灰色少女と家出少女のお話

甘々猫

プロローグ

 不謹慎で褒められるようなことじゃないとは思っているけれど、私は自ら命を断つということは凄いことだと思っているし、そんな人たちを尊敬している節がある。

 私の主観では、自分で行動して何かをできる人っていうのは、それだけで無条件に『すごい人』認定されてしまうのである。これに関しては私の評価基準が甘いだけなのかもしれないけど。


 そんな私はどちらかといえばすごくない人間。

 惰性が服を着て歩いてるような、そんな奴が私である。


 状況説明を一から詳しくしているとそれだけでかなりの文字数を食ってしまうのである程度割愛させていただくが、私こと天海瑠衣あまみるいは、家庭環境がそこそこに複雑だ。


 無理やりぎゅっとまとめると『父が高校三年の冬に私ができたことによるでき婚であり、弟と妹がいて、小さな頃は父親からのDVに加え幼い私から見ても明らかな弟妹贔屓。そして小学二年生の頃に両親が離婚。その直後から私に対して優しくなり始めた父親。下二人と別れることとなったが、両親の方針で週一でお互いの家にお泊まりに行くことに。そんな中母親が再婚したが前述の制度は変わらず。私にとって戸籍上何の関係もない実母の結婚相手である義父と週一で顔を合わせることになる。そんなこんなな日々を過ごしていたら小学五年生の頃に父親が彼女を作る。しかし相変わらずお泊まり制度に変更は無く、毎週実母宅へ。そして中二の頃に父親の交際相手と顔合わせ。そこから月一くらいで家に来るようになり、無事中三の春に同棲開始。そこから半年で父親も再婚。なおお泊まり制度に変更は全く無し。高二の今もずっと続いている』という感じになる。


 なんとざっくりまとめるだけで三百文字以上。これでも詳細は省いている方だ。おそらく詳しく当時の状況だったり心境だったりを話せば七千文字くらいは行く。


 正直言って、多分きっと私は家族のことを憎んではいない。弟と妹のことはもちろん可愛いし、仲だって他の家庭よりもずっとずっといい自信がある。週一でしか会わないけれど、下二人との仲は本当にいい。

 何せいまだに弟とは一緒にお風呂に入って洗い合いっこできる仲だ。なんならお互い性欲を処理しあったことすらある。流石に挿れたりはしてない。あれは若気の至りというやつだ。今もたまにしているというのは内緒である。

 妹とも似たような関係だ。部屋に入り浸ったり膝枕してもらったり胸揉んでみたり揉まれてみたりえっちしたり。


 仲がいいというより爛れた関係って感じがしてきた。


 とにかく、私は『すごくない人』だ。

 学校はサボるし、提出物なんて重要な書類以外は出さないし、先生の話は聞かないし、後輩は食べるし、先輩には気軽に食べられるし、立派な大人にセフレはいるし。

 悪い子ぶってタバコもお酒も手を出したくせに、誰かに怒られるのを嫌って誰にもバレないように消費する。怒られることすら快感なはずなのに、怒られるのは嫌だと何かを隠す。隠しているのはあるいはバレれば怒られることができるからなのかもしれないが。

 誰かと遊ぶのは嫌いじゃないくせに、いざ誘われればめんどくさくなり途中で予定をドタキャンする。ファッションに興味がないと言いつつ、かわいいものには欲しい着てみたいという気持ちが湧いてくる。


 中途半端な人間なのだ。


 努力もしないでそこそこの結果だけを残してきた今までの人生。これからはきっとそうなるわけじゃないことはわかりきっている。でも、それがわかりきってなお、これからのために努力をすることができない。それすらも『頑張っても褒められず、それを当たり前として扱ってきた周りのせい』と他人のせいにして責任から逃げるだけ。

 そのくせ、承認欲求とプライドは高く、故にどうでも良いと口では言っている『結果』に縋り付く。テストの点数なんてどうでも良いと高得点をなんとも思わないふうを装い、得点が低ければ内心少し焦ったり、不安な気持ちに駆られる。


 もう一度言おう。私は中途半端な人間なのである。あるいは見栄っ張りな子供とも言えるだろうか。


 こうしてダイヤを把握しきっている駅のホームで、静かな線路の脇に立っていることからも、それはひしひしと感じられた。また少し、自己嫌悪に陥る。


 死ぬこともできずにただ自殺しそうな雰囲気を醸し出す。それで駅員さんに連れられたら、明らかに何かあるふうに何もないと言い張り、心配されることに喜ぶ。誰かの中に私はいるんだと実感することで、まだ生きている事を実感する。


 死にたいと思ってサボったはずなのに、生きていることに安堵し、喜びを感じ、うやむやに誤魔化した気持ちを晴らすために、セフレの家やゲーセンに行く。

 何がしたいのか、何を感じているのか、何を考えているのか、私は一体なんのつもりでこんな無意義無意味な行動を繰り返すのか。それすらも考えないようにして、単位を落とさない程度に高校に通う日々。


 そんな事をしていれば、私の父親は黙ってはいない。もちろん怒られるし、数発殴られる。

 しかしそれすらも、私が父親の中にいると認識し、承認欲求を満たすために利用し、挙句注意されたことは何も覚えていない。

 いつも怒られることなんて、何も覚えていないのだ。覚えているのは父親が私を認識し殴っている快感と、その後の父親の一時間二時間の時間を、私だけが独占しているという満足感だけだ。


 さて、これで少しは、私がいかに『すごくない人』であるか伝わったであろうか。もっとも私がすごくないところは、自分で何も大きな行動を起こせないところなのだが、伝わったであろうか。惰性の塊である事を、これを聞いているみなは理解してくれたのであろうか。

 とにかく理解した前提で話を進めよう。これ以上伸ばすと話を切り出すタイミングを見失ってしまう。


 これから話すのは、そんな私のことを認めてくれた少女と私の、爛れきった甘い関係の話だ。

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