第2章 セシリア・ルシルフルの喜悦

第12話 第二王女セシリア・ルシルフル




Change of perspective〜Cecilia〜



 

 アルス王国の第二王女として生まれたあたしは、退屈な毎日を過ごしていた。


 お兄ちゃんは跡継ぎとして、お姉ちゃんは家の顔として、二人とも面倒な事はやってくれる。

 おかげであたしは何不自由ない暮らしを送れていた。遅く起きても文句は言われないし、執事さえ付ければどこへだっていける。

 欲しい物があっても大抵は手に入る。


 でも、冒険をすることだけは許されなかった。

 

 あたしは生まれながらに回復魔法と補助魔法が得意で、含有する魔力量も他の人より何倍も多かった。

 英雄譚も好きだった。強大な敵に立ち向かう物語はあたしの心を魅了した。


 だから、本当は勇者パーティーに入って魔王を討伐したかったけど、今みたいな何も起きない毎日に飽き飽きしていた。


 あたしは僧侶になりたかった。


 魔王の脅威が迫っているっていうのに、パパは呑気だった。

 たくさんの国と結託して、騎士の派遣とか物資の調達とか、資金繰りとか色々やってるのは知ってたけど、それでも勇者を見つける事はできていない。

 百年前を最後に勇者は現れていないし、セイクリッド・アカデミーも何をしているのかよくわからない。


 だから、今日、あたしはアカデミーを視察しに来た。

 もちろん、パパには内緒でね。


「メリヌス、例のイレギュラーモンスターを討伐したのはアカデミーの生徒と講師だったよね?」 

「ええ。そのように伺っております」


 あたしの問いに答えたのはお付きの執事メリヌスだった。

 御者として馬車を引いてくれている。

 

「一人で討伐した人がいたっていう噂も聞いたけど?」


「イレギュラーモンスターの推定ランクを加味すると、噂の信憑性は低いかと。そのような力を持っているのであれば、もっと早く別の形で噂になっておりますから」


「だよねー」


 何週間か前にモルドのダンジョンっていう場所でハプニングがあったみたい。

 何でも、イレギュラーモンスターっていう強いモンスターが現れて、二十人以上の人たちが犠牲になったとか。

 そのイレギュラーモンスターを討伐したのは、勇者コースに所属する勇者候補の人って噂と、死んじゃった講師と生徒たちって噂がある。

 それと、その勇者候補の人が講師と生徒たちを貶めて殺したって噂も聞いた。


 今やアルス王国中で話題になっていて、アカデミーの信頼は地に落ちかけているみたい。

 ただでさえ、百年も勇者が現れていなくてみんな不安になっているっていうのに、こんな悪い噂ばかりが出回っているようじゃダメだよね。


 どれが本当の話かわからないけど、たった一人でイレギュラーモンスターを倒した人がいるんだとしたら、その人は間違いなく強い人だと思う。

 もしかしたら、勇者になれる逸材かもしれない。


 だから、とにかくあたしは気になっていた。


「……どんな人なんだろう」


 馬車に揺られながら考える。

 噂が出るって事は何かがあったのは確かだよね。

 しかも、たった一人っていう話になる時点で、少し訳ありっぽいし……その人と接触してみるのが一番早いかも。


「お嬢様、到着いたしました」

 

 王宮からしばらく馬車を走らせると、アカデミーに到着していた。


 あたしは馬車から降りて周囲を見回した。

 アカデミーの正門にはたくさんの人たちがいて、あたしのことを盛大に出迎えてくれていた。


「あら、すごい歓迎ムードじゃない。パパにバレるのも時間の問題かなー?」


「誠に勝手ながら、国王様へは既に私めがご報告しております」


「はぁ……相変わらず仲良しなんだから」


 パパとメリヌスは昔からの仲だから、パパに情報が漏れるのはもう仕方がない。

 本当はバレたくなかったけど、メリヌスを執事に選んだ以上はどうしようもないね。

 

 まあ、むしろパパにはあたしがこうして行動していることを知ってもらうのが良いと思う。もっと危機感を持つべきだよね。


「……えーっと、案内はレミーユちゃんがしてくれるんだっけ?」


「ええ。あちらにいらっしゃいます」


「あー! レミーユちゃん! おひさー!」


 メリヌスが指を差した先には、ぴんと耳が伸びた綺麗な女性がいた。


 何を隠そうレミーユちゃんだ!


「お久しぶりです。セシリア様、お元気でしたか?」


 レミーユちゃんは純白のローブをひらひらさせながら頭を下げてきた。

 相変わらずの貴族らしいお堅さだね。


「うんうん! 元気元気! 多分、子供の頃のパーティー以来かな?」


「それ以来ですね。本日は私が案内させていただきます」


「よろしくー。色々と聞きたいこともあるし、四つのコースを見学させてね?」


 あたしはレミーユちゃんの両手を取って微笑みかけた。


「ええ。では、こちらへどうぞ」


 レミーユちゃんとあたしが歩き始めると、海を割ったかのように人ごみが端に避けていった。

 みんな緊張したような顔だけど、いつも通り過ごしてほしいなぁ。


 リラックスした状態じゃないと本当の実力は測れないし、あたしがここにきた目的はみんなの力を見たいからだしね。

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