エピローグ

「痒いですー。」


家で家族団らんをしていると、娘の美咲(みさき)がそう言って手にできた汗疹さんを掻こうとしたので、僕は大慌てで薬を持ってきて、彼女の腕に塗ってあげることにした。

娘も妻に似て皮膚が弱いらしい。


「ありがとうなのです。パパ。」


「どういたしまして。でも汗疹さんを掻いたりしたら駄目だよ。掻いても痒みは収まらないからね。薬を塗ってバイバイしないと。」


「パパはどうして汗疹に対して優しいのです?こんなの痒いだけなのです。」


娘は汗疹を嫌っている様だが、僕は彼女の様に汗疹をただ憎むことは出来なかった。


「汗疹さんのおかげでパパとママは出会うことが出来たんだよ。だから汗疹さんが居なかったらミーちゃんもココに居ないかもしれなかったんだよ。」


「へぇ、そうなんですね。」


汗疹が僕ら夫婦のキューピットであることは間違いない。ゆえに僕は敬愛の念を込めて汗疹さんと呼ばせて貰っている。汗疹は人を痒くする嫌われ者だが、僕は汗疹のおかげで可愛い妻と可愛い娘まで手に入れることが出来た。痒さを差し引いてもお釣りがくる。


「ねぇねぇ、パパ?」


「どうしたミーちゃん。」


「どうしてママに薬を塗るのは、ミーが寝てからなんですか?起きてる時に薬を塗るとこを見たことが無いのです。」


「えっ、それはだね・・・。」


娘の質問に困った僕は、助け舟を出してもらおうと妻の方を見たのだが、妻も顔を赤くして目線を逸らしたので、どうやら僕が誤魔化さないといけないらしい。

嘘をつくのはいけないことだが、薬を塗ることが夫婦の営みの前戯になっているなんて、娘にとても言える話じゃ無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋模様、汗疹様~とりとめのない恋の話~ タヌキング @kibamusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ