第13話 凄まじい太刀筋
空が真っ赤に染まり、静寂な森の中には静かな風が吹き抜ける。
「はぁぁぁぁ……」
あたしは大きなため息を吐いた。
今はアカデミーから少し離れた森の中を散歩していた。
メリヌスには馬車で待ってもらっているけど、そろそろ空が暗くなるから戻らないといけない。
でも、戻る気分にもなれない。
「全然ダメだったなぁ」
レミーユちゃんと一緒にアカデミーを回ってみたけど、全く目ぼしい人は見つからなかった。
勇者コースの人は特殊能力を口で自慢してくるだけで、剣も魔法も全然ダメ。
賢者コースの人たちもレミーユちゃん以外あんまりだった。
僧侶コースと戦士コースも同じ。期待して損した。
でも、そんなことなんてどうでも良いと思えるくらいの有力な情報を手に入れた。
それは、イレギュラーモンスターを倒した噂の真相について。
ラッキーなことに、レミーユちゃんがイレギュラーが起きた現場に居合わせていたみたいで、詳しく話を聞くことができた。
曰く、イレギュラーモンスターを討伐したのは、一人の勇者候補の男の子で、名前はアーサーくん。
あたしの耳にも届いているような色々な悪い噂が流布されているけど、それは全てありもしないデマらしい。
レミーユちゃんは悪い噂の払拭に手を焼いているみたいで、かなり困っていそうだった。
だからこそ、レミーユちゃんはあたしを頼ってくれた。
最初はあたしにその情報を教えるつもりはなかったみたいだけど、あたしが本気で勇者を探そうとしてるってことを知ってくれたから心変わりしたって。
アーサーくんは黒い髪の毛と瞳が特徴的で、近寄りがたい雰囲気らしい。
でも、内面は悪い人ではなくて、人を救い出す強い力を持った逸材だとか。
ますます期待が高まる。
早くアーサーくんを見つけ出して話を聞いてみたい。
「いないなぁ……」
具体的な居場所はレミーユちゃんもわからないみたいだから、直感で何となく森に来てみたんだけど……全然見当たらない。
「どこにいるのかなぁ」
あたしは森の真ん中を目指していた。
メリヌスが教えてくれたけど、そこには湖があるみたい。少し開けた場所らしいし、いるとしたらそこだと思う。
「この音……」
歩みを進めていくと、風切り音が聞こえてきた。
まるで空気そのものを切り裂いているかのような鋭い音だった。
あたしは茂みに隠れて音のする場所を見てみると
「……素振り?」
見つけた。
視線の先には一人の男の子がいた。
黒い布切れをはためかせながら、両手で持った剣を縦横無尽に振っている。
王国に仕える騎士と比べたら綺麗とは呼べない太刀筋だったけど、あまりにも速い太刀筋は目で追うことができないくらいだった。
僧侶になりたいあたしでもそれくらいはわかる。王族として剣を学ぶ事は最低限の嗜みだからね。
それにしても、凄い太刀筋だ。
疲れているのか腕は震えているように見えるけど、それでも体幹はしっかりしていて芯はぶれていない。滝のような汗を流していることから、異様なまでに集中していることもわかる。
「……っ……」
あたしは衝撃を受けた。
その太刀筋と剣技は、とても洗練されているとは言えないけど、剣を振るごとに凄みを増す一連の所作は言葉を失うほどだった。
勇者コースや戦士コースにいたどんな人よりも、剣に込めた意思は強いように見える。
「もしかして、この人がアーサーくん?」
確かに黒髪だから、レミーユちゃんから聞いた特徴と一致する。
声をかけてみようかな。
思い立ったあたしは茂みを抜けて口を開こうとしたけど、同時に別方向の茂みが蠢いてそれは叶わなかった。
あたし以外の別の誰かが現れた。
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