序話 藍と愛で出来ている 2
全校生徒多いな。全寮制だって聞いてたけど……これは……。
五百人くらいいないか? 確かに天馬女学園はアホみたいに広いけども……よもやあの高級ホテルのような建造物、全部寮なの? ヤバくね? 海に面してて山もあって、どんだけだよ。家では全く実感したことないし、高一からバイトしてた俺だから分かるけど異様に金持ちじゃね?
「婆ちゃん、ウチって金持ちだったのか?」
「ええ、まあ。遺産分与はあんたに三十パーセント行くよう遺言残してあるから。アンタ長男だし、ほぼほぼ全部相続になるけどね」
「ええええ……」
こんなデカいものもらってもなあ。
『続いては、理事長よりお話があります』
どうぞ、と言われ、俺もついていくように手を引っ張られた。従い、壇上に出る。ほぼ全員の視線を感じつつ、落ち着かずに天井を見上げた。眩しいな、照明が。
『理事長の天馬梅子です。この度は、天馬女学園ではなく、天馬学園と名前を改名するにあたり、テストケースとして、試験的に男子生徒を一人、入れてみようという試みに至りました』
ざわついてる。そりゃそうだ、女だらけかと思ってたら野郎が来るんだもん。そりゃ警戒するよ。俺だってそうする。
『この者はあたしの孫……そう、理事長の孫が編入することになります。冬悟、挨拶なさい』
マイクを渡される。どうしろっちゅーねん。
けどここで怯むようなタマではないと、俺自身がそう認識している。
『どうも、天馬冬悟です。せっかくこんな素敵な学園に編入させて頂くからには、様々なことを学び、身に着け、胸を張って卒業できるようになりますので、皆様、よろしくお願い致します』
そう言い、頭を下げる。きっかり三秒。しんとする彼女達はどうでもいいのか、婆ちゃんは俺からマイクを取り上げた。
『どう? うちの孫好青年でしょ!? ぶっちゃけね、彼にはお嫁さんを見つけたいのよ。ほら、玉の輿よ。みんなどう? 生徒会会長、青空錦さんとかおススメなんだけどぉ、どう?』
……なんだこれは。
みんながそういう視線になっている。嫁探しのために転校してきたと。それはいい。そう思われるのは仕方がないことだ。
だけど。
「理事長ってあんななんだ……ていうかあの男顔だけじゃね?」「つーか、女子校に入ってきてる時点で下心見え見えだし。理事長なにやってんだか」「理事長、孫馬鹿って聞いてたけどここまでかよ。きっも」
何故、俺の婆ちゃんまで気持ち悪がってんだ?
俺は婆ちゃんからマイクを奪う。
『おいコラ、今婆ちゃんの陰口言ってたアホ。俺がここに編入したのも、最終的には俺の意思だ。文句あんなら俺に、今ここで、直接言って来いよ! ほら早く!』
結局沈黙が帰ってくる。
女子ってやつはみんなそうだ。
『群れてこそこそとこっちを伺って他人の評価を勝手に下しやがって! お前らの方が最低だっつーの、何様だよ! そのくせ承認欲求は高いよな、写真パシャパシャ撮りやがって。誰もお前らのことなんか気にしてねえわアホらしい自意識過剰なんだよ! 人のことを気にして後ろ指さしてるやつが一番ゲスなんだっつーの! 後、婆ちゃん!』
ビシッと指を婆ちゃんに向ける。
『俺も結婚相手くらい、婆ちゃんに斡旋されなくてもちゃんと自分で見つけられる。余計なことすんなよ! でも、この学園に呼んでくれてありがとう。学習環境としてはよさそうだし、箔も付くから』
マイクを返すと、婆ちゃんは感動しているようだった。
『あんなに小さかった冬悟ちゃんが、こんな立派にみんなに意見を言えるようになって……!』
今あなたの目の前にいる俺は身長百七十五センチなんですが、まだ小さいと思われてたんでしょうかあの。
『理事長、良いですか?』
『ああ、青空会長。どうぞ』
『では。天馬君』
壇上にやってきたのは、茶色の髪を長くした女の人だった。細身のシルエットが綺麗だ。ニコニコしていて優しそうだが、なんかわかる。この人絶対サドだ。うん、決め付け。
『貴方は単に、女子目的で編入を了承したわけではないのですよね?』
『それが?』
『信じられません。女子の目線なんてどうでもいいと、ここで証明してください』
なんだ、そんなことでいいのか。
『分かった、後悔すんなよ?』
俺は上を脱いだ。面白いように生徒会長が呆然としている。更に上のカッターシャツを脱いで、更にインナーも脱ぎ去って、下もボクサーパンツ一丁になった。メッチャ寒い。
全員が黄色いのか本気なのか分からない悲鳴交じりの声を上げる中、真っ赤になって会長が慌てている。俺はマイクを再度手に取って、彼女を睨みつけた。
『女性目的じゃないのは分かっただろ。こんなんカッコつけようと思ってもカッコつけらんないし。で? もういい? 寒いんだけど』
『では、素っ頓狂な芸をしてください』
『会長がやってくれたらやります』
『……しぇ、しぇー!』
ノリ良いな!?
しかし負けてられない。
『真っ裸ール十四世ヨハァン!』
『ぶふっ!?』
青空会長がしょうもないギャグで吹いちゃった。口元を押さえてプルプルしている。
『い、いいでしょう。確かに女子の視線なんて気にしてませんね。すみません、もう服を着て頂いて……』
『ヨハンヨハァァァァン!』
『ぷっ……! もういいから、服着て、早く……!』
何がそんなにツボだったのかはイマイチ分からないが、さっさと服を着こむ。
『皆さん。彼は女子にモテたいとは思っていないそうです。安全ですよ。攻撃的な言動も、おばあさまという身内を悪く言われたから気を悪くされたのでしょう。貴女方も、理事長を貶める発言を確かにしていた。ここはお互いが悪かったと、それで手打ちにしましょう』
いやモテはしたいけど。主眼が女性目的じゃないだけで、モテたいんだよ? いや、自分で言うのもアレだけど後の祭りだ。どうにでもなれ。
ざわめきは確かにあったが、それは概ね納得の声だった。
どうやら青空会長は信任されているらしい。それほどの言動の力を備えているのだとよく分かる。
理事長が微笑み、マイクを手に取った。
『というわけで、共学化一歩前進に向け、拍手を』
最初はまばらだったが、青空会長が拍手すると、更に全員が拍手をしてくれていた。俺は乱れた服を整え、頭を下げなおした。認めてくれるのであれば、俺も頭を下げる。
そうして、気疲れからか精神的に疲弊した俺を待ち受けていたのは、特別待遇だった。授業は明日から。夕方になるまで、俺は理事長室のソファーで寝ていた。
今後の拠点、つまりは俺の家なのだが、実家からは遠いので別に家を探す必要があった。さすがに女子生徒の群れともいえる女子寮に入寮は許されず、教員が臨時的に住まう借りの宿舎が俺の当分の住居となっているらしい。
格差はあるが、一軒家としてみるならかなり大きな方だ。広そうだし、こんなところを独り占めか。悪くない。
でもメシどうしようかな……食堂は使っていいっぽかったけど……周囲の目がやはり気になるし、何より俺の存在で周囲を困惑させるのもさすがに気が引ける。
でも最悪はお世話になるしかないのか。俺は全く料理できんし。いや、冷凍ものを解凍したり普通に切って盛り付けるくらいならできるのだが、味付けにしろ調理にしろスキルが足りていない。
その家に手をかける。あれ、開いてるや。鍵閉めてなかったのかな。渡されたカードキーが無駄になったので再びしまう。
ぷわん、と甘じょっぱいような。醤油の匂いがする。なんだろう、すごくいい匂いだ。
ドアを開け、すると予想だにしていない光景が俺を待ち構えていた。
「あ、お帰りなさい、です」
藍色の髪だ。長いそれは、照明に当てられて青く透き通る。大きいが伏せがちな瞳がこちらを捉えている。蒼い瞳に透明感のある白い肌が異国情緒を感じさせるものの、表情が希薄なせいで人形らしさを第一印象として感じた。感じたうえで、この世のものとは思えぬ美しさに、少し見惚れていた。それほどの可愛い女の子だ。胸も結構大きいし、細い身体に少しアンバランスでもある。
何でこんな可愛い子が俺の家に?
でもハッと思いいたる。
「婆ちゃん関連?」
素直に頷く彼女に、頭を抱える。そして即スマホで婆ちゃんにコール。
「繋がんねえし!」
そりゃ多忙なのは知ってるけど、でも説明しておいてくれよこの状況。
エプロンから垂れているタオルで手を拭き、彼女はゆっくりと頭を下げてきた。
「?」
「天馬冬悟様」
「様ぁ!?」
「はい。私、瑠衣と言います。有坂瑠衣です。日本人です、少し遺伝子が変わってるみたいで……こんな、容貌ですが」
「い、いや。うん。可愛いと思う」
「……どうも。貴方は、言わないんですね。人形みたいだって。私、その言葉嫌いなんです」
あぶねええええええええ! 言うところだったわ……。
「ていうか、何で君はここに? 婆ちゃんに俺の世話頼まれたとか?」
「いえ、志願です。皆の前で堂々と後ろ指さすやつは嫌い、とか、人をこそこそ笑う人とか嫌い、と……。私も、そう思います。人の容姿を貶す人、嫌いです。貴方なら……私の容姿を見ても、人形みたい、とか、作りものみたいで気持ち悪い、とか、言わないって思ったから……。それに、ほぼ裸になってましたよね」
「ありゃ勢いだ」
「でも、ありのままを見てほしい気持ちの表れ、だと思ってます。自然体で接してくれそうで……だから、理事長に頼んで、会わせてほしいって、頼み込んだんです。そうしたら、この家の事情と、家事手伝いのアルバイトとお嫁さんを募集していると聞いて……合否は、冬悟様に判断してもらうことになってます」
なるほど、よく分からん事情だ。
この子は何か自分の容姿がコンプレックスなんだろうけど、俺は正直その整った顔とか羨ましい。男子変換すると超絶イケメンになるんだろうなあ。いやこんな国宝級の美少女をイケメンにしてたまるか保護してくれ保護。
バイトなんかしたいんだ。少しお金に困っているんだろう。なるたけ力になりたいし、実力はあるようだ。美味そうな匂いがなおも漂っている。でもお嫁さんとも言ってたよな。どっちだ?
とりあえずバリバリと頭を掻きながら、彼女に向き直る。
「誰から言われたかは知んねーけど、作りものみたいで気持ち悪い? それはないわ。作り物みたいにこの世のものとは思えない可愛らしさに美しさ! なら全然共感だけど」
実際に綺麗だし。でも際立ち過ぎているのはあるか。優れたものをディスる輩は一定数どこにでも湧いて出てきやがるからな。彼女のもそれなんだろう。整い過ぎた容姿を気持ち悪いと称する。そんな陰湿さを感じられた。
当の本人は驚いているが、どうしてそんなに驚く必要があるんだろう。
「……あの、正直に言ってください。私が気持ち悪いと思うなら――」
「思わない。思うとするなら、その自分が可愛くないって思ってる性格をどうにかしてほしい」
「……私、可愛いんですか?」
「普通そうだよ。俺が見てきた中で一番可愛い。俺の太鼓判なんかいらないだろうけど押しとくわ」
「いえ、下さい。是非サイン付きで」
「著名人か!? すまんな、今サインペンと色紙を切らしてて……」
「ここに」
何で常備してんのこの子。怖いよ。
と思いながら受け取りつつさらさらとサインを描き、とりだされていた朱肉に手のひらを叩きつけて、色紙に押してみる。
「ごめん、太鼓判なかったんでこれ」
「大事にします」
「やめて!? 冗談だから! 俺が悪かったから! 悪乗りした俺が悪いんだごめん!」
「男の人から初めてのプレゼント、嬉しいです……!」
「ねえやめて!? 君の記憶の中に未来永劫自分のサイン色紙をプレゼントした勘違い男として俺名を残したくないんだよ!?」
「大丈夫です。素敵です。どんな人がいるんだろうって思ってここに来ましたが、貴方で本当によかったです」
俺は初対面の男性にサイン色紙なんてプレゼントされたくないんだけど。俺が女子なら全力でへし折ってストンピングカーニバル。
「君は変わってるな……。んで? 何がしたいの、君」
「お世話しながら、一緒に住まわせて頂きたく……」
「あはは、そーかそーかってオイちょっと待て、え!? 何!? ここ俺一人じゃないの!?」
「ご、ごめんなさい。やっぱり一人の方が……?」
「いや、全然いいんだけど……さすがにひとつ屋根の下は問題じゃね? それが原因で女子寮に俺入れなかったんだし」
「ここにアルバイトとして住まうと寮費がタダになると伺って。個人の事情でお金が苦しいので、是非」
「それが本音か!」
「四……いえ、二割くらいです」
「今四って言った!? 現実的な数値出ちゃったよ!?」
「そこは、聞き流してください。川の流れのように」
「せき止めてやる」
「ああ、私の川が……氾濫して溢れかえっていく……そして私は乗るの、ビッグウェーブと玉の輿」
「そんなこったろうと思ったよ! お前それ何割くらいだ本音!」
「一厘です。……その、友達になりたい、が六割を占めてます」
「さっきの懐事情四割くらいになっちゃった!? もっと最後まで隠せや俺傷つくだろ!?」
でも、そういうことなら話が早い。
「君は俺を利用しろ。俺も君を利用させてもらう。……家事、お願いできますか……? 俺死ぬほど苦手なんですよ……!」
彼女は意外そうに俺を見て、頷いた。
「望むところです。それに、お友達にも、なってくれるんですよね?」
「えー、どうしよっかなー」
「帰ります」
「う、嘘です! 冗談です! フレンドになろうぜ、カムカム! というか君意外とノリがいいな!?」
「皆さん、意外に私が口数多いのに毎度驚くのですが……」
うん、驚くよ。君メッチャ静かそうじゃん。無口っぽいというか、神秘的というか、ぽやんとしているというか、クールっぽいというか。様々な要素が合わさっているものの、基本的に寡黙そう、という印象に落ち着く。
「不愉快なら、静かにしています」
「いや。むしろカモン! オールナイトしようぜ、ヘイ!」
「いえ、既に眠いのでお夕飯とお風呂頂いたら寝ます」
「急にクールになるじゃねえかおい」
「あの……改めまして。住むことを、許可してくれませんか? 私、家事一般得意なんです。お役に立てます。できれば、お嫁さんにもしてほしいです」
「いきなり嫁は行き過ぎてね?」
「では、お試しでいいので。そう言う態にして頂ければ……私、この学園を多分追い出されないと思うんです」
「なんで追い出されそうなんだ?」
「成績が芳しくなくて」
なるほど、そりゃ問題だ。婆ちゃんは馬鹿なら身内以外とらない主義だし。
「でも十日経つとクーリングオフできないんだろ?」
「いえ、ここは治外法権なので」
俺が大丈夫じゃなさそうだった。いつからここはそんな危険地帯になってしまったんだい。
「まぁ、結婚に関しては、一応口だけの婚約ってことにしておこう。君はもっといろんな人に触れて、それから改めて、俺を選んでほしいから。婚約者の方が婆ちゃんからの心証はいいはずだしな。家に住む話は、全然。むしろ大歓迎! 女の子目当てじゃないけど、可愛い女の子と暮らせるなんて超絶ラッキーだし!」
「……器が大きいです」
「いやそこは感動するところじゃないから。お前結局女目当てじゃねえかこのゲス野郎! って俺を罵っていいところだから!」
「冬悟様は愉快な人ですね」
「君もかなり愉快だと思うぞ」
ダイヤモンドバリにとはいかないが愉快極まりない。
「私は、有坂瑠衣です。君、ではありません」
冗談のつもりだったのか、少し顔を赤くしている彼女に俺は微笑みを浮かべた。
「それじゃ、よろしく。有坂さん!」
そう言うと、彼女は何故か悲しそうな顔をした。
「心の壁が半端ないです……マリアの壁のようです」
「じゃあるいるいで」
「馴れ馴れし過ぎませんか?」
「心の壁が半端ねえな!? 瑠衣、でいい?」
「はい、冬悟様」
「それ禁止。俺達は、ここに住む以上対等な関係なわけ。敬語使わずに、ちゃんと冬悟って呼び捨ててくれ。その方が友達っぽいだろ?」
そう笑うと、彼女も笑う。ようやく見せてくれた微笑みは、正直時を忘れるほどに綺麗で――
「冬悟、よろしく。じゃあ、まず基本から。ご飯にする? お風呂にする? それとも……私が書いた小説120枚読む?」
「最後のが極端に重いわ! どっか適当な投稿サイトにでもあげとけ! まず飯食わせてくれ、瑠衣」
「うん、今日は肉じゃが。肉は豚肉を使ったよ。じゃがいもは新じゃが」
「わーい」
「だったらいいな」
「おおい!?」
肉じゃがと厚揚げとワカメの味噌汁、きんぴらごぼうという食事は、どれも顎が外れそうなほど美味そうだった。
そんなこんなで。
素直だけどクールでひょうきんな口だけの婚約者、有坂瑠衣との日々と一緒の日常が、幕を開けた――
「あ、あの……!」
教室。やることもないので漫画をスマホで読んでいると、目の前の席の女の子が、こっちを向いていた。小柄だ。
「と、友達に、なりたいんですけど……ダメ、ですか?」
「友達?」
いきなりの言葉に少し困惑した。昨日は遠巻きに見られるだけというチクチクと俺のガラスのハートに爪を突き立てる行為がなされていたのだが、どういう心境の変化なんだろう。
困惑していると、彼女は目に見えてテンパってしまっていた。手をわたわたさせて凄く挙動不審だ。
「え、何で疑問形……? ま、まさか、男子の間には友達って言う信頼関係がないんですか!? そ、そんな、わたしはなんてひどいことを……! こちらの当たり前を一方的に押し付けて尚且つそれを知らない他人に強要していたなんて!? わたし、最低だ……! すみません! こ、これ駅前のヌターバックスの割引券しか今咄嗟になくて……! か、カードしか他になくて……!」
さりげなく黒いカードを見せてくれるけど、え、学生の分際でブラックカードなの? 怖すぎじゃね? いやこの子名義じゃないんだろうけど。
「いや……そうではなく」
「カードの方がいいなら、カードで!」
「意味わかんねえよ!」
「やはり友達の意味が!?」
「なんでそうなる!? 友達くらい知っとるわ! おちょくってんのか!」
「ひぃぃぃ!? おちょくってません、ごめんなさい! 九十年後くらいに死にますので許して……!」
こいつ地味に100歳生きるつもりらしいな。夢があってなんか素敵やん。
「で? 君、名前なんて言うの?」
「な、名前をどう使うんですか……? ま、まさか、夜な夜なわたしの名前を付けた男性の性処理のオモチャで精を発散するとか!? じょ、上級者過ぎませんか?」
「そろそろぶちのめすぞ貴様」
「ひぃぃぃぃ!? ひぃぃぃぃっ!?」
「こらこら、椿。だーめだって、いつものネガティブじゃ」
隣にいたギャルっぽい女の子が割って入ってくれた。にこやかでいかにも軽い感じ。ピンクと水色のツートンて。すげえカラーだ。
人懐っこい笑みを浮かべつつ、彼女は軽く会釈した。
「天馬冬悟君だよね? あたしら結構興味あるんだ、あんたに。あたしは笹原朱里。この変な子は相生椿。んで、キースリットってガードマンいたじゃん? あの人の妹がそこの巨乳委員長」
「その紹介の仕方はあんまりでしょう!」
突っ込んできた。溜息を吐きつつ、斜め前の彼女も話に加わるようだった。
「ミラーナ・スミスです。兄からいい奴だと話は聞いてます。よろしくお願いしますね、冬悟君」
「よろしく、巨乳の人」
「ビンタがいいですか? グーパンがいいですか?」
にこやかに拳を握られる。ミシミシいってるんだけど。超怖い。
「暴力はやめよう!? 俺鋼のように脆いからさぁ!」
「いや無敵じゃないですか鋼なら!」
「0.01ミリくらいの」
「うっす! ペラペラじゃないですか!?」
「ミラーナさんも外国の方なのにペラペラだね、日本語」
「え、ええ。生まれも育ちもこっちなので。名前と容姿だけ西洋人みたいな感じです」
「そっか。よろしく、ミススミス! 相生さんもよろしくね。笹原さんもよろしく!」
「つ、椿でいいですよ」
「あたしは笹原って呼び捨てでよろしく。彼氏でもないやつに名前呼んでほしくない。よろしく冬悟」
お前俺を名前で呼んでるじゃねえかどういうことだよ。別にいいけど。
「ワタシもミラーナでいいですよ」
「了解、椿、笹原、巨乳の人」
無言でチョップを喰らった。微妙に痛い。手加減してくれてるんだけどなんか一撃一撃が重い。
「他に知ってる人いなさそーだもんね」
「……」
瑠衣を見たが、彼女はこちらを一瞥し、ぺこっ、と頭を下げてくる。
昨日、学校では俺達のことを吹聴しない取り決めがさだめられた。だから、俺もクラスメイト以上としては接さない方が良いだろう。
だからこそ、俺は立ち上がって、瑠衣に向かって手を差し出した。
「?」
「よろしく、婆ちゃんから話は聞いてるよ。有坂さん。友達になろう!」
「……あ」
納得したようだった。そう、学校でよそよそしくする必要はないのだ。ここで交友関係を作ってしまえば。
嬉しそうに彼女は微笑んで、小さく華奢な白い手で俺の手を握ってくる。
「よろしく、天馬君」
「冬悟でいいぜ。俺も瑠衣って呼ぶ」
「分かった」
その光景をクラスメイト達が物珍しそうに眺めているのを感じながら、俺は大袈裟に彼女の手をぶんぶんと振ってみせた。
「わ、わ……あんまり、ぶんぶんしないで」
「ごめん、なんか嬉しくてさ」
そう、これが――よく話す連中との、ファーストコンタクトだったんだ。
それからは学園のことを教わったり、授業の進行度を教わったり、逆に男女入り混じった生活がどうだったとか根掘り葉掘り聞かれることになり、そうしているうちに、クラスにそれとなく溶け込むことができて、あっという間に一週間が経ち――
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