第6話 遊園地を極めし者!?

『あなた達に、頼みたい事があります。私がこの街を去った後は……どうかあの子を、バニリィの事を守ってくれますか?あの子はまだ、世の中を何も分かっていない。私がここを去って、誰も支えてくれなければ、あの子は社会で生きられなくなる。だから、私の代わりに、あの子を守って下さいね……』


『いいだろう、あの時の恩は必ず返す』

『だから、心配しないでくださいね』


『私には、叶えたい願いがある。そのためにも、この家を離れる必要があるのですから……それと、もしもバニリィにお友達が出来たなら、その人も同じように守って下さいね……』




ぱち


 私バニリィは、いつもと違う夢を見て、いつもより早く目が覚めた。


「今日の夢は……お姉ちゃんが誰かとお話していた……二人いたようだったけど、あれはお姉ちゃんの友達だったのかしら……と、今日はショコルと遊園地に行く日だった、準備しなきゃ」


 心が少しもやもやするけど、朝食を食べてから出発して、駅でショコルと合流した。今日はショコルの提案で、お互い制服を着ている。


「おはようバニリィちゃん!」

「おはようございますショコルさん」

「今日はいよいよスウィートパラダイスパークへ一緒に行く日だよ!バニリィちゃんも楽しみだったよね!」

「え、ええ……どんなアトラクションがあるのかも予習しておきました」

「アタシも予定考えて来たから、ドーンッ!と楽しんでいこうね!」


 そんなわけで、二人で電車に乗って都会近くまで移動した。



 駅を降りてすぐの所に、今日のショコル部の活動の場であるスウィートパラダイスパークの正面ゲートが目の前にあった。


「さーて着いたよ!スウィートパラダイスパーク!!!」

「随分大きな所なのですね、家族とでもこういう所には行きませんでした」

「御託は良いから早くいこうよ!」


 私はショコルに引っ張られながらも受付の前に来た。


「いらっしゃいませ、チケットをお持ちの方はご提示下さい」


 私達は、ショコルが雑誌の懸賞で当てたというチケットを受付に出した。


「こちらになります」

「お二人ですね、良い一日を!」


 正門ゲートをくぐれば、そこには沢山のアトラクションがある景色が広がっていた。この遊園地は三年ぐらい前に開園して以来、近辺の住民はもちろん、遠くから来る人も楽しませているという。


「さて、まずはどこへ行きましょうか」

「ここに、今日行く所の計画書があるんだけど!」


 ショコルは私に、B5サイズの紙一枚にビッシリ描かれた今日の計画書を見せてくれた。



―――――――――――――――――――――


まずはポップコーンブラスト・ザ・ライドを10回連続乗り回して、次にチョコレートリバークルーズを5周して、アクロバット・クッキーでビュンビュン飛び回って、スイートハウスクローゼットで着せ替えして、キャンディードリームスライダーを20回ぐらい楽しんだら、他にも色々乗って、なんだかんだでラストはスプラッシュサイダーでシメ……


―――――――――――――――――――――


「ショコルさん、お言葉ですが、その計画じゃ、あっという間に閉園時間になっちゃうと思うのですが……」

「だってえ!ガイドブック見るだけでも時間が延々と溶けていって乗りたいもの全部書いたらこうなっちゃっちゃったんだから!!!」

「も、もう、どうしたらいいのよ……!」


 しょっぱなからグダグダな計画を見せられた私も、それなりに計画は考えていたつもりだけど、大人しいアトラクションしかなくて、ショコルに見せたら『こんなの地味〜!』と言われかねない。どうすれば……!


「あなたが、バニリィさんとそのお友達のようね」

「良かったら、俺達が案内してあげよう」


 聞いた事の無い声が聞こえたと思うと、目の前には見知らぬ男女がいた。青い髪でブルーベリーの香りがする男性と、橙色の髪のメイプルシロップの香りがする女性だ。


「なんか、カップルと思わしき二人に話しかけられたんですけど……!」

「え……なんで、私の事を知ってるの?」


 驚くショコルと私、しかも私の名を知っているとは、何故だろうか。


「それは……カフェイさんの頼みでここに来たから」


 男性の口から出た実姉の名前。もしかして、夢に出てきた二人はこの人達だったの……?


「申し遅れました、私はかえでと言います。将来は遊園地のクルーになりたくて日々勉強しているんです」

「俺は裕光ひろみつ、楓とは遊園地でアルバイト中に会った。それからなんやかんやあって今はこうして付き合っている」

「それで、楓さんと裕光さんはお姉ちゃんと知り合いなの?」


 私が聞くと、裕光さんは答えました。


「数年前、俺と楓は生命に関わるほどのピンチに見舞われた。そんな時に助けてくれたのがカフェイさんだったんだ」

「でもこの前カフェイさんが都会に引っ越しちゃうと聞いたから、一緒に会いに行ったら、妹のバニリィの事を守って下さいと言われたの」

「ついでに、友達の事もな」


 今目の前にいる二人は、お姉ちゃんの代わりに私を守ってくれるみたい。でも、引っ越し前日に喧嘩したって事を告げてもいいのかしら……なんて思っていると、ショコルはこの二人に向かって言った。


「アタシもバニリィちゃんも、この遊園地は初見なんだ!良かったらオススメのアトラクション、一緒に付き合ってくれるかな!」

「ちょっと、ショコルさん……!」


 するとその二人は。


「良いぜ、カフェイさんの恩義に応えるためにも、バニリィさんと友達を楽しませてあげないとな」

「二人より沢山いれば楽しいよね」

「ありがとう!あらためて、アタシはショコルって言うの!今日はよろしくね!」

「こんな私達ですが、案内よろしくお願いします……」


 お姉ちゃんのお友達にして、お互い遊園地には詳しいという楓と裕光というカップル。その二人の案内で、今日の遊園地を楽しむ事にした。


「まずはジェットコースター的なやつで気合を入れてみるか?」

「えっ……?」

「アタシならいつでもOKだけど!」

「ちょっと、いきなり激しいのだとすぐ疲れて体調崩しちゃうよ」

「そうだったな……あの時はすまなかったな、楓……」

「じゃあまずは、落ち着きのあるものから乗りたいです」

「分かった、ガイドになったつもりで案内しないとね。ではまずは……」


 楓さんの案内で、まずはチョコレートリバークルーズに乗る事にした。


「川がまるでココアの色で、香りもする」

「ココア大さじ900杯分の濃度を感じるよ!」

「船に乗って川を一周するアトラクションです、ジャングルの動物達も出迎えてくれますよ」

「ちなみに、ここにいる動物達は人工のアニマトロニクスだ」


 私達は船に乗って川を渡り、大自然の景色を楽しんでいった。


「心が安らぐ、良い体験でした」

「良かったねバニリィちゃん!次はコースター系行きたいな!」

「じゃあ俺のオススメを案内するぜ、ポップコーンブラスト・ザ・ライド、宇宙空間を飛び回る屋内型ジェットコースターだ」

「ポップコーンの小惑星の中を突き抜けるスリルが楽しめますよ」

「……」

「どうしたのバニリィちゃん!」

「何でも、挑戦しないと分からないって、昔お姉ちゃんに言われた事を思い出した」

「そうこなくっちゃだね!行こう!」


 次はポップコーンブラスト・ザ・ライドに乗った。宇宙空間を表現した屋内の空間には、ポップコーン型の小惑星が沢山浮いていて、私達の乗るコースターの動きに合わせて吹き飛ぶ演出があった。クライマックスには大量のポップコーンの中をハイスピードで突き抜ける演出があり、顔に当たりそうで当たらなかった。どうやら、このポップコーン自体、ホログラムによる実体無き演出だという。


「ハァ……ハァ……とても、怖かった……」

「アタシならあと10回はイケそうだけどね!」

「さすがに片方がこの様子じゃコースター系は控えた方がいいな」

「えーと、次はスイートハウスクローゼットで着せ替えを楽しんでみませんか?」


 続いて案内されたのが、まるで童話に出てくるお菓子の家のアトラクション。ここでは用意された衣装に着替えて写真撮影が出来るという。豪華なドレスやタキシードもあれば、立派な黄金の甲冑かっちゅうや氷のドラゴンの角と翼と尻尾などもあります。


 ……とまあ、こんな感じで、お姉ちゃんのお友達の案内もあって、遊園地を思った以上に楽しむ事が出来た。


「最後に案内するのが、ロリポップホイール。ここで一番大きな観覧車です」

「あの日の事を思い出しちゃうな……という事で、ここはバニリィとショコルだけで乗って来い」

「わ、分かりました」

「今日のメインイベントね!」


 私とショコルは、裕光さんと楓さんに見送られて観覧車に乗りました。


「ねぇバニリィちゃん、今日は楽しかった?」

「はい……お姉ちゃんのお友達にも会えて、この遊園地の事を色々案内してもらって、とても嬉しかったです……」

「アタシとバニリィちゃん、一緒に色々遊びに行くようになってだいぶ経つけど、すっごく楽しかったよね!」

「はい……まるで、ほんの数ヶ月が年単位に感じるほどの濃厚ミルクのような味わいの日々でした」

「それは良かった!アタシが色々聞くのも何だし、今度はバニリィちゃんが言いたい事ある?」


 私はショコルに言いました。


「ショコルと一緒にいると、何故か厭な事が起こらないし、辛い思い出を忘れる事も出来た……」

「そりゃあ、アタシとバニリィちゃんなら、この先何があっても楽しいに決まってるでしょ!」

「そうね……」


 なんて言っているうちに、観覧車は天辺に辿り着いた。


「ええっと、バニリィちゃん、アタシと……」

「何……なんか初めての体験……?

「これからもお友達でいてくれるかな!」

「…………はい……」


 私は、本心をショコルに告げた。


「お姉ちゃんがあの二人を助けたように、ショコルさんも心を閉ざした私を助けてくれた。だから今度は私がショコルさんを助ける番。これからも、友達のその先の関係になっても、一緒に楽しんで行きましょう」


 それを聞いたショコルさんは……!


「ありがとーーバニリィちゃーーーん!!!」

「わっ!抱きついてきた!!!」


 彼女の大きな胸が、私の胸を圧倒するように押し付けられる。幸い、隣の観覧車には誰もいないので、多分見られていないでしょう。そうこうしている内に、観覧車は一周して私とショコルは降りたのでした。


「二人共、お疲れ様でした」

「その様子だと、すごく楽しめたようだな」

「はいっ!今日は大満足でした!!!ありがとうございます!楓さん!裕光さん!!!」

「もし、お姉ちゃんと連絡出来るのなら、私に会えたと伝えてくれますか?」

「ああ、任せておけ……それからバニリィとショコルにはひとつ伝えておきたい言葉がある」

「……何でしょうか?」


 人はきっと、分かり合える。


「例え、どんな局面でも、互いを信じる心があれば、なんとかなるって事さ」

「これからも、二人の事を守ってあげるから、また一緒に遊びましょうね」

「分かりました」

「今度はコースター系フルコースで頼むよ!」

「ハハハ……考えとくか……」

「それでは、お帰りはこちらになります。お気をつけてお帰り下さいね」


 私とショコルは、裕光さんと楓さんに案内されて、この遊園地、スウィートパラダイスパークを後にしました。


「二人共、いい感じだったね、裕光君」

「ああ、今度は、ここに来ような、楓」


   * * * * * * *


「……以上が、先日の遊園地での出来事でした」


 バニリィはいつもの喫茶店で、あなたに遊園地で過ごした事を話していました。


「もう本当に楽しかった!!!また懸賞当てて行ってみたい!」

「今度は自分が稼いだお小遣いで行きたいですね」

「それにしても、バニリィちゃんのお姉ちゃんのお友達、いい人だったよね!また会えないかな!」


カランカラン♪


 おや、お客さんが二人入ってきました。


「ここか、バニリィ達の行きつけのお店は」

「ごめんください」


 裕光と、楓です。この二人もこのお店に来てくれました。


「あら、先日は大変お世話になりました」

「良かったらここのミルク飲んでいく?」

「ありがと……じゃあ隣……座るぜ」

「また緊張してる……」

「ここのミルクは何も入れなくても美味しいですよ」

「アタシならココア大さじ9杯入れるからね!」


 バニリィとショコルの隣の席に座る裕光と楓。


「さて、今日は俺と楓の出会いの話でも聞いていくか?」

「あんな事になるとは、思ってもいなかったからね」

「分かりました」

「是非聞いてみたい!」


 Special Thanks

 裕光&楓キャラクター原案 KMTさん


 第6話 おわり

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