断章 / 危憂

 不安に苛まれていた。


 叔父夫婦を失望させたらどうしよう。幼馴染だという、あの栗色の髪の子を悲しませたらどうしよう。優しくしてくれる看護師さん、ちょっと怖いお医者さん——あの人達に怖がられたらどうしよう。


 一寸先は闇、ということわざがあるが当時の私にとっては一先は闇だった。


 未来さきのことはなんにもわからない。保証がない。だから————そう、だから怖い。


 誰が? 自分が。


 だって、どう考えても自分はおかしい。普通じゃない。検査入院ということで色々と身体を調べてもらっていて、それなのになに一つ異常が見つかっていないのは、病院側の職務怠慢なんじゃないか——そんなことを言いたくなるくらいに、自分自身の認識では、異常は明白だった。


 力が異常だった。スピードが異常だった。けれどそのくらいなら、私も明日を怖がらない。


 最も恐ろしく最も顕著な異常——————————それは■■だったそんなものはない


 人を見て■■■■■だと思うそんなことは考えない■■■■と思ってしまうそんな経験はありえない


 だから、自覚はあった。私は普通の人間じゃない。きっと私は————■■■■火事場の馬鹿力を常に発揮できる特異体質なんだって。


 怖かった。ある日うっかり差し出された手■■■■■■■■■をゴリラみたいに握りつぶしてしまうのが。


 恐ろしかった。どんなに食べても決して満たされないお腹が病院食がおいしくなかっただけ。きっとそう


 飢えを満たすには、どうすればいいかは本能的にわかっていたわからない。そんなのわかりたくもない


 ■■■■■■■■私の世界に、私の認識しないものは存在しないから————。


 結局、食べたいと思うものを食べるのが一番だとこうやって目を逸らしてしまうのが一番だ


 だけど、そんなのは嫌だった長続きしないから。叔父夫婦も幼馴染も看護師さんやお医者さんも、みんな好きだったから。だから。


 ————私は命を絶つためにその夜、病室の窓から抜け出して屋上へ向かった。


 そこで、運命を変える出会いが待ち受けているとも知らず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る