アナタの背中は美しい
汗疹に薬を塗ることになったのだが、女性の柔肌に触れるのはやはり勇気がいる。
一番最後に女性の肌に触れたのはいつぶりだろうか?高校が男子校だったので、おそらく中学生以来だろうが、長い年月が経てば経つ程に女性に触れると言うのは勇気がいる。
「ブラのフォックを外して貰えますか?ブラの内側のところにも汗疹が出来てまして。」
「ブラのフォック⁉」
大黒さんの無茶な要求に私は困惑した。ブラに触ることすら困難なのに外し方ともなれば大困難である。そもそもブラのフォックの外し方もよく分からない。こんなことなら動画サイトでブラの外し方でも検索しておくんだった。
見栄を張っても仕方ない。ここは正直に言うことにした。
「すいません、ブラの外し方が分かりません。」
「あっ・・・はい、じゃあ自分で外します。」
何かを察したような大黒さんの物言いに、私は童貞だということが彼女に知られてしまったことに気が付いた。ブラの外し方が分からない=童貞、なるほどこの方程式は割と正しいのかもしれない。
大黒さんはブラのフォックを外し、ブラが居間の畳の上にファサっと落ちた。
大黒さんは手ブラ状態になり、私は本日二度目となる生唾をゴクリと飲み込んだ。
今までこういうイベントが全く無かった人生だというのに、これは刺激が強すぎるじゃないか。出来れば徐々に慣らして行きたかった次第である。
「それじゃあ、薬を塗って下さい。もう痒くて痒くて。」
くねくねと艶めかしく動く彼女の背中。余程痒いのだろうが、僕は少し誘われているんじゃないかと錯覚してしまった。落ち着け僕、そんなことは万に一つも無い、ここはミッションを確実にこなして行こう。
フーッと深呼吸を一つして「失礼します」の掛け声と共に、僕は大黒さんの汗疹に薬を塗り込んで行く。
プニッと心地の良い弾力が指に伝わり、快感が体を駆け巡った。
「ありがとうございます。効いて来たみたいです。」
ありがとうございますはコチラの台詞である。興奮して鼻息が荒くなるが顔はポーカーフェイスを決めているので、大黒さんに振り向かれたとて、僕がいやらしい気持ちになっているのは分からないだろう。
「ひゃい‼」
突然彼女が悲鳴を上げる。どうしたというのだろうか?
「ど、どうしました?」
「あ、あの、丸山さんの息が私の背中に当たって、こしょぐったくて。」
「・・・すいませんでした。」
その後、僕は顔を横に向けながら薬を塗った。
全て塗り終えると彼女は「ありがとうございます」とお礼を言って、服を着て帰って行ったのだが、帰る際に「明日もお願いできますか?」と僕に言ってきたので、僕は「治るまでお付き合いします」と快く承諾した。
あの時の彼女の笑顔を忘れることは出来ないだろう。
それからというもの、毎晩のように彼女は僕の部屋に来た。僕は薬を平常心で塗れるようになったし、ブラのフォックも外せるようになった。
薬を塗りながら彼女の身の上話に耳を傾けた。
ブラック企業に勤めていて心身ともに病んで辞職したこと、今は貯金を使いながら生活していること、中々に苦労しているのだと同情の念を感じざるを得なかった。
「私、これから先、大丈夫ですかね?」
「なに、大丈夫ですよ。隣人の男に薬を塗ることをお願いできるんですから。その度胸があれば大丈夫です。」
「うふふ、そうですかね。」
彼女との時間は僕にとって掛け替えない時間であった。
しかし、そんな時間も長くは続かない。彼女の汗疹が治ってしまったのである。一面の真っ白な美しい彼女の背中が見れたことは達成感があったが、もう彼女に触れることは無いのだと思うと、切ない溜息が漏れる。
「もう塗らなくても大丈夫ですね。今までお疲れさまでした。」
「・・・。」
何も喋らない大黒さん。一体どうしたと言うのだろう?
「あ、あの大黒さん。」
僕がそう問いかけると、彼女は僕の予想しない言葉を発した。
「・・・丸山さんって意気地がないんですね。」
「・・・えっ?」
戸惑う僕を他所に、彼女はクルリと手ブラのまま僕の方を振り向いた。
「ちょ、ちょっと大黒さん‼」
彼女は更に手ブラも取ってしまい、見たことの無かった彼女の素晴らしい部分が露わになる。
「お、大黒さん‼」
僕は両手で目を覆い隠そうとしたが、それよりも先に大黒さんが僕のことを両手で押し倒してしまった。
“ドーン‼ミシミシ‼”
古くなったアパートの床が軋む音が聞こえた。眼前に来た彼女の美しい顔に僕の心臓は高鳴る。
そして一言こう言うのだ。
「もっと色んなところにお薬塗って欲しいです♪」
今まで見たことも無い妖艶な彼女の笑みに、僕の仲の狼は覚醒を遂げた。
ここから先のことは言うまでも無いだろう。
要は汗疹のが結んだ縁もあるのだと分かって頂ければ幸いである。
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