第8話 惨劇のその後
モルドのダンジョンで起きた惨劇から早数十日が経過していました。
あれから落ち着きのない日常が続いています。
毎日のように聴聞会が開かれ、私は授業そっちのけで時間を拘束される日々を過ごしていました。
アーサーとペアを組んでいたということもあり、彼に関する話題を尋問されるのです。
『アーサーはダンジョン内で不審な言動をしていなかったか』
『アーサーに騙されたり脅されたりしていないか』
『アーサーが生徒たちに危害を加えた現場を目撃していないか』
聴聞をしてくる講師の方々は、高貴な出自ではないアーサーに全ての責任をなすりつけようとしているのです。
切羽詰まった顔つきで問いを重ねてくる姿は、見るに耐えませんでした。
話によると、死傷者は二十名を超え、精神的に問題を抱えた生徒も多くいるそうです。
きっと関係各所から詰められていることでしょう。
名家の生まれの方々が多く亡くなられたので当然です。
彼らは事の顛末を何も知らず……いえ、理解しようとせずに、アーサーを使って責任逃れに走っているのです。
ただ、私は何も答えませんでした。
聴聞会が終わるその時まで『覚えていません』と言い続けました。
本当は鮮明に覚えています。アーサーの大きな背中と圧倒的な力強さ、そして勇者様に相応しい強大な雰囲気……忘れるはずがありません。
こうしてしらを切り続けていると講師の方々が先に折れました。
聴聞会はつい先ほど開かれた会をもって最後となる旨が通達されたのです。
結局、状況証拠が乏しすぎるあまり、アーサーに責任の全てをなすりつけるのは不可能だという判断に至ったようです。
更には生徒たちの混乱を招かないためにも、この件はアルス王国の国王様が内々に処理してくださることになったとか。
当然の結果です。
よって、今回の件は不問となり、モルドのダンジョンで起きた惨劇の真相は私とアーサーのみが知ることとなりました。
帰り際、寮のアーサーの部屋に寄ってみましたが、彼の姿はありませんでした。
どうやら彼の聴聞は長引いているようです。
私は簡単に手紙を綴り部屋の戸に挟むと、寮の裏手へ向かい、彼を待つことにしました。
幸い、今は時間が遅いこともあり周囲には誰もいません。
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