1558年 信長の死

 槍が突き刺さった事で信長は死亡し、遺骸は清洲城に運び込まれた。


 俺は清洲城の砂利の上に縛られたうえで座らされ諸将に尋問された。


「なぜあの様な事を···信長様の元纏まりかけていた織田家はまたバラバラになるぞ」


 と丹羽長秀が俺に質問をした。


「信長様と佐助の事を野心が無いと言っていたが···そんなお前がなぜ主君殺しという悪行に手を染めたのか···信行様の挙兵といい、那古野城を佐助が乗っ取ったと聞いて皆耳を疑ったのだぞ」


 と柴田勝家も言う。


「···正直信行様は俺を優遇してくれると約束してくれたのだが、密書が届けられた時に俺の立場を考えてみてほしい。信行様が再び挙兵をする密書を俺が信長様に届けたら必ず信行様を殺す手伝いをさせられる。そして家族に手をかけた男を信長様は許すと思うか? 俺は思わない。信長の家族愛は本物だ。信行様の誘いに乗らざる得なくなった。それが答えだ」


「···主君殺しは大罪だ。しかし信長様を失った今、織田弾正家2500名を僅か500名の兵を率いて互角に戦う男を断罪する余力は無い」


 と冷静に林様が言う。


 柴田勝家様が言う。


「織田家は相次ぐ内乱でボロボロだ。一族衆も最年長が庶子の信広様という有り様だ。その信広様や信行様は他国と通じて織田家を混乱させた張本人でもある。私はとでもではないが彼らを主君とは思いたくないぞ」


 と丹羽様が言うと親衛隊の面々も頷く。


 親衛隊の面々は俺とも仲が良かった事もあり心境はとにかく複雑だろう。


 俺は縄を力づくでほどき、どかっと座り直す。


「信長様と俺はどこまで行っても相性が悪かった···それが全てだろう。で、結局俺を殺すのか殺さないのか?」


「この場にいる半数が一度は信長様に背いた者だ。我らだって信長様を合戦で殺そうとしたのだから合戦の最中に亡くなったのだ。お前の武勇を手放せる余裕は織田家には無い」


 と柴田勝家様が言う。


「信行様を担ぐ事になるのか···」


「しかし、信行様は礼儀正しく真面目であるが父君の織田信秀様や信長様の様な将としての才は劣る三河での争乱が治まれば今川や信長様が亡くなったことにより斎藤も攻撃してくるぞ」


「···」


 俺は腕を組みながら少し考え


「主君殺しの大罪を犯したのは覚悟の上だが、罪を償うために武功が必要だろう。岩倉織田家を潰してくる。那古野城に帰した兵をそのまま使わせてくれ。それで片付けてくる」


 俺はそう言うと立ち上がった。


「正直俺の決めた覚悟は罪を背負い、織田家から自立する覚悟だ。北条早雲の様に兵を借りて罪を償うために戦い続けよう。終われば三河に向かう。今川の防波堤と俺はなろう。それが織田家に対しての償いだ」


 俺を止める者は居なかった。


 那古野城の兵に慰労金を贈り、転戦で悪いが、岩倉織田家を攻めることになったことを伝えた。


 兵達に今ならば逃げ出しても罪を問わないと言ったが、兵達は俺や女房までも槍や刀で敵をなぎ倒し、最後には大将を討ち取るという離れ業をした俺に従うと言ってきた。


「大将ほどの男は居ねぇよ! 俺等はどこまでもついていきますぜ!」


 と声が上がる。








 軟禁していた人達を解放し、俺を追ってきた柴田勝家様に那古野城を明け渡し、兵を引き連れて岩倉織田家居城岩倉城即日のうちに強襲。


 織田弾正家が再び揉めているという情報からこの隙に勢力を伸ばそうと画策していた織田信賢はいきなり織田弾正家の兵が城攻めを始めた事に驚愕し、弓を射掛けるが先頭で丸太を抱えて突っ込んできた大男(佐助)が城門を破壊して城内に突入し、兵達を首も取らずに殺害し始めた事に恐怖した織田信賢は城を捨てて逃走。


 尾張守護代の岩倉織田家は半日で500に満たない兵でまさかの居城が落城するという事態が発生。


 岩倉織田家の家臣達は混乱の最中に戦死者が相次いでしまった。


 勿論攻撃側であった佐助の部隊も無事ではなく、50名ほどが戦死か再起不能の傷を負った。


 ただこれで岩倉織田家は再起不能となり、勢力はそのまま織田弾正家に吸収された。


 俺は岩倉織田家の保有していた村を与えられ、織田家から兵を借りてそのまま織田家と今川家にどっちつかずの対応をしていた寺本城を水野様と連携して落とし、1ヶ月の間に佐助は主君殺しをしながら城二つを僅かな手勢で攻め落とすという離れ業をやってのけた。


 寺本城を拠点に約2000石の領土を獲得した俺は生き残った木村出身の兵達に苗字を与えて武士に格上げし、付き従ってくれた者の階級を上げた。


 他に元信長の親衛隊の一部も俺に合流した。


 信長様を殺した俺に思う所はあるが、俺の性格と信行様の統治に俺等は必要ないだろうという判断で、前田利家、津田盛月、藤吉郎、佐々成政、毛利良勝、服部一忠等の親衛隊でも部隊長クラスや前に米油搾りに参加していた面々、親しかった者達が手伝いをしてくれることになった。


 まぁ皆次男、三男以下で家督を継げないののと、信行統治下の織田家は再び年功序列に戻る為、一旗あげるために来ていたらしいが。


 その寺本城はそのままでは使えないため、陣張り(城の建物の再配置)をやり直し、防衛拠点と言うより兵を鍛えたり、産業や行政を行う為の館として再設計し直した。


 特に目立つのは水車であり、川に沿って水車を幾つも建て、水力をもって歯車を回し、粉挽きや油搾りを行わせた。


 他には牛を集めて酪農を始めたり、チーズやバターも薬として売り出した。


 水野様に今一度挨拶を行うと


「辻鬼殿が最後に言ったあの言葉はそういう意味でしたか···わかりました。東に対して共に備えましょう」


 とおっしゃった。


 金を稼ぎつつ信長様が行おうとしていた常備兵を取り入れ、鍛えるが、金が少ないので鉄砲は揃えられなかったため、前に研究を進めていた弩を使用し、弓兵の育成に尽力した。


 とにかく最初の攻撃目標は山口親子の拠点郡だ。


 ここを落とさない限り次に進めない。


 俺は織田弾正家と水野家と合同で一斉に拠点を攻撃して、互いに援軍が送れないようにする策を考え、三河一揆が完全に沈静化する前に行動を開始するのであった。

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