花嫁のクリスマス
久石あまね
夜九時になったら王子様が迎えに来るの
辺り一面に雪が降り積もり、今年のクリスマスはホワイトクリスマスになった。
なんて幻想的なの。なんて少女みたいなことを心のなかで独りごちる。
私は二階堂優子。44歳の専業主婦だ。旦那は一流企業のサラリーマン。娘は13歳の中学二年生の天音。
順風満帆の人生をおくっているように見えるが、二階堂家には問題があった。
天音が学校でイジメられて統合失調症になったことだった。
天音は今、学校には行かずに自宅で療養している。
一階のリビングルームで朝の情報番組を見ながら、コーヒーとトーストを食べていると、2階から天音が目をキラキラさせて降りてきた。なんだか悪い予感がする。
「おっはー」
天音はニッコリと微笑みいった。天音は笑顔を絶やさない子だった。しかしそれは空元気だったというのに母親ながら気付けなかった。天音は無理をして学校に通っていたのだった。天音は今も無理に元気そうに振る舞っている。
「お母さんあのね、今日ね、夜の九時になったら王子様が迎えに来るの。プレゼントの結婚指輪を持ってね。それで天音、結婚するの」
天音には統合失調症特有の妄想があった。今天音が言ったことも妄想だ。現実に起こることではない。
「そうなんだ。じゃあ、ご飯いっぱい食べてお風呂入って、しっかりお化粧してドレスを着て待ってましょうね」
「うん!!!」
それからの天音といったらすこぶる元気で、表情も生き返ったように明るく、病気なんてどこかに飛んでいったんじゃないかと思えるぐらい生き生きとしていた。
「王子様が来たらね、こうやってスマイル100%で迎えるの」
天音はそういうと真夏の太陽のような笑顔でニッコリと微笑んだ。
夜7時になった。
まだ天音の興奮は冷めなかった。
「あぁ〜ドキドキしてきた。もうどうしよう。天音困っちゃう」
「ドキドキしてきたね。さあ、今日の晩ごはんはカレーよ、しっかり食べてね。体力つけないと」
天音はストレスで統合失調症の他にも摂食障害も患っていてかなりやせ細っていていた。
「うん、天音、王子様のためにも頑張って食べるよ」
天音はよく噛んで一口一口かみしめるように味わった。
8時50分。
天音は化粧をし、ドレスに着替えた。
天音はソワソワして落ち着かない様子で、顔が真っ赤だった。緊張しているのだろう。
「お母さん、緊張してきた」
天音の声は震えていた。
「お父さん今日は帰ってこないの?」
「お父さんは今日は出張なの。お父さんにも話したいよねぇ」
「うん、なんか王子様来ないような気がしてきた」
天音は肩を落としか細くつぶやいた。
「外見てこようかな」
天音はそう言うと玄関から飛び出した。
母の優子も玄関から出た。
すると一台の車が家の前を通った。
「あっっ!」
天音の瞳が一瞬輝いた。
でもすぐ輝きは消えた。
車は通り過ぎただけだったのだ。
そうして30分ほど家の外にいた。
「天音ちゃん、寒いね、もうお家のなかに入ろう」
「………」
「天音ちゃんお風呂でも入ろう、身体冷えてるでしょ」
天音は右手のひらを胸に当てて、目を懸命に閉じ、抱えきれない何かに堪えていた。
花嫁のクリスマス 久石あまね @amane11
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