第4話 岩田の焦り

選挙戦が激化する中、新京都の街はますます熱気を帯びていた。街頭演説が至る所で行われ、市民たちの関心も高まっていた。候補者たちは支持を集めるために、様々な戦略を駆使していた。


小杉百合江は、さらなる支持を得るために大規模な集会を計画していた。会場には多くの支持者が集まり、小杉の演説を熱心に聞いていた。彼女の堂々とした姿と自信に満ちた声は、集まった人々に強い印象を与えていた。


「みなさん、新京都をもっと素晴らしい街にしましょう。私たちの未来は明るいです!」と、小杉は演説を締めくくった。


一方、竹内孝志はさらに奇抜な戦略を打ち出していた。彼は街頭でのパフォーマンスを強化し、大胆な衣装をまとって踊りながら演説を行った。彼の支持者たちは、まるでフェスティバルのように楽しんでおり、選挙戦が一種のエンターテインメント化していた。40代半ばの竹内は、常にカジュアルな服装で、髪は少し無造作にセットしている。彼の演説スタイルは自由奔放で、聴衆を楽しませるのが得意だ。


その日、竹内は大規模なパフォーマンスを計画していた。街の中心にある広場に設置されたステージには、色とりどりのライトが輝き、ステージ前には多くの市民が集まっていた。竹内は、シルバーのジャケットと派手なサングラスを身にまとい、ステージに登場した。


「みなさん、今日は楽しむ準備はできていますか!」と、竹内はマイクを握りながら叫んだ。


バックには音楽が流れ始め、ステージ上にはダンサーたちが現れて踊り出した。竹内もダンサーと共にリズムに乗りながら、軽快に踊り始めた。彼の動きは滑らかで、観客たちは手拍子を打ちながら応援した。


「新京都に新しい風を吹かせよう!私たちが変革を起こすんだ!」と、竹内はエネルギッシュに叫んだ。


観客たちはその言葉に呼応し、歓声を上げた。竹内は続けて、具体的な政策をリズムに乗せて紹介し始めた。


「まずは教育改革だ!子供たちにもっと自由な学びの場を提供しよう。次に、環境保護だ!緑豊かな街を守るために、みんなで協力しよう!」と、竹内は力強く訴えた。


彼の言葉に合わせて、ステージ上のスクリーンにはグラフィックが映し出され、政策のビジュアルが次々と表示された。観客たちはその斬新な演出に驚き、興奮を隠せなかった。


「私たちは一緒にこの街を変えることができる!」と、竹内は締めくくった。


そして、竹内は観客に向かって両手を広げ、決め台詞を放った。「都庁をぶっ潰せ!」その言葉は観客の心に強く響き渡り、場内は大きな歓声に包まれた。


演説が終わると、竹内はダンサーたちと共にステージを降り、観客たちと直接触れ合った。彼は一人一人と握手を交わし、笑顔で写真撮影に応じた。


「あなたのエネルギーが本当に素晴らしいです!」と、若い女性が竹内に話しかけた。


「ありがとう!一緒に頑張りましょう!」と、竹内は笑顔で答えた。


その頃、大樹と夏美は、美奈子の協力を得てさらなる証拠集めに奔走していた。彼らは都庁の内部から重要な情報を引き出し、不正を暴くための準備を進めていた。しかし、岩田真一の監視はますます厳しくなっていた。


ある日、大樹と夏美は密かに都庁の地下倉庫に侵入し、重要な書類を手に入れることに成功した。だが、その帰り道で不審な男たちに尾行される。


「気をつけて、大樹。誰かに見られているかもしれない」と、夏美は小声で警告した。


「わかっている。早く安全な場所に戻ろう」と、大樹は焦りを隠せなかった。


なんとか尾行を振り切り、彼らは安全な場所に到着した。手に入れた書類には、小杉陣営の不正の証拠が詳細に記されていた。


「これで決定的な証拠が揃ったわね」と、夏美は息をつきながら言った。


「これを公にするために、次のステップに進もう」と、大樹は決意を新たにした。


しかし、岩田真一は彼らの動きを察知し、さらなる圧力をかける計画を立てていた。


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岩田真一はデスクに座り、手元の資料を睨みつけていた。彼は背が高く、がっしりとした体格を持つが、その鋭い目つきは一切の甘さを許さない。彼の前には、小杉百合江の選挙戦略と内部調査の結果が並んでいた。


「このままではまずい…」岩田は心の中で呟いた。彼は長年にわたり都庁の幹部として権力を振るってきたが、今回の選挙はこれまで以上に重要だった。小杉百合江の再選は、自身の地位を守るためにも絶対に必要だった。


「瀬川と佐伯か…。あいつらがどこまで掴んでいるか分からないが、手を打つしかない」


岩田は緊張感を隠せなかった。彼は強面の外見に反して、細やかな計画と策謀に長けていた。しかし、今回の不正に関する証拠が外に漏れれば、自身のキャリアも終わる可能性があった。


「これまで通りにやるだけだ。失敗は許されない」


岩田は電話を取り、部下に指示を出した。彼の声は冷たく、確信に満ちていた。彼は部下たちに、大樹と夏美の監視を強化し、あらゆる手段を使って彼らの動きを封じるよう命じた。


「奴らが何をしようとしているか、すぐに報告しろ。手遅れになる前に止めるんだ」


岩田の心は苛立ちと焦りでいっぱいだったが、それを表に出すことはなかった。彼は冷静さを保ち、次の一手を考え続けた。


「何としても、この選挙を制する…」


岩田は決意を新たにし、書類に目を戻した。新京都の未来は、自分の手の中にあるという自負が彼を支えていた。しかし、その自負の裏には、失敗への恐れと不安が渦巻いていた。岩田は自身の運命を賭けたこの戦いに、全てを注ぎ込む覚悟を固めた。


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選挙戦は日に日に激しさを増し、裏では一層の緊張が走っていた。光が影を照らし、真実が闇を暴くその時、新京都の運命は大きく変わろうとしていた。選挙戦の行方は誰にも予測できず、街全体がその結果を固唾を飲んで見守っていた。

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