカカオという文字がある。どうやらカカオの代からショコルの母に至るまで女子しか生まれず、決まって一人っ子だったようだ。
「でさ、バニリィって家の家系図スマホに記録してない?」
「そんなに都合よく出てくるものでは……代わりにこれがあります」
私はショコルにペンダントと一緒に入っていた手紙を見せました。
「…………うん!なんとなくだけど分かるよ!やっぱりアリシアさんはバニリィちゃんのご先祖様だったんだ!」
「それじゃあこのペンダントの持ち主も、ショコルのご先祖様だったのね……!」
ペンダントに込められた想いを、私達は確かに受け入れました。私バニリィと、この子ショコルは、遥か昔から出会うべくして出会ったんだって。
私は、ペンダントを取り出してショコルに差し出しました。
「ショコルさん、これ、お返しします」
するとショコルは。
「ありがとう、でもこれ、今はバニリィちゃんが持っててね」
「え……?」
「ご先祖様はいつか生まれ変わっても会えるようにってそれを渡したんでしょ?ならきっとアタシ達はまさにその二人の生まれ変わりなんじゃないの?」
その言葉に、私は納得しました。
「分かりました。これからはショコルとの絆の証として、私が責任を持って預かります。そしていつか、ショコルと一緒に暮らせる毎日になったのなら……!」
「あらためて、そのペンダントに感謝するって事よね!間違ってないよね?」
「はい……!」
ここに、私とショコルの間に、特別な関係が生まれたのでした。あの日叶わなかった想いをもう一度繋げるために出会った二人として……それでも、私達の物語はまだ続きます。それはまた、今度お話してあげましょう。
「よーし!行くよバニリィ!アタシ達の青春はここからだーーーっ!!!」
「それは、物語の終わりを意味しているのでは無いですか?」
「終わりじゃなくて始まりだよ!マンガとかは終わりと言えばそこで終わるけど、アタシ達の人生はまだ続くでしょ!」
「……そうよね、ショコル!!!」
「うんっ!バニリィ!!!」
ショコルもそう言う通りに、物語は続きます。それではまた、お会いしましょうね。
「バニリィ!今日は何して遊ぶの!?」
「ショコル、今日は私達のやりたい事をしましょう!」
「さんせーい!!!」
「さあ、行きましょう!!!」
第12話 おわり
See you in the second season.
メルティーメイツ 早苗月 令舞 @SANAEZUKI_RAVE
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。メルティーメイツの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます