1556年 部下を育てる2 砦の攻略

 毎日の様に成長痛に悩まされながらも部下の教育を毎日したおかげか元農民だった青年、少年達も体が大きく引き締まっていった。


 丸太を持ちながら素振りする姿は圧巻で、それを百回振れるようになって一人前である。


 また、四則算(商人になれるくらい)、文字の読み書き(重臣の代筆を任されるくらい)、料理(料理の基礎は全て押さえ、レシピが書けるくらい)、茶道(失礼がないレベル)をしっかりと身に着けた。


 勿論弓術、槍術、剣術もしっかりと覚え、力に頼りがちになってはいるが、実戦で十分に活躍できるくらい上達していた。(実際に山賊襲撃で皆実戦経験済み)


 教養を身に着けた筋肉達を更に鍛えている頃、信長様の方でも大きく情勢が動いていた。


 まず斎藤道三が息子の斎藤義龍に反乱を起こされ亡くなった。


 これにより信長様は大きな後ろ盾を失い、8月には信行様が信長様に反旗を翻し、激突。


 結果信長様が勝利したらしいが信長様と信行様の母親が仲裁して反乱は沈静化したものの、互いに判物と証文はまだ繰り返しており、信行様を支持する家臣も多い。


 負けたと言っても柴田勝家が信長様と信行様の争いは織田家弱体化に繋がると戦いの最中に撤退してしまった事が原因であり、信行様の不手際は一切無かったのが原因である。


 事実信行様はこの戦いで信長様の倍を超える兵を集められていたので、人望の厚さが良く分かる。


 織田家が混乱している最中、北の斎藤家は斎藤義龍が斎藤道三方だった勢力を整理していたので動けず、東の今川家は三河で大規模な国人一揆が発生し、尾張付近の今川勢力との連携が遮断されていた。


 今川家はこの一揆に対応するために兵を送っていたが規模が大きすぎて沈静化には数年を有するだろうと行商人から話を聞いた。


 俺は鍛えるのも良いが、武功の一つでも挙げてないと信行様に石材を売った商人の一部が罰せられていたので、部下達に水野家攻略の為に作られて少数の兵を置いて放置されている砦を攻略する事を告げた。


「補給部隊を襲うのとはわけが違うのではありませんか?」


「確かに違うが、石材が反乱を起こした信行様が多く買われていた為に理不尽な罰を再び信長様が言うかもしれない。そこでその砦を攻略し、水野様に譲り渡すことで武功と失態の相殺を行おうと言うことだ」


「なるほど、我々も再び村人同士がいがみ合うのは嫌なので協力しますぜ大将!」


「ああ、任せろ。まず作戦は···」


 俺の立てた作戦は二手に分かれ、今川家の補給部隊から奪っていた鎧を着込んで補給部隊を襲い、補給物資をそのまま砦に潜入し、砦を内側から攻撃するというもので、水野様に夜に夜襲をする際に扉を開けて、外側からも攻撃してもらい制圧するというものだ。


 砦の扉を夜に開くことができれば勝ちである。


 問題点も多いが、補給部隊が定期的に俺達に襲われているのが、水野家の嫌がらせと思われているらしく、俺達の事はバレていないことは確認済みである。


 あとは鳴海城の山口教継(山口親子の父親の方)の命令書を前補給部隊を襲った時に手に入れていたので、偽の命令書を筆質の似た部下に書かせた。


 そして先行して調べてくれていた白右衛門から補給物資の運搬日を把握できたので、水野様と話し合わせて作戦を開始した。









 まず補給部隊を襲うのは簡単であった。


 今川家は三河の一揆で人員を送ることができなくなっているので、尾張の今川勢だけで兵や物資のやり取りをしなければならない。


 でこの補給部隊も100人の兵が守っていたが、弓を射掛けて部隊長と思われる人物を殺して混乱しているところを襲撃した。


 混乱しているのもあってあっという間に物資の強奪は完了し、部下達と物資を砦に持っていった。


「兵糧の運搬に参った! 門を開けてくれ!」


 と門番に言うと、門番はずいぶんと数が少ないようだし、補給部隊を束ねる隊長が居ないと突っ込んだが、野盗の襲撃を受けて隊長は亡くなった。


 野盗の撃退には成功したが、多くの犠牲者が出てしまったし、三河の一揆で物資の運搬量が限られているからと必死に運んできたと言い、隊長だった者の首と山口教継の命令書に似せた偽書を門番に見せた。


「···確かに山口様からの命令書···疑って悪かったな。今門を開ける」


 と砦の中に入り、兵糧や武器を蔵に運び込む。


 砦の主から感謝され、酒樽があるので今夜は飲もうと兵達は盛り上がっていた。


 俺の部下達は休んだり、酒宴に参加したり、門番を代わったりし、夜を待ち、酒宴により寝静まった頃合いに部下を集めて門を開け、外に待機していた赤座、青座に織田家の旗を持ち込ませて旗を掲げ、火を焚いた。


 善財と白右衛門が水野勢に連絡し、俺達が脱出した頃に水野の兵が砦に突入した。


 酒宴により油断していた為に襲撃の対応に遅れたことで、砦の兵はろくに抵抗できずに殺され、砦は一刻も経たずに陥落した。


「辻鬼殿、危険な役回りを見事成し遂げてくれた事、水野信元感謝の極み」


 と水野様からも褒められ、感謝状を贈られた。








 水野様から感謝状が贈られた数日後、信長様からもよく水野を助けたと感謝状が贈られ、更に励めと書かれていた。


 親衛隊の面々も次々に出世し、織田家は成長を続けていた。


 まぁ空気の読まない馬鹿(信長の姉の織田信広)が反乱を起こそうとして失敗して土下座するという珍事が起こったりもしたが比較的平穏な日々が続いた。


 俺の方も子作りに励み、部下達の嫁探しに奔走したりもしたが、大きな事件も無く、時間が過ぎていった。

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