第10話 ドキドキお泊り会!その時バニリィは!
8月23日、朝。アタシ、ショコルは自室でバッグに着替えや洗面具などを入れて背負い、家を出発した。
「それじゃあパパママ、行ってきまーす!」
歩いて数十分、ついにこの時がやって来た。
「ここが、バニリィちゃんのおウチね……」
目の前に立つ、立派なおウチ。
「ここが、バニリィちゃんの、おウチね!」
大事な事だからもう一回言った。アタシは今、バニリィちゃんのおウチの前にいる。ここへは何度か遊びに行った事はあるけれど、今回は特別。なななんと、この家に一泊お泊りする事になったのよ〜〜〜!!!あ、もちろん両親の許可は貰ってるからね。アタシは意を決してインターホンを押した。
ピーンポーン♪
「ごめんくださーい!」
ガチャ
「あら、こんにちは」
「こんにちはーっ!」
この方こそが、明日が16歳の誕生日となるバニリィちゃん。アタシの人生初の友達にしてパートナー。彼女の一度きりの時間を、共に過ごせるのかと思うともうドキドキが止まらなくって!
「明日が誕生日なんだよね!今日は前祝いも兼ねていっぱい楽しもうね!」
「ショコルさん、今日と明日はよろしくお願いします」
アタシはバニリィの寝室に案内されると、持って来た荷物を置いたのだった。これからあんな事やこんな事をするためのグッズの入った……いやらしい事は何も考えてないわよ。
「そういえばバニリィのパパママがいないような」
「両親ですか、今日は二人共ちょっと大きなお仕事のため、家を一日留守にしています」
「つまり今日だけは実質同棲生活ってコトなのねっ!」
「あまり、ハメを外さないようにしましょうね」
というわけで、バニリィちゃんとの一日同棲生活が始まったのでした!まずはこの前みたいに一緒にクッキーを焼いたり!
「今日は特濃ブルーベリーパウダーを持って来たけど使ってもいいかな!」
「もちろん、こちらも乾燥ブルーベリーを用意しているから、視力回復にも効くクッキーが出来そうね」
最近発売された話題のゲームを一緒に楽しんだり!
「バニリィちゃんもこういうゲームやってるんだね」
「昔、お姉ちゃんともこうして遊んだ事もありまして」
「そうなんだ……ええっ!それここで当たるう!?」
「あらら……今のは偶然かもしれませんね」
お互いにまだまだ途上の宿題を見せ合ったり……。
「ここの問題どうしても分からなくって」
「ヒントだけなら、教えてあげられますけど」
「これならアタシでも解けるわ!そういうとこホント大好き!」
「ショコルさんったら……///」
ついつい好きって言っちゃうほど、アタシはバニリィちゃんの事が……うん、分かっているから皆まで言わないでよね!
「色々していたら、もう夕飯の時間ね」
「楽しい時間ってなんであっという間に過ぎちゃうんだろう!ってことで、カレーを一緒に作ろうね!」
「これも、事前に決めていた事でしたね」
そんなこんなで夕飯は、バニリィと一緒に作ったカレーライス。チョコレートの原料であるカカオはカレーのスパイスとしても使われているの!
「う〜ん!すっごく美味しい!」
「実を言いますと、バニラエッセンスも少量入れてみたりしました」
「これってアタシとバニリィの想いが混ざったカレーって事なのね!」
「まあ、そうですね……私達も、いつかはこんな風に一緒に暮らす日々が来るのでしょう
か」
その言葉に対してアタシは言った。
「来るのでしょうかじゃなくて、来るよ!」
「ショコル!?」
「今日だって、こんなに楽しく過ごせたんだし、今日という日が毎日来るならアタシは最高に幸せだよ!」
「そこまで、言ってくれる人は……少し考えただけでもショコルさんしか思い浮かびませんね……明日迎える16歳の誕生日も、本当は一人で迎えると思っていたのに」
「アタシがいるから!もうこれで心残りはもう無いでしょ!あとは誕生日を一緒に迎えるだけだよ!」
「ショコル……!」
お互いの思いの丈をぶつけ合う二人。こうして一日中、何をするにもバニリィちゃんと一緒だなんて夢みたい!でもそれがこういう形で実現して、アタシは嬉しい!とっても嬉しい!!!
「シャワーの時間ね、さすがに一緒に入るのはどうかと思うからまず私から入りますね」
「せんせぇからも、まだプラトニックな関係でいてって厳しめに言われてるからねえ」
浴室から聞こえるシャワーの音を聞きながら、アタシは今日あった事を頭の中で整理した。初めて会った日にあんな強引な事をしちゃって、最初のうちは逃げられる事もあったけど、それでも追いかけて捕まえてら一緒にドーナツ食べに行った事もあったっけ。なんて考えている内に、バニリィちゃんがネグリジェを着て浴室から出てきた。
「上がりましたよ」
「それじゃ、アタシ入るね」
洗濯物は自前のビニール袋に入れて、明日持ち帰って自宅で洗濯する。ほとんど家の中にいたんだからまあ大丈夫だよね。そしたらさっきバニリィちゃんが浴びたシャワーをアタシも浴びたの。
「アタシの家のシャワーよりも、すごく広くて綺麗よね〜♪」
こういうのも何だけど、他人のものなら何でも羨ましくなる気質。アタシも将来はこういう家で暮らせたらいいなあとも思っちゃう。
「ぷはーっ気持ちよかったー!」
シャワーから出た後パジャマを着て、いつものココア大さじ9杯ミルクを飲む。近くの時計を見ると、時刻は11時30分。あと30分でバニリィちゃんの誕生日だ。アタシは寝室に入ると、そこには時計を見つめるバニリィちゃんの姿があった。
「バニリィちゃんちのシャワー、すごく広かったよ!」
「それは良かったですね……でも、こうしてこの時を迎えるかと思うと、何だか緊張します」
「それはアタシだって同じだよ!人生でたった一度の瞬間をこうして一緒に迎えられて、アタシは嬉しいよ!幸せだよ!」
「そうなの……それなら、今夜は一緒にいてくれる、ショコル……」
「もちろんだよ……!」
夜、同じ部屋で二人きりになった、バニリィとショコル。
こうしていると、アタシも色々と感情が混ざり合っていくのを感じている……目の前にいる彼女が特別な時を迎えるのをこうして特等席で見られるなんて……!
「なんだか……ドキドキしてきた……」
「アタシが見守ってるから、安心してよ!」
「わかったわ……」
そして……
時刻は0時となり……
8月24日を迎えた……!
ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!……
「はあっ!!!」
ドクン!!!
時計の鐘の音が十二回鳴ったその時、バニリィの胸から耳に響くほどの心臓の音が聞こえた後、バニリィの身体から、かつてないほどに濃厚なバニラの香りが溢れ出した。その香りは、世界一高級なバニラアイスの濃厚な部分だけを抽出したような……まさに彼女のココロの香りとも言えるものだった……!
「これが……私の香り……」
「とっても濃厚で……いい香りね……!」
これが、メルティーメイツが成長の一区切りを迎えた、『メルティング』という生体現象なのである。この香りを放った時に一緒にいる人こそが運命の人になるという言い伝えもある。ちなみにアタシは来年の2月14日に迎える予定。
「ショコルさん……私は……」
「うん……一言だけ、言わせてくれる?」
「どうぞ……」
アタシはバニリィに言ってあげた。
「お誕生日おめでとう!」
真夜中だから、あまり大声では言わなかった。
「その言葉だけでも、嬉しかったです……ありがとうございました……!」
「これからも、一緒に遊ぼうね、バニリィちゃん!」
「わかりました……」
こうしてアタシは、生涯一番の香りを放つバニリィがいる部屋で、二人一緒に濃厚なバニラの香りに包まれながら眠りについたのでした。
夢の中でも、アタシとバニリィは甘い香りの中で楽しく過ごしてました。
・・・
日が昇り、朝になっちゃった。
アタシは荷物を持って、いつぞや一緒に買った服を着ると、バニリィの家を後にするのでした。
「バニリィちゃん、最後にひとつだけ言っておくね!」
「はい」
「アタシの誕生日は2月14日で、その時16歳になるから、その前日、家に来てよね!」
「分かりました……!」
アタシの誕生日の事も教えた後、アタシは自宅に向けて出発したのでした。それにしても、まだバニリィの香りが染み込んでいるような気がする……メルティング、これほどまでにスゴイ事だったなんて……!
「ショコルさんの誕生日も、楽しみね……あら、お母さんからの連絡……」
バニリィは母からスマホに来たメッセージを見ていた。
「えっ……!?これって、本当なんですよね!?」
第10話 おわり
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