第7話 甘味咲く祭の夜

 今日もあなたの喫茶店に、いつもの二人が来ています。


「いやーこの間の事は色々な意味でも大変だったよねー!」

「そうですね……でも、色々ありまして、ひとまず上手くいって良かったです」

「だよねー!それに今のアタシ達には見守ってくれる人達が沢山いるんだし、これからもアタシとバニリィちゃんの仲は安泰っしょ!」


 二人のいつものような会話の中にも、あなたは小さな幸せを感じています。


「さて、今日は私からお話します。先日は近所でお祭りがありまして、本当は行く予定は無くて買い物にいったら、たまたまショコルさんと会いまして……」


   * * * * * * *


 今日は近所で夏祭りが開催される日。そんな中、私バニリィはここ最近刺繍に凝っていました。お昼頃から作業を始めて、全体の50%が出来たと思ったら……。


「あっ……必要な糸が足りなくなっちゃった……そうだ、今から裁縫屋に行けば買える。それに今日はお祭りもあるんだし、買い物の時間後でちょっと見に行こうかな」


 私は必要最低限の支度をして、ソフトクリームのプリントが付いたTシャツを着て、キャメル色のショートジーンズを穿いて、黄色いサンダルを履いて家を出た。



 しばらく歩いて、ようやく目当ての裁縫屋の近くに来たけど、祭り会場の近くは沢山の人で溢れかえっている。会場は歩行者天国になっているので、車の出入りも規制されている。


「さて、足りない色の刺繍糸を……」


 お店に入ろうとしたら、目の前に知っている人がチョコの香りと共に立っていた。


「あ!バニリィちゃんも来てたんだ!」

「ショ、ショコルさん……!」


 毎度おなじみ、ショコルである。今日は板チョコ柄のショート浴衣を着ている。祭りを見に来たのでしょうか。


「もしかして、バニリィちゃんもこのお祭りを見に来たの?」

「えっと……その前にちょっとお買い物があって……すぐ済ませますので!」

「分かった!用事が済んだら一緒に行こうね!」


 私はすぐさま裁縫屋に寄って、必要なものを買い揃えました。その後余裕があれば少しだけ祭りを見ようと思っていたけど、ショコルがいるからには急いで済まさなければと思いました。


「これで、必要なものは買えました」

「それじゃ、一緒にお祭り見に行こう!」

「はい……」


 という事で、私はショコルと一緒にこのお祭りを楽しむ事にしたのでした。会場では色々な催しがありました。マーチングバンドの行進や演奏、ダンスパフォーマンスもあり、色々な屋台のお店もあって沢山の人と香りが立ち込めていました。


「年端もない子供達のマーチングバンドもあるのですね」

「アタシ達メルティーメイツは、幼少期の間は香りがまだ弱くて、10代の中頃から香りが強まって、16歳の誕生日にはピークを迎えるんだよね!」

「そうでしたね、あの子達が将来どのような香りを持つのか、楽しみですね」


 私とショコルは、りんご飴の屋台に来ました。まるで東洋の伝統料理『タコヤキ』のように6個入りのパックが人気みたいです。二人でお代を半分ずつ出して買いました。


「はい!バニリィちゃん!あーんして!」

「もう、子供じゃ無いんだから……」


 ショコルのりんご飴をいただく私。


「美味しい……この辺りでは味わった事の無い味ね……」

「飴の材料がさらにすごく美味しいものになってるみたいだよね!正直良く分かんないんだけど!」


 ショコルも美味しそうに食べています、しかもこのりんご、種まで美味しいとも評判です。


「それにしてもさ!何で毎年この時期になるとこうやってお祭りするんだろうね!」

「収穫祭や感謝祭、復活祭など、世の中には数多くのお祭りがありますが、私達の生まれる前から、このようなお祭りが沢山あって、私達の暮らしをより楽しくするためにみんなで続けているのでしょうね」

「バニリィちゃんの言ってることはアタシもわかるようなそうでもないような気がするけど、やっぱりみんなで騒げば楽しいからっていうのが、イチバンのお祭りをやる理由かもしれないよね!」


 なんて話していると……


ヒュ〜〜〜〜……ドドーーーーン!!!


 大きな花火が上がった。


「すっごい大きな花火!火薬の香りもここまで届くぐらい!」

「綺麗で、香り高いですね……」


 私達の世界での花火は、火薬でさえも甘い香りがします。空に打ち上がった花火は、上空で光り輝いた後、地上に焼き上がったケーキのような香りを振りまいて消えていきます。花火を見つめる私とショコル。


「そういえばバニリィちゃん、なんでその格好で来たの?」

「本当は、作ろうと思っていたものの材料を買いたくて、買ったらすぐ帰るつもりだったのですが、ショコルさんに会ったからには一緒にいなきゃと思ってしまって……!」

「アタシは昔からこういうお祭りは大好きだし、なんなら去年もこんなふうに一人で来てたんだけど、今はバニリィちゃんというお友達がいて、今日もまた会えたんだから!今日はアタシ達の友情を祝うお祭りって事ね!」

「もう、ショコルさんったら、いつも強引なのですから……」

「今度はバニリィちゃんも、浴衣を着て行こうね!」

「はい、考えておきます……」


ヒュ〜〜〜〜……ドドーーーーン!!!


 花火の輝きはほんの一瞬だけでも町と私達を優しく照らしてくれました。……こうして二人は、お祭りの終わる時間近くまで一緒に過ごしたのでした。


「それじゃあまた今度ね!」

「ショコルさんも、夜道は気を付けて下さいね」


 こうして私は家に帰ってシャワーを浴びた後で、買った資材を机に置き、電気スタンドの明かりを点けて刺繍の続きを始めたのでした。


   * * * * * * *


「……そして、これがあの後完成させた刺繍なの」


 バニリィはショコルとあなたに、バニラの花の刺繍が付いたハンカチを見せてくれました。


「わあっ!とっても上手!バニラの香りもしてて良い刺繍だよ!」

「ずっと素手で作業してたので、バニラの香りの皮脂が染み込んじゃいました」

「もしかしてこれを、アタシにくれるの……?」

「はい……これは、ショコルさんに渡したいなと思って作っていました。よろしければ貰ってくれますか」

「え!いいの!ありがとーバニリィちゃーん!ずっと大切にするからねー!!!」

「わっ……わあっ……!」


 またバニリィに貰った刺繍ハンカチごとスリスリしてくるショコル。チョコの香りが染み付いてむせちゃいます。まだまだ暑い日々は続きますが、夏の暑さにも負けずに、メルティーメイツ達の香りは今日もほとばしっています。


 第7話 おわり

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