光沢紙の月

光沢紙の月

光沢紙の月


「ねえ、父ちゃん。センダドの月はなんか小さいよ」

「どうしてだい?ヒデ。」

「おばあちゃんちのイハトから見える月の方が大きいんだよ」

「それは多分季節が違ったからじゃないかな」

「本当に?僕、こう思う。センダドの月は多分他の街から見てもやっぱり小さいんだよ」

息子が月が小さい、月が小さいばかり言うので私にとってはとてもそれが不思議に思ってしまった。

「ぼくね、前聞いたんだよ。シオモのキボおじさんにさ。そしたらキボおじさんも確かにそうだなって。」

「キボおじさんがそんなふうに言ってたのか」

「うん、キボおじさんがそしたらね、冬は月だけじゃない。海も大きさが変わるらしいって。特にシオモの海は大きく変わるんだって。流れが変わって魚が驚いてみんな沖の方に行ってしまうって。あと冬場はなんだか目が寒くて開けづらくなっちゃうって。」

「本当なのかい、それは。」

「キボおじさんの言うことだよ、きっと本当だよ」

「ねえ、父ちゃん。」

「どうしたんだい。」

「あの月、やっぱり大きさが変わってるよ」

「その話はさっき聞いたじゃないか」

「違うんだよ、さっきとはまた大きさが違うんだよ。なんかね、萎れたり大きくなったりしてるんだ。たぶんね紙みたいなんだ」

「紙?」

「うん、折り紙みたいなんだよ。一才、増えるたびに大きさが折り紙って小さくなるでしょ?それときっとおんなじなんだよ」

「どういうことだい?」

「父ちゃんはきっと大人だからわかんないんだ。まわりのみんなはずーっと言ってるよ。今年の折り紙はなんか小さいって。きっと次の年もまた小さくなるんだ、って」

不思議なことを言う子だ。ジキは時折り奇妙なことを言うので私は言葉を交わすたびにどこで折り合うか中々わからないものがあった。

「ねえ、父ちゃん。」

「どうした?」

「僕も折り紙みたいに小さくなってくのかな?」




「なぁ、ヒデ。」

「どうしたの、父ちゃん。」

「父ちゃんにとってはヒデは宝石なんだよ」

「僕は生きてるよ、父ちゃん。そんなに硬くないよ。」

「あぁ、そうだな。」

紙製の月は今日も冷たいけど暖かかくて折り合いをつけていくには充分な光の加減だった。

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光沢紙の月 @shima0029

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