第17話 国王の懸念
「パパー、話ってなに?」
みんなはやめろと言うけれど、あたしはノックなんてしないでそのまま部屋に入った。
だって、血の繋がった親子がそんなよそよそしいのは嫌だもん。
「……セシリア。メリヌスから聞いたが、セイクリッド・アカデミーに行っていたのか?」
金ピカの玉座に座るパパは足を組んで踏ん反り返っていた。
何年か前まで髪は綺麗な金色だったけど、今ではストレスのせいか白髪混じりになって燻んでいる。
「うん。初めて行ってみたよ。僧侶になるために見学してきたんだ。悪い?」
「良いか悪いかで言えば悪い。お前は我の大切な娘なのだ。死にゆくことが確定している魔王討伐の旅に同行させる事はできぬ」
「だーかーらー! 何度も言ってるけど、こうやって誰かが行動に移さないとずっと戦況は変わらないんだよ?」
「その誰かはお前ではない。アカデミーにいる生徒たちのことだ」
この押し問答は何度も何度も続けている。
でも、今日はこの目でしっかりと見てきたから、新しい進展があるはず。
「アカデミーにいる人たちは魔王討伐に行くつもりなんて全くないよ。知らないの?」
「なぜそう思う?」
不思議そうに聞いてきた。
王都が管理している機関とは名ばかりで、国王のパパはパパは何もわかってない。
「今日、四つのコースの色んな人とたくさん話したんだ。みんな口では魔王討伐とか冒険とか旅とか何とか口にしてるけど、心の底から魔王討伐に行きたいって言ってる人なんて一人もいなかったよ。
貴族たちはお家の事情でアカデミーに入ってるだけだし、勇者候補なんか特にそう。魔王討伐への使命感なんて殆どなくて、みんな力を自慢して将来のお婿さんを見つけるために入学しただけ。”誰かがやればいい”って、みんなそう思ってるんだよ。そんな人たちが魔王討伐に行くと思う?」
あたしは半日かけてしっかり見聞してきた。
みんな口では偉そうに言ってたけど、実際は誰も本音で話していなかった。
レミーユちゃんからは強い意志を感じたけど、他はダメ。
当たり前だけどやっぱり死ぬのが怖いんだと思う。
それはあたしも同じ。でも、誰かがやらないといけない。
ずっとうじうじしてたら魔王の侵略は止まらないし、滅ぶのを待つだけになっちゃうしね。
そんな中、アーサーくんは本気だった。
魔王を一人で倒すだなんて冗談みたいなことも言ってたけど、ぶれない心は間違いなく本物だった。
彼は自分のことを臆病で怖がりだって言っていたけど、それでも、彼は、彼だけは、本気で魔王を討伐しようとしている。
「……勇者候補は選ばれし存在だ。魔王討伐に行く義務がある」
「でも、本物の勇者はもう百年も現れてないよ? それに聖剣を抜けない勇者候補の人たちを魔王討伐に行かせても、全部失敗してるんだよね? アカデミーの勇者育成だって慎重すぎて進展が見られないみたいだし……そもそもあの条件を満たせるような勇者候補が一人もいないのは、さすがにマズいんじゃないの?」
「っ……」
パパは動揺して眉を顰めた。
あたしの言葉が核心を抉ったんだと思う。
みんなが目を背けているけどそれが事実。
他国もそうだけど、呑気にアカデミーとか何とか言ってる場合じゃない。
今は地位とか権力とか儀式とか何とか気にせずに、本当に実力のある人が選ばれるべきなんだよ。
そもそも、勇者になる条件は聖剣を抜くことだけど、聖剣を抜く対象に選ばれるためにも条件がある。
その細かな条件は全部で三つ。
一つ、道徳的な資質や正義感を持ち、人々を守る意志を示すこと。
二つ、重要な使命を果たすための冒険心や決断力を持つこと。
三つ、勇気と犠牲を厭わない覚悟を持つこと。
これを満たせる人が現れていないって事は、本当は誰も魔王討伐なんかに行きたくないって事。
そして、アカデミーにいる人たちがみんなそうだったって事は、あんな場所に意味なんてないって事。
でも、その中から、あたしは見つけた。
「一人だけ、本物の勇者になれそうな人がいるんだよね」
「其奴は……我に勧めるほどの逸材なのか? どこぞの貴族家の出自だ?」
「ううん。でも、少なくとも、あたしは彼こそが本物の勇者なんだって思うし、何よりもびびっときたからね」
「では、今すぐに連れてくるがよい。我が直接確認してやろう」
パパはあたしに核心を突かれてムキになっているのか、思いのほか乗り気だった。
けど、ここに連れてくるのはまだ早かった。
「んー、それはもう少し待ってほしいかな。あたしはまだアーサーくんの実力をこの目で見ているわけじゃないからね」
アーサーくんを一目見た時の直感でそう思っただけで、まだあたしは彼の本質を知らない。
実力についてはイレギュラーモンスターを討伐したし全く問題ないと思う。太刀筋だってそうだ。
でも、一度この目で直接確認してみたい気持ちもあった。対人戦でもモンスターを討伐するでもいい。何らかの方法で彼の実戦的な力を見てみたかった。
それを知るには少しだけ時間が必要だった。
「ふむ。よかろう。そこまでお前がアーサーとやらの実力を買っているのなら、一週間だけ時間をくれてやる。それまでに我が御前に其奴を連れてくるがよい」
パパはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
それはもう偉そうな口調だったけど、人を見下しているわけじゃなくていつものことだから別に気にしない。
差別とかもしない人だから、多分アーサーくんのことを正しく評価してくれる。
むしろ、あたしと同じく彼を見て直感するかもしれない。
アーサーくんが勇者になり得る素質を持つ人なんだって。
「わかったよ。じゃあ、あたしは明日から一週間だけアカデミーで過ごすから、根回しだけよろしくねー。見学って感じでいいと思うよ」
「外にいるメリヌスには事情を伝えておけ。無論、何かおかしな噂を耳にしたらすぐに連れ戻すからな。あそこには我が王宮から派遣している講師もおるからな」
「うん。じゃあ、また一週間後ね」
あたしはパパに別れを告げて謁見の間を出ると、部屋の外にいたメリヌスに事情を説明して自室へと戻った。
明日からは、一週間だけアカデミーで過ごすことになる。
そこで、アーサーくんの実力を見させてもらおうかな。
そんなの見なくても、考えは変わらないと思うけどね!
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