第9話 私とアタシが出会う前
今日も、バニリィとショコルはあなたの喫茶店で飲み物を味わいながらお話をしていました。
「今日もミルクが美味しいですね、ショコルさん」
「ねー!と言いつつココア大さじ9杯投入!……こうして、アタシとバニリィちゃんが出会ってまだ数ヶ月しか経ってないのに、ほとんど毎日がアトラクションのような気分だったよねえ」
「一緒にお買い物をしたり、お菓子を作ったり、遊園地にも行きましたね」
「どれもこれも、バニリィちゃんに会った日から全てが始まったんだから!」
「私も、ショコルさんに合わなかったなら、今頃どこで何をしていたのか、もう想像すら出来なくなりました」
これまでの思い出を感慨深く語り合う二人。するとショコルが言いました。
「そういえばアタシ達って、もっと前は何してたか、お互いちゃんと話してなかったよね」
「あっ、そういえばそうでしたね……」
「という事で今日はお互い、今までどんな風に育ったかをここで話してみない?」
「そうですね……一部お話出来ない所もありますが、私の話でもよければお話してあげます」
「全部話し終えたら次はアタシの番だからね」
バニリィは、これまでの自身の出来事をゆっくりと話し始めました。
* * * * * * *
私、バニリィ・スノーホワイトは、由緒正しき貴族の血統を持つ家柄に生まれました。すでに歳が6つ離れた姉のカフェイがいて、物心着く前から、一緒に遊んでくれました。
「おねえちゃん!おねえちゃん!」
「バニリィ、あんまり足下見ないと転ぶわよ」
「わあっ!」
ぱしっ
「ほら、このまま転んだらお膝が大変な事になっちゃうわよ」
「よかったあ……」
「何があっても、バニリィは私が守ってあげるからね」
「うん!おねえちゃん!」
転びそうになった私を守ってくれた事もあったお姉ちゃん。私が学校に通う歳になっても、お姉ちゃんと私は一緒にお出かけしたり、買い物したり、遊園地に行ったりして、とても楽しい毎日を送っていました。
「また一緒に遊ぼうね、お姉ちゃん!」
「ええ、これから先も楽しみましょうね」
あの頃の私にとって、お姉ちゃんは私の全てでした。それほどに、私の中では大きすぎる存在でした。
「お姉ちゃん大好き!」
「ウフフ」
しかし、お姉ちゃんは進級していくに連れて私とあまり遊ばなくなり、次第にお互いの心は離れそうになりました。
「お姉ちゃん、今日はお買い物行きませんか!」
「今日は大事な事を勉強しなきゃならないからまた今度お願いね」
「はい……」
将来に向けての勉強の事で手一杯なお姉ちゃんの事を心配する日々が続きました。そしてあの日、お姉ちゃんがこの町を離れる前の日に…………。
「お姉ちゃん……なんでそんな事言うの!」
「あなたなんかに、ワタシの気持ちは分からないわよ!」
「もう……イヤっ!!!」
あの日の事は、鮮明に覚えている。けれど、今はハッキリと言いたくもありません。
その後、お姉ちゃんは私の前から姿を消して、私はしばらくの間塞ぎ込んでいました。学校での授業は真面目に受けていても、友達との関わりは無く、異性からのアピールなども無く、私はこれからどうなるんだろうという想いだけを抱いて、灰の香りしかしない毎日を送っていましたが……。
突然、漂ってきたチョコレートの香り。
「だーれだっ!」
「うわっ!だっ……誰なの!?」
「キミの新しいお友達だよっ!こっち向いて!」
そう、全てはここから始まったのでした。
* * * * * * *
「……いかがでしたか?」
「お姉ちゃんがいるだけでも羨ましかったのに、最後は離れ離れになっちゃうだなんて、ホント悲しいよ……けど、アタシだっていつかはガツンと言ってあげたいから、もし会えるのなら会わせてよね!」
「ええ……考えておきます」
「それじゃ、次はアタシの話す番ね!」
ショコルは勢いよく話し始めました。
* * * * * * *
アタシ、ショコル・ブラウニーは、特別貧乏……ってほどじゃないけど、それなりの稼ぎのある夫婦の間に生まれたの。ママから聞いた話によると、ママのおばあちゃんのおばあちゃんのそのまたおばあちゃんは、家は貧乏だったけど明るく暮らしていたんだって!
「すなあそびー!どろあそびー!たのしー!!!」
「ショコルったらまたこんなにこぼしたココアのように散らかして……!」
3歳ぐらいから、アタシは遊び盛りのわんぱくっ子になっていた。親や大人が目を逸らした隙にすぐ遠くへ行って遊ぶから、安全のためにリードを着けてお出かけするようになった。頑丈な紐だったから離れる事も出来なかった。
「ママー!こっちにたのしそーなのがあるー!」
「うわっ!すごいチカラでこっちが引っ張られる!」
学校に通う歳になると、持ち前のわんぱくぶりが仇となって、友達と言える関係を作る事が出来なかった。
「みんなおはよー!」
「げえっ!ショコルじゃねーか!」
「噂では子供を襲おうとした大きな野良犬をパンチ一撃で撃退したらしいぜ!」
「あんなやつといたら身が持たないぜ!逃げろー!」
「なんでみんなアタシから離れるのー!」
だいぶ成長した時に、アタシは思い切ってママに言ってみたの。
「アタシ……弟か妹が欲しい!!!」
「そうなの……でも……実は……ワタシは!」
しかし、ママは身体的な事情からもう子供を宿せないと言った。
「本当はワタシだって欲しかったのに……願いを叶えられなくてゴメンねショコル……!」
「ママ……」
その後、なんやかんやで高校デビューしてから、アタシは友達になれそうな子を片っ端から探し始めた。そして、出会ったのが……。
「新しい……お友達……?」
「そうだよ!アタシはショコル!ショコル・ブラウニー!」
「……私はバニリィ。バニリィ・スノーホワイト」
バニリィちゃんだった……ってワケ。
* * * * * * *
「……以上ッ!」
「そうだったのね……何かを失い、探し求めていた私達はこうして、会うべき人と巡り会えたのね……」
すると、バニリィからするバニラの香りが、いつもより強くなりました。
「わっ、いつもよりいい香り、これってもしかして?」
「……実を言いますと、私の誕生日がもうすぐ来るのです」
「それって何日?」
「8月24日です」
「そうなの!実はその前日に、バニリィちゃんの家に泊まりに行こうと思ってたの!」
「えっ!?」
驚きを隠せないバニリィ。
「メルティーメイツってさ、16歳の誕生日に一番その身に宿した香りが強くなるってママから教わったんだ」
「私も、お姉ちゃんのその日に立ち合い、あの時の香りを今も覚えています」
「って事はその日に行けばバニリィちゃんの一番強い香りを楽しめるって事だよね!」
ワクワクが溢れて止まらないショコル。
「そういえば、古くからこういう言い伝えがありましたね……16歳の誕生日を迎えたメルティーメイツの香りを味わった者は運命の関係となる……と」
「じゃあ当日はバニリィちゃんの隣で全力待機って事で!バニリィちゃん、全身綺麗に洗って待っててちょうだいねー!」
「え、ええ……ショコルさんになら……!」
来たるべき日に、バニリィは大人になるための特別な時間を迎えます。その時間を過ごす相手は、今目の前にいるショコル。二人の関係は、友情を超えて、どこへ向かおうとしているのでしょうか。
第9話 おわり
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